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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
オブライアン原作4巻、7月下旬に邦訳新刊

夏頃と言われていたオブライアンの4巻、ハヤカワNVから7月下旬の発売が決まりました。

7月下旬 ハヤカワ文庫NV
『攻略せよ、要衝モーリシャス(上・下)』
英国海軍の雄ジャック・オーブリー
 パトリック・オブライアン/高津幸枝訳

仏領モーリシャスを攻略せよ、とありますから、間違いなく4巻にあたる「The Maurtius Command」の翻訳でしょう。
早川書房のHPの「新刊予定7月」で確認できます。

早川7月の新刊といえば、ハードカバーですがこれも面白そうですね。

7月中旬 ハヤカワ・ノンフィクション
『世界を変えた地図−ウィリアム・スミスと地質学の誕生−』
サイモン・ウィンチェスター/野中邦子訳
19世紀初頭の英国、世界初の地質図を作り近代科学に夜明けをも
らしたのは、低い出自のため科学界から冷遇された男だった。自ら
も地質学を愛する作家が、情熱豊かに再現した類稀な人間ドラマ。

19世紀の初頭の王立協会(ロイヤル・ソサエティ)のトップは、出自や国籍に偏見のないサー・ジョセフ・バンクスで、だからこそマチュリンのような出自でも受け入れてもらえた(=という設定の小説が許された)のだろうと英国版の解説で読んだことがあるのですが、スミス氏の冷遇のもとはいったい何だったのか?
同じ時代だけに興味があったりします。

それにしても、7月後半って何か私たちに含むところがあるのでしょうかねぇ?
M&CのDVDに、ホーンブロワーのDVDに、M&Cの小説。

それから、なんとリドリー・スコットの海洋映画「白い嵐」のDVDが、やはり7月23日に出てしまうとのことです。
ジェフ・ブリッジス演じるシェルダン船長は、12人の少年たちと
アルバトロス号というヨットでガラパゴス島へ8ヶ月の航海訓練
に乗り出すが、帰路彼らは伝説の巨大な嵐ホワイト・スコール
に巻き込まれてしまう…という物語です。1996年アメリカ映画。

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先日、「茶碗蒸し」のつくり方を外国人に送る必要が生じて、茶碗蒸しって火加減が微妙だから大丈夫かしら?と思いながら、英語のレシピを送りました。
まぁカスタード・プディングが作れる人なら、茶碗蒸しも大丈夫だと思いますが。

そしてそのとき突然、ジャックが妙なことを言っていたのを思い出したのでした。
アケロン号を追いかける側にまわってから、候補生たちに3回まわれって言う直前のところ。

「Don't count your eggs before they're in the pudding」
プディングに入れる前に卵を数えるな。

こんな英語って…ないですよね?

Don't count your chickens before they're hatched.
卵が孵化する前に雛鳥の数を数えるな=捕らぬ狸の皮算用
っていうのなら知ってますけど。

目玉焼きを作る前に卵を数えるな…これなら有りですか? 目玉の数を数えれば良い。
それともキリックの作るプディングは、卵を割りほぐさないのでしょうか?
誰が教えてくださいませ。

ちなみに、こういうことわざはあるそうです。
You can't make omelets without breaking eggs.
卵を割らずにオムレツを作ることはできない。
意味は、何かをしようと思ったら、それに付随するトラブルは引き受けること…だそうです。


ところで私、ジャックの好物の「豚の頭の塩漬け」のレシピは持ってるんですけど。
これここでご紹介したものか…?
「豚の頭」ってようするに「豚の生首」のことなので。読んでいると「うげげ…」というレシピなんでございますが。
どういたしましょう?


2004年05月30日(日)
大阪、横浜 「M&C」再映情報

今週末から、来週にかけて、大阪と横浜で「M&C」の再映があるようです。

■大阪:新世界国際劇場
フランスの軍船を捕獲せよ!老練艦長と幼い少年兵に託された過酷な任務・・・ 荒れまくる大海原で、生死を賭けた闘いが今、始まる!話題の冒険アクション!   
「マスター・アンド・コマンダー」

上映期間:6月2日(水)〜8日(火)
上映時刻:1:20pm 7:20pm 1:20am
「シェイド」「バレット・モンク」との3本立て 

大阪市浪速区恵美須東2-1-32  TEL:06-6641-5931
地下鉄堺筋線or阪堺電軌阪堺線 「恵美須町駅」から徒歩3分
地下鉄御堂筋線or地下鉄堺筋線 「動物園前」から徒歩5分
JR大阪環状線(or大和路線、南海本線、南海高野線) 「新今宮駅」から徒歩8分
阪堺電軌阪堺線 「南霞町」から徒歩8分

■横浜:横浜日劇
名艦長&ベテラン刑事!若造どもを叩きあげろ2本立!
『マスター・アンド・コマンダー』&『ハリウッド的殺人事件』

上映期間:5月29日(土)〜6月11日(金)
上映時間:『マスター・アンド・コマンダー』10:30/15:00/19:30
       『ハリウッド的殺人事件』13:00/17:30

神奈川県横浜市中区若葉町3-50 TEL:045-251-1815
京浜急行黄金町駅下車5分、改札出て右折、末吉町4丁目交差点左折、直進200m左手
市営地下鉄阪東橋駅下車7分、3B出口交差点右折、末吉町4丁目交差点右折、直進200m左手


なんかキャッチコピーが…、微妙にちょっと違うような(苦笑)。
横浜は今度の週末、開港祭ですから、M&C+日本丸というのも良いかもしれません。

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「M&C封切までに9巻まで読む!」ために放置され、積ん読になっていた和書を少しずつ崩しています。
今読んでいるのは、昨年夏のハヤカワNF新刊「蘭に魅せられた男」。
この本は、昨年夏公開の映画「アダプテーション」のきっかけになった(原作ではない)本。映画とは殆ど関係が無いのですが、ジャンルとして面白そうだから買っておいたのでした。

雑誌ニューヨーカーの記者スーザン・オーリアンが、フロリダに住む「蘭に魅せられた人々」を取材して書いたノンフィクション。
その一部分が映画になり、オーリアン記者をメリル・ストリープが、取材対象の蘭マニアの男ジョン・ラロシュをクリス・クーパーが演じて、クーパーはこの役が評価され、アカデミー助演男優賞を受賞しています。

ひとことで言えば、とんでもない蘭マニアたちの世界…でしょうか?
軽く1万ドルを越す蘭の数々。貴重種の蘭を守るために、最新鋭のセキュリティ・システムを導入した温室。フロリダの湿地に年に数日しか咲かない幽霊ランを見るために、自然保護官に毎日電話で問い合わせ、咲いたと知るや即日飛行機でやってくる人々…などなど。

クーパー演じたジョン・ラロシュも現代の、常軌を逸したマニアですが、珍しい蘭探しに命を賭けるというのは今に始まったことではありません。ビクトリア朝時代の英国では、世界の果てに咲く珍しい蘭の収集が、アングロサクソン的冒険心と結びついて大ブームとなり、南米やアフリカのジャングルでは数多くの蘭ハンターが命を落としていきました。

絶滅危惧種保護という法律の網が張り巡らされた現代とて、蘭マニアたちの収集熱が衰えることはなく、フロリダは違法ラン密輸の舞台に。
でも密輸されるのはランだけはないのです。

(以下引用)
たとえば1996年には、マイアミ経由で合計70万匹のイグアナが合衆国に密輸された。…(中略)…最近マイアミの税関では、ブラウスの中に隠して稀少なヨウモウザルを持ち込もうとした女性、生きたカメを詰め込んだぬいぐるみのテディベアを持っていた男性、シャツの下に生きたボア・コンストリクター(大蛇)を入れていた男性、などが逮捕されている。
テナガザルを胴体に抱きつかせ、その上にごくゆったりとしたシャツを着てふくらみを隠して密輸しようとした男も逮捕された。検査官は、ミルク容器に隠されたタカ、ヘアカーラーに押し込まれた小型インコ、といったものを摘発している。
(引用おわり)

いやその、ビクトリア時代の蘭ハンターたちにもなのですが、これにも何か既視感を感じるなあ…と。
「彼」が現代に生きていたら、やはりクーパーのラロシュみたいになるんでしょうか。
でも現代の蘭マニアたち、蘭の栽培を趣味としながらも本業でも立派な業績を築いている方が多いそうです。日本のウィルス研究者にして蘭マニアでもある医学博士なども紹介されているのでした。


2004年05月27日(木)
ハリウッドのUK(便宜上)俳優

映画専門誌「FLIX」7月号を買いました。表紙はオーランド・ブルーム。
特集が「ハリウッドに進出するUK俳優を徹底チェック」

ポール・ベタニーとジェームズ・ダーシーが取り上げられています。
ダーシーは6月下旬から、ミニシアターで主演作品「ドット・ジ・アイ」が公開されるようです。
東京は渋谷のシネ・セゾンらしいですが、詳しいことは来月かしら?

ところでこの特集、UK俳優といいながらアイルランドがしっかり入っています。便宜上UKなのだそうです(あ〜らら、スティーブンが聞いたら怒りそう)。
そのうえ何故かヒュー・グラントがいないんですけど、どうして?
ヨアンが入ってないけど…夏前ですから仕方ありませんか?

この特集、編集部独断と偏見のUK度評価(いかにもイギリス人らしさ)というのが出ているのですが、ベタニーはAで、ダーシーはA+というのが苦笑ものです。要するに二人とも「とっても英国人」というかアメリカ人になりにくい…というか。
A+をもらっている俳優さんは他に2人、コリン・ファースとピーター・オトゥールですから、まぁ…。



ところで「コールド・マウンテン」に行ってきました。
原作をきっちり追っているにもかかわらず、原作スピリットからかけはなれてしまった不思議な映画…という感想です。
以下多少のねたばれを含みます。

私にとって「コールド・マウンテン」の原作は、忙しい現代生活への癒しでした。
これが癒しだと言ったら、おそらく映画だけをご覧になった方はびっくりされるでしょうね。
この物語の何処がいったい癒しなんだ!…って。

映画の「コールド・マウンテン」は戦争というものが如何に、銃後の村を含めて人の心を荒廃させるか…の物語。
原作の「コールド・マウンテン」はそのような状況の中でも、大地に根付いて自らのペースでたくましく生きていく人々の物語でしょうか?
体と心に傷を負ったインマンは、長い長い故郷への旅の間に、大自然の力で癒されていきます。
故郷で待つエイダは、大地の娘ルビーの、それこそ地に足のついた、どこまでも前向きなエネルギーを受けて、前向きに生きていく力を得ていきます。それが原作の姿ではないかと。

映画化されたエイダとルビーの物語は、レニー・ゼルウィガーの熱演もあって、前向きの説得力があるのですが、インマンの物語は物語構成のせいで後向きに働いてしまう。ほんとうは各エピソードの間に長い時間があって、時間そのものがインマンを癒すのに、映画では全てのエピソードを原作通りに詰め込んだおかげで、癒しの時間がなくて次から次へと非道い目に遭っていく…ような展開になってしまっています。
あれでは癒しどころかボロボロになって帰郷してもおかしくはないんじゃないかしら?

この改編を、おそらくミンゲラ監督は意図的にやっているのだと思います。
監督が訴えたかったのは、おそらく、戦争がいかに普通の人の心を荒廃させるか…なのでしょう。
その意味ではテーマ性は鮮やかに出ていると思いますが、でもそれはたぶん、大地に根付いた人々の素朴な暮らしとたくましさ…という原作スピリットからは、かなり離れてしまったのではないでしょうか。
渡し船の少女のエピソードと、未亡人セーラのエピソードは、一部が原作とは変わっていますが、あの二カ所を変えたことで全体のトーンとメッセージはがらっと変わってしまったと思います。
また隣人のエピソードの元になる話も、原作では伝聞ですが、映画では阿鼻叫喚をそのまま見せてしまいましたものね。
その意味では映像の力ってすごいものがあると思うんですけど。

でもあのカラスのエピソードは伏線として凄いなぁと思いました。とても綺麗な映像だったし。

この映画、宣伝に偽りありとまでは言わないけど、宣伝を鵜呑みにして「風と共に去りぬ」並みのラブ・ストーリーを期待していくと、肩すかしをくらうかもしれません。
当代きっての美男美女ジュード・ロウ+ニコール・キッドマン、+「イングリッシュ・ペイシェント」のアンソニー・ミンゲラから予想される胸の痛くなるような大ロマン…ではなくて、とてもしっとりとした地味で情感のあるラブ・ストーリーです。

追記:ドナルド・サザランドの目が相変わらずだったのが、妙に嬉しかったです(笑)。でもアクがなさすぎて、三國連太郎演じる善良な老人を見ているような違和感が…。


2004年05月24日(月)
Just go straight at 'em 原書読み(その2)実践編

原書の読み方(その2)は実践編です。
今回のタイトルにした「just go straight at 'em」は、映画M&Cの艦長室でのディナーの際にジャックが紹介したネルソンの言葉。
正確には「Never mind the manoeuvres, just go straight at 'em」細かい戦略など気にせず、突き進め!…というような意味。

英語の原書を読み通すコツは、
「Never mind a single word, just go straight at 'em」
単語の意味がわからないと言って立ち止まらず、とにかく読み進んで行け!

これは私見ではなくって、私が一番最初のペーパーバックを読んでいる時に目にした雑誌の、「ペーパーバックを読んでみよう!」特集に載っていたアドバイスです(あ…この雑誌がネルソンの言葉を引いていたわけではありませんよ)。

最近ちょっと大きな本屋さんの洋書売り場に行くと、「英語でハリーポッターを読むための本」というのが出ています。
各章ごとに単語や熟語の意味が細かく解説してある参考書、まるでなつかしの「教科書ガイド」みたいな本。
…教科書ガイドっておわかりです? これって特定年代にしかわからない言葉かしら? 今でもあるのでしょうか?
教科書ガイドは、主要な教科書にぴったり準拠して、単語の意味やらポイントやらを事細かに解説してくれる参考書。これ1冊持っていると英語や古文の予習に辞書を引く必要が全くない(どころかまったく予習の必要もない)という、怠け者の学生にはありがたいが、たぶん先生は眉をひそめていただろう…参考書のことです。

この「ハリーポッターを読むための本」確かに、ハリーポッターで「英語を勉強しよう」という人のためには、大変参考になる本です。単語や熟語が使用例とともに紹介されていますから、実際の文章の中でどのように使われているのか大変よくわかる。知識が増え単語や熟語も覚えられて、英語の成績upは必定です。
でもこれ、英語で「小説を読みたい」人の参考になるか…というと、ちょっと?な部分が。

日本語で小説を読む時のことを考えてみてください。二度目、三度目はともかくも、最初に読む時は私たちはストーリーを追っているのであって、文章を読んでいるわけではありません。司馬遼太郎など読んでいると、たまに現代人に馴染みのない漢語なども出てきますが、だからといってそこでいちいち漢和辞典を引いたりはしないでしょう?

英語も同じです。いちいちわからない単語を全部調べていたら、3ヶ月で読み終わる筈の本に1年半はかかります。人間そんなに長く根気は続きませんから、絶対に途中で挫折します。
いやそれ以前に先が知りたくってイライラするのではないかしら?

そこで、「単語の意味がわからないと言って立ち止まらず、とにかく読み進んで行け!」
というわけです。
そんな無茶な…とお思いでしょう? 確かに無茶です。私もこれで、失敗をいくつもしています。
たとえば、人が死んでいたのに気づかなかった…とか、死んだと思っていた人が実は生きていた(笑)…とか。

でもこれは結局、どちらのweevil(コクゾウムシ)を選ぶか…と同じ選択で、私は、多少無茶でもとにかく最後まで読み通す方が良い…と思っているのです。
最後まで通しで読んだら、あとはいくらでも前の章に戻って、詳しく知りたい部分だけじっくり辞書を引いてみてください。それからでも遅くはありません。

ただし読んでいる最中で、どうしても鍵になるような単語が出てくることがあります。
たとえばオブライアンの3巻「特命航海、嵐のインド洋」を読んでいた時のこと、スティーブンが深刻そうにscurvyを心配し、ジャックと議論になるエピソードがありました。これはscurvyが何だかわからないと話のポイントがわかりません。
私はたいてい通勤電車で英語の本を読んでますが、こういう時にそなえて、ハンドバックの中には常に様々な色の付箋紙と、小さなノートが入ってます。
とりあえず電車の中ではscurvyのところに付箋紙をたててページがわかるようにし、家に帰ってから辞書を引きました…すると「scurvy=壊血病」とあって、あぁなるほどな…と。
でも私も1回で英単語を覚えきれるほど記憶力がよくありませんから、その結果を小さなノートにメモしておくわけです。それから付箋紙をはずします。

この小さなメモ・ノートを、私は「本の航海日誌」と呼んでます。
後で役立ちそうな情報をメモして残しておくのです。
日本語の本だと、「あれ?この人誰だったかしら?」とか「この人とジャックとの過去のいきさつはどうなっていたかしら?」と思った時に、前の章の該当箇所をすぐに探せるのですが、英語の場合それは非常に難しい。そこで、後で困らないようにこのノートにメモしておいて、必要な時にはハンドバックからさっと取り出して、ふむふむ…と。

また海洋小説の場合、やたら登場人物が多いので、名前を覚え切れません。そんな時にもこの「本の航海日誌」は大活躍。
最初に登場した時にメモをとり、その人の特徴とかも記しておきます。
3巻のメモをたどってみると、Mr. Herveyの項には「副長、まるっこい、近視、骨の髄まで海の男」、Mr.Stanhopeは「外交使節、H.E.とも呼ばれる、いいひと、船酔い」…けっこう笑えますね。

そういえばこのメモ、日本語で海洋小説を読む時にも作っておくことをおすすめします。
え?文庫の場合、登場人物一覧があるって? だめだめ。これが実は大ネタバレのもと。
日本語訳の文庫を読む時に、もし本当にネタバレがお嫌なら、絶対に「登場人物一覧」は見ないこと!です。
とくに年代記風の海洋小説の場合、思わぬ時に思わぬ人が再登場して「びっくり!」が結構あるのですが、最初に「登場人物一覧」を見てしまうと、しっかり再登場人物まで入ってますから、まったく「びっくり!」できません。

さしあたってのネタバレ警報は、次に日本語訳が出る予定のオーブリー&マチュリン4巻、最もネタバレが悲しかったのはボライソーの15巻。これからこれらの本を読まれる方は、絶対に最初に「登場人物一覧」をご覧になりませんように。

話し戻って「本の航海日誌」
私はここに、このエピソードが好き!とか、簡単な感想、印象に残ったセリフなども書き入れてます。
「Jack! You have debauched my sloth!」…このセリフをわざわざメモしていた私って…。

「This is my country」これはダイアナのセリフ。thisはインドのことです。ダイアナらしいなぁと思ってメモしてしまいました。
このとき思い出したのは、満州育ちの人はスケールが大きいとか昔から日本でも言われている海外育ちの人の評価。ダイアナってたぶん、当時のイングランド人のスケールにはずれた女性だったのではないかと。彼女は寒くて霧の多いイングランド女性ではなくて、極彩色でエネルギッシュなインドの女。それが彼女の魅力だと思うのですが。

いけない。話しが脱線している。
まぁ「本の航海日誌」の利用法は人それぞれだと思います。
わざわざメモをとるなんて面倒くさい…という方は、ずばり「ピーター・ウィアー方式」で代用することもできます。
これはDVDのメイキングで紹介されているのですが、ウィアー監督は脚本執筆にあたって、全20巻を丁寧に読み、エピソードごとに山のような付箋を立てていきました。本からはみ出した部分に「ジャックとスティーブンの議論」とか「愛国心について」とかテーマが書いてあり、各エピソードを簡単に探せるようになっています。
この方法なら比較的簡単に、メモを残すことができるでしょう。

話しを「scurvy」まで戻しましょう。
意味のわからない単語について、通常の辞書で引いても良いのですが、海洋モノには特殊な専門用語があり、一般の辞書だけではカバーしきれないことがままあります。
読者に対して手加減をせず、当時そのままの言葉や専門用語、ラテン語やフランス語を使いまくるパトリック・オブライアンの場合は、一般の辞書だけでは役に立たないことが多いのです。

これで困ったのは外国人だけではないようです。古い単語や専門用語に慣れていないアメリカ人も、オブライアンには手を焼いたようで、このような参考図書が別個に編集されました。
「Sea of Words」
パトリック・オブライアンを読むための辞書(その1)です。
調べようとした単語が専門用語くさかったら、一般辞書を引く前にこれを引いてみた方が良いと思います。
ネット上では専門家向けの本格的海事用語専門辞書などもありますが、こちらはあまりに専門的すぎるので、小説だけを読むのなら「Sea of Words」で十分…というか、むしろこれをおすすめします。1冊持っていると他の海洋小説にも使えるのでお得です。

また、突如マチュリンが口にするラテン語やフランス語やカタロニア語、カスティリア語やポルトガル語その他もろもろ…については、ネット上にこんな便利なホームページがあります。オブライアンを読むための辞書(その2)ですね。
「オーブリー&マチュリンを読むための英語以外の言語辞書」
管理人のブラウン氏は>10月29日の日記でご紹介した「百科事典」の著者でもあります。


付録として、おそらく今読んでいらっしゃる方がいちばん多いと思われるオーブリー&マチュリンの4巻について、簡単な水先案内をつけてみることにしました。
原則、ねたバレはありません。
長い距離を旅する者にとっては、先の道程がいったいどのようになっているのか、大まかなところを知りたいものです。
あと何kmくらい歩かなければならないのか? どこでひとやすみ出来るのか? 越さなければならない山の高さはどの程度か? このようなことが前もってわかっていると、ペース配分がしやすいかなぁ?と。

やっぱり海戦はハードだから、連チャンすると疲れます。知らずに次の章に入ってしまい次の海戦が始まってしまって、もう疲れて寝たいのに、主人公がピンチで心配で寝られなくって、日本語だったら1時間で読めるのに、英語だから時間がかかって、「寝たい〜、寝たい〜」と言いながら夜半直まで泣きながら勤務(読書)を続ける羽目になる…とか(そんなの私だけ?)。
こんな水先案内があれば、覚悟の上で危険水域に入れるかなぁ…と思った次第です。

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原作4巻「The Mauritius Command」
(各巻のページ数は、英国ハーパーコリンズ社版のペーパーバック1996年版によります)
全10章構成 334ページ

第1章:プロローグ部分、陸の上、全37ページ
  今回の舞台となるアフリカ沖のモーリシャス島の歴史的経緯について、メモしておくと後で便利。

第2章:出航。航海中に今回の基本設定(艦と登場人物)が明らかになる。全29ページ
  ジャックの艦と登場人物(新しい部下たち)をメモ。
  重要な脇キャラとなるクロンフォート卿とジャックの過去のいきさつについても忘れずにメモ。

第3章;南アフリカ・サイモンタウン到着。現地で合流する登場人物と艦が紹介される。全40ページ
  各艦の艦名と艦長名はすぐに取り出せるように付箋紙に書き出して貼っておくことをおすすめします。

第4章:最初の作戦行動 全40ページ
  この作戦は一章完結。

第5章:2回目の作戦行動 全37ページ
  この作戦も一章完結。

第6章:3回目の作戦行動(その1) 36ページ
第7章:3回目の作戦行動(その2) 37ページ
第8章:3回目の作戦行動(その3) 22ページ
  この作戦は3章にわたって続くかなり長いもの。
  6章終了時にひと休みはあるが、7章と8章は連続していると考えた方が良い。
  7章と8章はハードな海戦続き。
  でも印象的なエピソードがいろいろあって心に染みます。

第9章:4回目の作戦行動 30ページ
  作戦そのものは一章完結。

第10章:最後の決戦とエピローグ 26ページ

だらだらと進行して最後までヤマをはずした3巻(特命航海 嵐のインド洋)と比べると、同じ作者か?と思われるほど起承転結がはっきりした、緩急のある娯楽小説に仕上がっています。
私はオブライアンを、まだ前半の10冊しか読んでいませんが、その中では一番素晴らしい小説だと思います。

波瀾万丈なストーリーだけではなく、脇キャラであるクロンフォート卿、ピム艦長、コーベット艦長、軍医のマカダム、陸軍のキーティング中佐(私、この人のファンです)、外交官ミスタ・ファーカーが、それぞれに個性的で魅力的。ジャックは今までの中でもっとも大人で頼もしいですし、諜報員スティーブン・マチュリンは大活躍(これが近現代なら、彼はきっと大佐待遇の情報将校なのでしょう)。
苦労して読んでも損はしない1冊だと思います。

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最後に、BBSのご紹介。
オーブリー&マチュリン・シリーズのホームページを作っていらっしゃるKumikoさんのところに「原作読み応援BBS」が出来ました。
トップページから「掲示板使用上の注意」経由で、お入りください。
注意書きにもある通り、BBSの扉を叩く前にできるだけ自力で調べてみて、わからない時のみご利用くださいね。
よろしくお願いいたします。


2004年05月23日(日)
原書で読む海洋小説(その1)入門編

「海洋小説を英語で読むなら何が良いですか?」というお尋ねをいただきました。
うーん、何が良いかしら? むかし初めて読んだ海洋小説を思い出しながら、いろいろ考えてみました。

葉山さんは英語使えるから…って言われるかもしれませんが、私は英文科でも西洋史専攻でもなく、今使っている英語は全て、就職後に必要に応じて勉強しなおしたものです。
私が最初に勤めたところは、時々国際電話のかかってくるオフィスで、大学受験終了以来英語とご無沙汰だった私は、当然おろおろ。
これじゃぁまずいと思って、就職後半年が経過した秋から、英会話学校なるものに通い始めました。
そうなると、小説の主人公たちの交わす会話が、英語では実際に何と言っているのか気になるものでして、私はお気に入りの小説の幾つかをペーパーバックで買って、日本語訳と英語原文の会話を比較するという遊びを始めたのです。
でも、もちろん1冊全部読むなんて大それたことは考えませんでした。既にに翻訳の出ている本を買ってましたから、全部読む必要もありませんでしたし。

そんなある日、忘れもしない渋谷の三省堂書店で、私は1年以上続刊の出ていなかったアレクサンダー・ケントのボライソー7巻「Passage to Mutiny(反逆の南太平洋)」のペーパーバックを見つけてしまいました。
その時の私の英語レベルは、高校卒業+英会話学校1ヶ月。
お遊びの拾い読みではないし、大人向けのペーパーバック1冊なんて読み切れないだろうと自分でも思っていました。
でも1年待っても新刊は出ないし、先は読みたい。そして読みたい先の物語は、英語だけど今、目の前にある。
どうしても先が知りたくて、これを諦めることは出来なくて、駄目もとでそのペーパーバックを買いました。
読み切れっこないだろうと思いながらページを少しずつくっていきました。
ところがこの7巻、ストーリーが波瀾万丈で、もっとハッキリ言ってしまえば主人公たちがどうなるか心配で心配で、止まらなくなってしまったんです。
最終ページにたどりつくまでに3ヶ月かかりましたが、とにもかくにも1冊読破してしまいました。

私にも英語の本が読めるんだ。自分でもびっくりしました。
でも考えてみればこれって、専門用語を別にすれば、高校時代に読まされていたリーダーに比べても、格段に難しいというわけでは無いんですよね。ただ分量がやたら多くて、教科書5冊分くらいはあるだけの話しで。

結論:
ふつうのペーパーバックは、高校のリーダーの教科書と同じ。あとは最後まで読み切るだけの情熱さえあれば良い。

あとは如何に、情熱を持って読める本を探すかだと思います。
私見ですが、ペーパーバックを選ぶポイントは以下の3つではないかと思います。

1)ストーリーが面白い(波瀾万丈)なこと。中だるみがなく、2〜3章ごとに山があって読者を飽きさせない作品。

2)お気に入りのキャラクターが登場する。または既翻訳作品でお馴染みのキャラクターが登場する作品。

3)読みやすい作品:文章があまり複雑ではない。ほどよく会話があること。

どうしても読み切る!という固い決意をしていらっしゃる方の場合は、
4)まだ日本語訳されていない、または翻訳本が絶版または在庫切れの作品。
を選んで自分を追い込む方法もありますが…。

この点から見ると、どの作品も一長一短です。
例えばC.S.フォレスターの「ホーンブロワー」は、端麗な英文がおすすめではありますが、原作では主人公が常に、延々と、暗く悩んで心配ばかりしています。それがお好きな方は構いませんが、初めてのペーパーバックで、英語であの悩みに何週間も付き合うのは、ちとごめんこうむりたい。
A.ケントのボライソーも、リチャードが主人公だった頃は良かったけど、25巻以降の主人公である甥のアダムは、どうも暗くってうだうだ悩むばかりで、ついどやしつけてやりたくなっちゃうんです(笑)。

P.オブライアンは、3)で問題あり。ほどよく会話はあるけれど、文章が複雑すぎ。会話が高尚すぎ。ついでにマチュリンの皮肉はひねりすぎでさっぱりわからん。
関係代名詞とセミコロンで一文10行とか平気で続きますので、読んでいるうちに、whichの先行詞が何だったかわからなくなります。
オブライアンには突然ラテン語が出てきて困りますが、D.ポープのラミジには突然イタリア語が、D.ラムディンのアランにはインディアン語が英文訳なしで登場します。

ま、ですから最終的には皆さんが何をより重んじるかだけだと思います。
「マチュリンが好き。たとえ突然わけのわからぬラテン語をしゃべりだしても、さっぱりわからない皮肉を言われても、とにかく彼の活躍を読みたい!」方なら、迷わずオブライアンを読まれれば良いでしょう。
情熱は往々にして、英文法を蹴飛ばして突き進むものです(いや、ホントよ)。

でもそういうわけですから、前もって日本語訳を最低1〜2冊読み、キャラクターに慣れていることが必要だと思います。
全く知り合いの居ない外国を旅行するのと、知っている人がいる国を旅行するのとでは楽さが違うのです。
そして知り合いは出来るだけ多い方が良い。私が初めて読破したボライソー7巻の場合は、主人公リチャード・ボライソーと艇長オールデーの他に、5巻から引きつづきの副長ヘリックと三等海尉のキーンがいてくれたことが、ずいぶん助けになりました。
オブライアンの場合だったら、ジャックとスティーブンは確実、キリックとボンデンもほとんどの巻に出てきますから、知り合いには困りません。

日本語訳を読んでおくと後が楽なのは、もうひとつ、専門用語の扱いです。
高橋先生チームの翻訳では、帆船の専門用語は漢字書きし英語のルビをふるという形をとっています。
たとえば「錨をおろせ」は「投錨」と書いて、「レッツゴー!」とルビをふる。
これに慣れていると、英語で「Let's Go!」と書かれても、「さあ行こう!」ではなく「投錨!」のことだとすぐにわかります。
日本語訳1〜2冊読めば、知らずにかなりの船の専門英語を覚えてしまうことができます。
同様の効果は、「M&C」のDVDを何回も見る、セリフの録音を何回も聞く…ことによっても得られます。言葉は耳からの方が覚えやすいかもしれませんね。

で、最終的にこれら全てを勘案して、最初の1冊…私がおすすめするのは、
「Richard Bolitho, Midshipman」
アレクサンダー・ケントのボライソー・シリーズの第1巻です。
上記の条件の1)と3)、それに4)が当てはまります。この作品「若き獅子の船出」というタイトルで日本語訳が出版されていますが、すでに在庫切れで、現在は古本屋でしか手に入りません。

ボライソー・シリーズ27巻の中でこの1巻と、その続編となる「Midshipman Bolitho and the Avenger」の2冊だけは、実はジュヴナイル向けに書かれた作品です。英国の中・高生対象なので(英国では学校の国語=英語のサイドリーダーに使われているそうです)、英文がわかりやすく読みやすい。物語もそれほど長くはないので、挫折がありません。
ストーリーは波瀾万丈で、中だるみもないし。
主人公は17才の士官候補生リチャード・ボライソー。私は「M&C」のカラミーを見ていると、この1巻と6巻のリチャードがかぶります。
とりたててこの本…というのが無い方は、まずはこの1冊からいかがでしょう?

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「サイト管理者の方へのおねがい」は急ぎのお知らせでしたので、本来の22日更新用テキスト(今回のこれです)に入れ替えました。
1日に軽く1000を超える単位で本来カウンタ数を上回るような場合、管理者の方は海外の可能性を踏まえてアクセス解析してみてください。
ネットの海に国境はありません。海外にファンの多い作品のサイト管理は、管理者の判断と責任において、海外からのアクセスを視野に入れた上でなされるようにお願いいたします。


2004年05月22日(土)
実際の帆船をご覧になってみませんか?

せっかく映画でサプライズ号を見られたのですから、実際の帆船もご覧になりません? 
この週末、東京港では恒例の「みなと祭り」が開催されて帆船海王丸の展帆が予定されています。

関東では今週が東京の「みなと祭り」、来週が横浜の開港祭、6月にはチリ海軍の練習帆船エスメラルダ号の来航と、イベントが目白押しです。
6月6日は神戸で日本丸の公開、富山では旧海王丸の展帆があるようです。

何時もお世話になっている只野さんのHP「Sailing Navy」に帆船イベントカレンダーのページが出来ました。
各月のイベント情報はこちらへどうぞ。
帆船イベントカレンダー

東京みなと祭りの感激は、なんと言っても時代のギャップ…というか、近未来的デザインのフジテレビ本社を背景にレインボーブリッジの下をくぐる帆船…でしょうか?
お台場沖の帆船…おぉ黒船じゃ! 一見の価値ありです。
(注:でも黒船は蒸気機関をも装備した汽走帆船なので、完全な帆船というわけではありません)

さて、ここでご紹介するのは2001年の「東京みなと祭り」の写真です。
この年は海王丸のほかにロシア漁業技術大学の練習帆船パラダが加わって、大型の横帆船が2隻。日本のセイルトレーニングシップ、あこがれと、今はもう横浜にいない海星など、小型のものまで含めると計6隻の帆船が勢揃いしたなかなか豪華なものでした。
今年は海王丸だけのようなので、ちょっと寂しい景色になってしまうかしら。

海王丸の登檣礼(2001年)
(綺麗に間隔がそろっているので、船が回頭しても斜めに揃うのが感激)



私の場合、帆船の展帆作業を見に行く楽しみは、作業を見ることだったりします。
これはパラダで、畳帆後にジブ(だったと思う)を固縛しているところ。
パラダはロシア漁業技術大学の練習帆船なので、作業をしているのは実習中の学生さんです。

パラダ作業中(2001年)



パラダの全景はこちら↓。
背景はレインポーブリッジです。
砲門のような模様がありますが、もちろん大砲なんて装備していません。



台風は行ってしまいましたが、展帆の場合、強風などで実施が危険と判断された場合には、帆の数を制限したり、場合によっては中止となることがあります。
5月5日の旧日本丸の展帆は荒天中止でした。
そのような可能性のあることをご承知の上でお出かけください。

東京みなと祭りのHPはこちら↓
http://www.kouwan.metro.tokyo.jp/new/event/matsuri04/matsuri.htm
帆船を見るなら晴海本会場がおすすめです。


2004年05月21日(金)
艦長室の会話(その2)

艦長室の会話(その2)です。ネイグルの鞭打ちをめぐって対立するジャックとスティーブン。

今回も作成にあたっては、海洋小説掲示板の皆様の、多大なご協力をいただいています。ありがとうございました。

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J:I am not a flogging captain.
 (私は鞭打ち好きの艦長などではない)
S:Hollom is a scapegoat for all the bad luck, real or imagined, on this voyage.
 (この航海の悪運全てが、あることないこと全て、ホラムのせいにされている)
S:They're exhausted. These men are exhausted.
 (水兵たちは疲れ切っている。連中はもうよれよれなんだ)
S:You've pushed them too hard.
 (君は水兵たちを酷使しすぎだ)
J:Stephen, I invite you to this cabin as my friend.
 (スティーブン、私は君を友人としてこの部屋に入れているんだ)
J:Not to criticise nor to comment on my command.
 (私の指揮ぶりを批判したり批評したりするためじゃない)
S:Well, shall I leave you until you're in a more harmonious frame of mind?
(わかった。ではもう少し機嫌の良い時に出直すか?)
J:What would you have me do? Stephen.
 (君はいったい私に何をせよと言うんだ、スティーブン)
S:Tip the ship's grog over the side.
 (ラム酒を舷側から捨ててしまえ)
J:Stop their grog?
 (ラム酒の配給を停止しろと?)
S:Nagle was drunk when he insulted Hollom.
 (ホラムに不敬をはたらいた時、ネイグルは酔っていた)
J:Stop 200 years of privilege and tradition.
 (200年もの伝統と、水兵達の特権を停止せよと?)
J:I'd rather have them three sheets to the wind than face a mutiny on my hands.
 (足もとで反乱を起こされるよりは、酔っぱらっていてくれた方がいい)
S:I'm rather understanding of mutinies.
 (反乱を起こそうという気持ちもわからんではないさ)
S:Men pressed from their homes, confined for months aboard a wooden prison...
 (強制徴募で我が家からは引き離され、何ヶ月も海の上の、
 木の牢獄に閉じこめられている)
J:Stephen, I respect your right to disagree with me,
 (スティーブン、君が私と意見を異にする権利は認めるが、
  but I can only afford one rebel on this ship.
  私は今、反抗事件1つの処理で手いっぱいだ)
J:I hate it when you talk of the service in this way.
 (君が軍務について、そのような言い方をするたびにぞっとする)
   It makes me so very low.
 (ひじょうに気が滅入る)
J:You think I want to flog Nagle?
 (私が本当に、ネイグルを鞭打ちにしたがっているとでも思うのか?)
J:A man who hacked the ropes that sent his mate to his death?
 (仲間のロープを切断し、死に追いやらざるをえなかった男を?)
J:Under orders. Under my orders?
 (それは私が命令したからだ)
J:Do you not see?
 The only things that keep this wooden world together are hard work...
 (わからないのか? この木の家を一つにまとめているのは、
  日々の絶えざる労働なんだ)
S:Jack, the man failed to salute.
 (ジャック、彼は敬礼を忘れただけじゃないか?)
J:Stephen, There's hierarchies even in nature.
 (スティーブン、自然界にも階級のようなものはあるだろう?)
S:There is no disdain in nature. There is no...
 (自然界では誰かが誰かを見下げるよなことはしない、自然界では…)
J:Men must be governed!
 (水兵たちには統率者が必要だ)
J:Often not wisely, but governed nonetheless.
 (往々にして賢明な統率者とは言い難いかもしれないが、
  それでも統率は必要なんだ)
S:That's the excuse of every tyrant in history, from Nero to Bonaparte.
 (歴代の暴君はいつもそう言った。
  ローマの皇帝ネロからナポレオン・ボナパルトまで)
S:I, for one, am opposed to authority.
 (私としては権威というものは反対だ)
 It is an egg of misery and oppression.
 (それは苦痛と抑圧を生み出すもの)
J:You've come to the wrong shop for anarchy, brother.
 (無政府主義を語るのなら、それはお門違いというものだよ、きょうだい)

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現代人がふつうに聞いていると、理はすべてスティーブンにあって、どうにもジャックには旗色が悪いのですが、当時の時代背景と彼の立場ではこれは致し方ないこと。
解説にかこつけて、今回はジャックの弁護をしてみようかと思います。

まず鞭打ちについて。
軍艦には当然、軍規というのが定められていて、これに違反した場合には必ず処罰が下されます。
鞭打ち刑はこの処罰の一つであり、通常は執行前に艦長が戦時条例の該当条項を読み上げることになっていますが、映画ではそのシーンがカットされてます。

ただしDVDには漏れなく収録されており、それによるとネイグルの罪状は、「insubordination for deliberately failing to salute an officer and refusing to make your obedience」すなわち、「意図的に士官に対して敬礼を怠り、服従を拒否した反抗罪」です。

甲板で皆の見ている前で、あれだけ派手に不敬を演じてしまった以上、艦長オーブリーとしては軍規通り刑を執行せざるをえません。
さもなければ、艦内の規律が保てませんし、適切な処罰を行えなかった艦長は、海軍省から指揮艦をとりあげられます。
…というわけで、スティーブンに何を言われようとも、ジャックに選択の余地はないわけです。

上官に対する不服従がなぜ重罪になるか、「軍隊だから当たり前だ」と言ってしまえばそれまでですが、要するに、軍隊というのは命のやりとりをしている集団ですから、当然のことながら非人間的な命令を下さなければならない必要が生じます。
その命令が遂行されなければ重大な結果をまねく、または、命令を遂行すれば遂行者自身の命が失われる場合もあるのです。それでも命令は遂行されなければなりません。

オーブリーがネイグルに命じたミズンマストのロープ切断もそうでした。あそこでマストを切り離さなければ、艦は真横から波を受け転覆します。
一人の命か全員の命か決断を迫られたオーブリーは、ウォーリーを犠牲にする決断を下し、ロープ切断という非人間的な命令を下すことになるのです。
そしてネイグルは自らの手で親友の死刑を執行することになります。
この時にネイグルが反抗していたら、おそらく今頃サプライズ号は海の底だったでしょう。

あの時にネイグルが従ったのは、それが艦長の、というよりオーブリーの命令だったから。オーブリーの判断だから信じたのだと思われます。
オーブリーがホラムに説教していた通り、士官は水兵たちから尊敬を勝ち取らなければなりません。
原作でもそうですが、映画「マスター・アンド・コマンダー」を見ていると、艦長も海尉たちもこれを徹底的に実践しているのがわかります。
艦のバランスを保つために右舷の張り出しに立つ時もそうですし、最後のアケロン号への斬り込みでも、常に先頭に立っているのは艦長と士官たち。
これは映画だから、ラッセル・クロウを真先にたてて目立たせよう…という理由ではなく、先頭に立って斬り込み、率先して危地に飛び込む士官には、水兵がついていく…ということです。
これがオーブリーの言う「強さと尊敬のあるところに規律あり」の実態なのです。

また冒頭でジャックは、「私は鞭打ち好きの艦長などではない」と言っていますが、この時彼の頭の中にあったのは、ハーマイオニー号の反乱のことではなかったかと思われます。
この話は原作3巻(上)6章にちらっと出てきます。
ハーマイオニー号の艦長ヒュー・ピゴットは、嗜虐志向がある鞭打ち好きの艦長でした。1797年9月、艦長の暴虐に絶えかねた水兵たちは反乱を起こし、艦長以下士官9人全員を殺害、敵であるスペイン領の港に逃げ込みました。
このハーマイオニー号を奪還したのが、サプライズ号と当時の艦長エドワード・ハミルトンなのですが、ゆえにサプライズ号はネメシス(復讐の女神)と言うニックネームを進呈されているのでした。

このあたりの事情は、3月7日付日記「この映画をたのしむために」の5.H.M.S.サプライズの「"H.M.S."ローズ(H.M.S.サプライズ)」にも解説されています。

実際、艦長と士官たちが何より恐れていたのは、水兵たちの反乱でした。
サプライズ号には197名が乗り組んでいますが、それを指揮・統率していたのは、艦長を含め4人の士官と6人の準士官(映画には名前しか出てこない人も含む)、5人の候補生を含めても15人足らずでしかありません。
ハーマイオニー号の例を挙げるまでもなく、数で勝る水兵たちが本気になったとしたら、艦は簡単に乗っ取られてしまいます。
このあたりの恐怖は、ボライソーの4巻「栄光への航海」とか、ラミジの3巻「ちぎれ雲」とかを読んでいただくと手にとるようにわかるのですが、ともかく反乱を防ぐために艦長はあらゆる手を尽くしました。

The only things that keep this wooden world together are hard work...(わからないのか? この木の家を一つにまとめているのは、日々の絶えざる労働なんだ)
これはちょっと意訳していますが、水兵たちを忙しく仕事に駆り立てることのメリットは、
1)人間忙しく仕事に追われていると、余計なこと(反乱とか)を考える暇がない
2)仕事がハードだとぐったり疲れてしまい、オフには寝てしまう。

このシーンの直前に、ジャックが水兵たちを、夜遅くまで砲術訓練に駆り立てるシーンがあります。
補給のままならぬ地球の反対側で、火薬の浪費は良くない…という批判もあるようですが、乗組員たちの人心掌握…という点では、あの訓練はなかなか効果的でしょう。
上述の理由1)2)に加えて、2分かかっていた砲撃準備が、1分10秒で出来るようになったという達成感もあり、水兵たちも意気軒昂、一つの目標に向かって盛り上がっていました。
ハードな訓練がサプライズ号の乗組員を一つにまとめている実例ですね。


2004年05月16日(日)
背中の無い女

池袋の新文芸坐に行ってきました。
スクリーン前の1〜2列を除いてほぼ満席。日本で「M&C」を見るのはこれで9回目ですが、こんなに映画館が混んでいたのは初めてです。
どうせならと、併映の「レジェンド・オブ・メキシコ」も見てきました。

この感想は後述するとして、昨日の午後の回に行った理由は、実はA.ランサム&指輪物語の関係の方に、映画館でお目にかかる予定があったから。
その後お誘いをいただいて、初めてだったにもかかわらず、指輪関係のオフ会に飛び入りさせていただいてしまいました。
オフ会の話題は、指輪、M&C、ナルニア、ランサム、ドリトル先生、三銃士…と入り乱れ。私はほとんどの方と初対面だったのですが、にもかかわらず、子供時代の読書体験まで戻ると共通点が多々あって話がはずむ、はずむ、皆さん同じような道をたどって来られているのだなぁと。

そこで、これを読んでいらっしゃる皆様に質問です。「背中の無い女」…って何のことだか、ぱっとすぐに思い出せます?
昨日そのお話しを伺った時に、ウン十年前の記憶が読みがえって、私ちょっと感激でした。
背中の無い女…って、帆船の船首像のことです。「ムーミン」のスノークのおじょうさんが言ったのです。
船首像とは帆船の船首部にある彫像のことですけど(ネイグルが丁寧に治してキスしてましたね)、背中の部分は船に固定されているから無いんですよね。
そういえばむかし、小学生の時にムーミンのこの話は読みました。背中の無い女ってなんだろう?とも思いました。なんだかおどろおどろしくて怖いもののように記憶していました。でもそれは、ニョロニョロやその他ムーミン谷の数々のこの世ならぬ者たちと一緒くたに記憶の中にまぜこねられて、昨日ある方が取り分けて取り出してくださるまで、サプライズ号の女神とはかけはなれた所にあったのでした。
昨日お世話になった皆様>大変楽しいひと時を過ごさせていただきました。ありがとうございました。


話し戻って「レジェンド・オブ・メキシコ」
私は本来、アクション派手派手のハリウッド映画ってちょっと苦手なのですが、「レジェント…」は登場人物がクセ者ばかりのようだったので、じゃぁせっかくだからちょと早めに行ってこれも見てみようかしら…と。

面白かったけど、これちょっと二本立ては辛いかも。登場人物が全員クセ者で、信用出来る人間が一人もいなくて、誰がいつ何処で裏切るか全くわからない。静かな屋内のシーンで突然振り返って撃たれて殺されてしまう人がいたり…とか。銃撃戦も派手ですし。
とにかく見ている方は2時間ずっと、ほとんど気が抜けない。こんなにピリピリしながら見た映画って、トニー・レオン&アンディ・ラウの「インファナル・アフェア」以来かもしれません。
でも「インファナル…」の場合、その底にあるのは儒教的価値観なので、東洋人である私にはこちらの裏切りパターンは理解しやすいんですけど、「レジェンド…」の裏切り合戦はおよそドライというか、自己主張の結果というか、時についていけないのもあって。

でもこの映画の魅力は、なんといっても超個性的な脇役たちでしょう。
ウィレム・デフォー演じるメキシコの実業家じつは麻薬王。狡猾な…という形容詞がぴったりな人間の二面性が魅力的。
その右腕、匿われているアメリカ人犯罪者ビリー。ミッキー・ロークったらこんな崩れた中年になって…素敵。
私、この前に彼を見たのはジャック・ヒギンズ原作の「死にゆく者への祈り」のIRAの殺し屋ですから、えっと15年、もっと前? いやこの映画で、メキシコの麻薬王のもとへ逃げる前のビリーがどういう設定だったのかは知りませんが、若い頃のロークを見ていた観客にはどうしてもかぶるものがありますから、上手いキャスティングだと言えるでしょう(ローク自身ももちろん、上手いんですけど)。

二人のヒロイン、カロリーナ(サルマ・ハエック)とアヘドレス(エヴァ・メンデス)。これがまた格好良いんですわ。ラテンならではの、情熱的ではあるけれどからっとした絡みが、女性の目から見ても共感できる。男が身勝手なら女もしたたか、でも憎めない。
よくバランスのとれたアクション・ラブストーリーだと思います。

個性派の極め付きはやはりジョニー・デップ演じる極悪CIA。とんでもなく悪い奴ながら、嫌みが無くそれが魅力になってしまう不思議なキャラクターでした。
全然関係ないんですけど、これって、今NHKでやっている大河ドラマ「新撰組」の山南さんの魅力とちょっと共通するところがあるのでは?

そして主演アントニオ・バンデラス、絵に描いたような孤独のヒーローかしら。私は彼を見るのは「マスク・オブ・ゾロ」以来です(こういう話しを始めると、私がいかに何時も、偏った映画を見ているかわかりますね)。
年齢を重ねてさらに渋みが増して、こういう陰があった方が、孤独のヒーローはいいですよね。
確か今、ゾロの続編を撮っていると聞きました。今のバンデラスとキャサリン・ゼタ・ジョーンズ(ゾロの妻エレナ)なら更に魅力的な映画になるのでは…と。これはちょっと楽しみ。ゾロの1は私、実はTV落ち待ちだったんですが、続編は映画館に行ってみてもいいかも…と思いました。

…というようなことを考える人が、「M&C」にもいてくださると良いのですが。
「M&C」続編…DVDの売り上げは良いようですが、さてFOX社の決断はいかに?
でも考えてみればゾロとて1と2の間は7年空いているんです。仮に「M&C」の続行が決定したとしても、きっとまた何年も先の話しになるのでしょう(嘆息)。

**追加情報**
14日の日記で、プライスじいさんが候補生たちに「ほんとうに死んでいるのか鼻に針を通して確かめる」という、実際にはない話をして脅かした、と書きましたが、その後
「18世紀の初め頃の海洋小説で、本当に鼻に針を通しているのを読みました」というメールを頂戴しました。
19世紀初め頃の英国海軍では軍規や刑罰などがある程度整備されてきましたが、本来荒っぽい船乗りの世界には、船底をくぐらせる等、乱暴で無茶苦茶な習慣が山ほどありました。
ということは、確かにプライスじいさんの若い頃には、本当に鼻に針を通したのかもしれません。実はじいさん、嘘は言っていないのかも。


2004年05月15日(土)
DVDを見てわかること

先日の更新で、ステイから飛び降りる艦長の着地音の謎(笑)をご紹介しましたが、丁寧にDVDを見ていると、上映時に感じていた様々な謎に、答えが出てきます。

「ズルしましたね」
オーブリーとプリングスがマストからステイをつたって降りてくるところで、プリングスが「ズルしましたね」って言うんですけど、映画を見ていた時にはこれが、???。英語もちょっと聞き取りにくかったんですけど、英語字幕を見てやっとわかりました。
プリングスは「Foul. You got away before me」と言っています。直訳すると「反則! 貴方は私より先に出発した」これが「ズルしましたね」になっているんです。
どうやら、この艦の最高責任者と次席責任者は、マストのてっぺんからどちらが先に降りられるか競争していたようですね。でもって、どうやら艦長がズルして先にスタートしてしまったので、副長は追いつけなかったもよう。
…なにやってるんですか二人とも、まったく! ほとんど候補生レベル。
ちなみにプリングスのこのセリフには、最後に敬語にあたるsirがついていません。
ですから本当は「〜しましたね」なんて丁寧語にする必要はないのかもしれません(笑)。

「Old Joe said」
ブレイクニーが手術の前に、カラミーに「鼻は縫わないでね」と言うところ。
ブレイクニーはこの習慣をジョーに教えてもらったと言うのですが、サプライズ号の水兵さんに「ジョー」は少なくとも二人います。プライスじいさんと、ネイグルくんです。
ただのジョーだとどっちかわからないのですが、oldがついているので、プライスじいさんだとわかります。
でももちろん、最後の水葬シーンでわかるように、鼻を通して縫ってなんかいません。他の海洋小説でも、私の知る限りでは聞いたことはありません。
プライスじいさん、いたいけな候補生を脅しちゃって…ヨナの呪いと言い、サプライズ号におけるこのお爺さんの存在意義って…。

ところでここ、UK版字幕ではoldがついていないようです。 実はUK版とUS版では字幕が微妙に違うらしい。どうもこの英顔字幕、脚本から起こしているのではなく、実際に耳で聞き取って作成しているようなのです。
US版の方が手がこんでいて、艦の遠景で命令の声だけが聞こえるシーン(誰が叫んでいるかわからない)でも、[Pullings]……、のように、誰のセリフか声を聞き分けて名前が入っているんです。凄いですね。
でもUK版では聴き取れていて、US版では聴き取れてないセリフ…などというのもあるようで、どちらの字幕が良いかは一概には言えないようです。

「You can present one of their off-spring to the king」
最初にガラパゴスに到着したシーンで、艦上から望遠鏡で陸をのぞいているところ。
泳ぐイグアナを発見し「捕まえますか?」と尋ねたブレイクニーに、マチュリンが答えるセリフ。
字幕では単に「国王陛下に献上できる」となっていたと思います。
これを見て「あれ?」と。あのマチュリンが素直に、イングランドの国王陛下に献上…なんて言うのかしら?と思って。…アイルランド人でカトリックの彼の立場はいろいろと微妙ですから。
それがDVDをゆっくり見たら気がつきました。日本語字幕では「You can」の部分が訳出されていないようです。聞き落としていて私も気づかなかったのですが、実は「国王陛下に献上する」の主語はブレイクニーだったんですね。これなら辻褄があいます。
というか、やっぱりマチュリンはマチュリンよね…と安心すると言いますか。

ボンデンが遅れた理由
最後のアケロン号への斬り込みのところ。
艦首部から斬り込む艦長に、原作ではいつもピッタリくっついている筈のボンデンが、今回は出遅れています。アケロンの甲板に飛び降りてからは、追いついてきてすぐ横にいるんですが、一番危険性の高い敵艦移乗の際に側にいないのは変だなぁ…と映画を見ながら思っていました。
この謎が解けたのは、特典ディスクの「マルチアングル」。
この映像特典は、斬り込み時の各自の動きがわかって、なかなか面白い見物です。

アケロン号への砲撃でマストを倒し、斬り込みのため接舷しようとしている時点で艦尾甲板に居たのは、艦長、航海長と二等海尉のマウァット。ボンデンが舵輪についていて、海兵隊長はマストの見張り台の上に居て、狙撃の指揮をとっていました。
そこへ下の砲列甲板から副長指揮する斬り込み要員が上がってくるのですが、甲板に上がってきたプリングスは接舷状況を見、「倒れたマストが邪魔になって、艦首と中央部の二箇所からしか敵艦に乗り移れない」というような内容のことを艦尾甲板の艦長に報告します。
そこで艦長は、自分が艦首から、プリングスとマウアットには中央部からマストづたいに斬り込むように指示を出します。
この時に、実は艦尾甲板に、指揮を引き継ぐブレイクニーだけではなく、実はドクターと助手のヒギンズ、パディーンも一緒に上がってきちゃってるんですね。
砲撃で怪我人が出なかったので、もう病室での仕事は無いと思ったんでしょうか?

プリングスとマウアットは甲板中央部で斬り込み要員を集め始め、艦長も航海長とともに艦首に向かうのですが、その前に艦長は艦尾甲板に残るドクターに、何か指示を与えていきます。
この部分、編集時にはカットされているのため、後から音声の録り直しをしておらず、撮影時にマイクが拾った音声だけなので非常に聞き取りにくい。かろうじて「…pounder to quarterdeck」と聞こえるので、どうも艦尾甲板の砲について指示しているのでは?と。そのあとドクターは助手たちに向かって「…last line of defence」とか言っています。このシーン、どなたか聞き取れた方、いらっしゃいますか?

その間も、サプライズ号はアケロン号に接近していきます。間の海面が更に狭くなり、艦首部では水兵が四つ目錨を投げて相手艦を固定しようとし、中央部ではプリングスが倒れたマストの上に飛び降りて、相手艦に乗り移ろうとします。

そこで、操舵はもう十分と判断したブレイクニーは、舵輪についているボンデンに「もう行ってよし」というような命令を与え、彼を舵取りの仕事から免除してやるんですね。これを聞いたボンデンはいさんで艦長のもとに飛んでいくわけです。
でも艦長はすでに「英国のために! 拿捕賞金のために!」とか叫んで渡り板を半分ほど渡ってしまっていますので、ボンデンは慌てて追いかけていくことになるのでした。



ところでDVD、アメリカでは快調に販売数を伸ばしているようです。
発売3週間の売り上げが400万セットとか。映画の威力ってすごいものですね。
アメリカでは原作が、映画公開前に200万部のミリオンセラーだったのですが、400万という数字はこの2倍です。原作ファンだけではなく、映画からこの作品のファンが増えていることが良くわかります。

日本でもDVDが売れてくれると良いのですが、DVD紹介の一部に、注意を受けた広告表現がまだ残っているのが気になります。
今さらですが、1月に関東の新聞に出た全面広告=ブレイクニーの手紙は偽物だったようですね。
著作権にはうるさいことで有名な配給会社でしたので、まさか他の映画会社の作品の一部を創作するようなことは無いだろう…と1月当時私は思っていて、実際にメイキング本には候補生たちが手紙を書いている写真がありましたので、そのシーンは最終編集時にはカットされたのだと思っていました。
ところが…、確かにDVDでは、手紙を書くシーンがあるのですが、その手紙の内容ときたら…。「船酔いしたので帽子の中に吐いてしまいました。帽子は海水で洗いましたが、まだちょっと匂います」とか。「あなたは息子を誇りに思ってもいいです」とか格好良いことを書こうとしたのに、ブラジルの綴りが違っていた…とかいうシロモノで。
メイキング本と宣伝を結びつけて素直に信じた私が馬鹿でした。和英翻訳と強制徴募の間違いだけは確実なものだったので指摘させていただいたのですが。

さて、東京では明日から1週間だけ、池袋で2本立て上映があります。
ひさびさに大画面のサプライズ号に会えそうです。


2004年05月14日(金)
東京・池袋 「M&C」2本立て上映情報

関東圏限定情報となりますが(あ、この為に上京してくださるのであれば全国情報ですが)、池袋での二本立て上映のご案内です。

5月15日(土)〜21日(金) 東京・池袋「新文芸坐」 池袋駅東口徒歩3分 TEL:03-3971-9422
「レジェンド・オブ・メキシコ(LoM)」(A.バンデラス、S.ハエック、J.デップ…復活のM.ロークも)との二本立て。
土日と平日で上映スケジュールが異なります。

5月15,16日(土日)
M&C 10:30 / 15:00 / 19:40
LoM  12:50 / 17:30

5月17日(月)〜21日(金)
M&C  11:20 / 15:50 / 20:20(上映終了22:40)
LoM 09:30 / 13:50 / 18:20

スケジュールに変更はないと思いますが、いちおう直前に下記HPで時間をご確認ください。
新文芸坐HP http://www.shin-bungeiza.com/schedule.html

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大スクリーンは本当にこれが最後でしょうか?
DVDが手元にあっても、海と船だけは大スクリーンにかなわない。でも最後、遠ざかっているサプライズとアケロンを見たら寂しくて泣いてしまうかな。
それまで一緒に艦上にいるような気分だったのに、最後だけはヘリコプターの上から遠ざかる船を見送らなくちゃならないなんて。

あれを見ながら、突然、子供の頃の思い出が蘇りました。
私が海洋小説を読み始めたそもそものきっかけは、小学校の図書館で出会ったアーサー・ランサムの児童文学だった、という話は以前に書いたと思うのですが、全12冊のランサム全集をものすごい勢いで読んでいって、最後にたどり着くのが12巻「シロクマ号となぞの鳥」。
この巻では主人公の子供たちがスクーナー船にのってスコットランドに行き、現地の少年と知り合う夏休み(だったかな?)の冒険が描かれているのですが、この最後が確か、現地の少年が出航していくシロクマ号を見送る形で終わったように記憶しています。
当時小学校6年生だった私は、この最後がすごく寂しくて。それまで一緒に皆とシロクマ号で冒険したような気になっていたのに、最後に取り残されてお見送りなんですもの。

…それが後を引いて、大人になってから海洋小説にたどりついたようなところが私にはあります。
もう一度、船に乗りたくて、一緒に冒険しているような気になりたくて、サプライズ号にたどりついてしまいました…みたいな。

大自然と人間がテーマの一つになっている英国冒険小説とか、指輪物語のように野山を歩いて旅していくファンタジーとかも大好きなんですが、私の場合、全部基本は同じような気がします。ランサムの冒険の中にはテントに泊まって山に登るようなものもあるので、別の形で続きを読んでいるようです。
実は今「コールドマウンテン」の原作を読んでいるのですが、ただひたすらに歩いて故郷をめざすインマンの旅が実に良いです(読んでいる私には、です。早く故郷に帰りたい、歩かずに鳥になって飛んで帰れたらどんなに良いか…と思っているインマン本人には、もちろん全然よくはありません)。

英国冒険小説…と呼ばれているジャンルは、たとえ舞台が現代であっても、人間の敵だけが主人公の障害物ではなく、大自然もまた脅威であるというものが多い。結果として主人公は、最新鋭のポータブルコンピュータを抱えて衛星通信しながらも、ウクライナだかロシアだかの山中で寒さに震えることになる、とか…コンピュータの上だけのハイテク・スパイ小説にならないところが、ついつい英国作家の翻訳小説を手にとってしまう理由だったりするのでしょう。

海洋小説の主人公の敵といえば、もちろん海なのですが、それでいて彼らは海と離れて生きていくことはできません。
「ホーンブロワー」のある巻で(ねたばれになるので本の題名は秘密)、捕虜になった主人公が護送されていく途中、一瞬、海を目にし、自分がいかに海を憎みつつも愛していたか気づくシーンがありますが、そのようなところも海洋小説の魅力の一つかもしれません。

あとはやっぱり船…ですね。船そのものの魅力ももちろんあるのですが、人と船との関係にも魅了されます。「M&C」で言えば、乗組員たちが、どれほどサプライズ号を大切にしているか。最初の襲撃のあとジャックが艦長室で老いぼれサプライズの魅力を語るところ(壊れたトイレ含)、船大工であるラムとネイグルの丹精こめた修理、12ノットの最大船速を達成した時の本当に嬉しそうな艦長と副長…などなど。

主人公の年代記的な性格を持つ長編海洋小説には、主人公にとって特別な船、一生忘れられない思い出の船というものが出来てしまうものですが、ジャックにとっての特別な船は、やはりサプライズ号でしょう。
その意味では、「M&C」の映画化に際して、サプライズ号の物語を選んでくださったピーター・ウィアー監督に、本当に感謝。

同様に、もしラミジ・シリーズが映像化されるようなことがあれば、やはりカリプソ号の物語だと思うし、ボライソーの場合ならファラロープ号かハイペリオン号の物語になるのでしょう。かなわぬ夢ではありますが。

話し戻って、
海洋小説最終巻の幕引きとしては、やはりダドリ・ポープのラミジ・シリーズ23巻がいちばん良く出来ているでしょうか? 映画の「M&C」と同じでまだ先がありそうな余韻と伏線を残しているのですが、よく読むと1冊の物語としては完結し、サブキャラクターたちの行末もきちんとしている。
この本が出版された1990年当時には知らなかったのですが、後にネットで見つけた海外のダドリ・ポープ サイトを読んで知ったこと。ポープ自身はこの23巻で筆を折るつもりで、この巻を執筆したそうです。ゆえにキャラクターの始末などはある程度ついているのですが、それでいてまだ先がありそうな余韻を残しているところが、ユーモアにあふれたポープ独特のお茶目…で苦笑してしまいます。

オブライアンの20巻がどのように終わるのか? 気長に日本語訳を待つつもりの私はまだ原書も手にしていませんが、実は最近、21巻分の遺稿が発見されたとかで、これが英国で出版の運びになるようです。

そう言えば、ボライソーの27巻に当たる筈のペーパーバックが、英国ではもう発売されていますが、日本のネット洋書販売では近日発売のまま。この時差は洋書店を考慮してか? 明日あたり洋書店に行くと、実物を拝めるかもしれません。
洋書店と言えば、東京の大手洋書店の店頭に「M&Cメイキング本」が出ているそうです。場所は日本橋だそうです。ここにあるということは、新宿南口にもあるかも。まだ在庫があるかどうかわかりませんが、覗いて見る価値ありかもしれません。

***お詫びと訂正***
昨日のDVDマルチアングル映像紹介のところに間違いありましたので、ちょこっと直しました。ドゥードルの班は再装填はしていませんでした。準備を整えて待っていただけでした。記憶がごっちゃになっていて申し訳ありません。

**さらに馬鹿馬鹿しいおまけ話**
先日の海洋系オフ会の時に、オーブリーの着地音が話題になったのですが、艦長と副長がマストのてっぺんからステイを滑り下りてくるシーン。よく耳をすませて聞いてみてください。
某氏いわく、艦長が甲板に着地するときは「どんっ!」と凄い音がするが、副長が着地すると「とんっ!」という音しかしない。
言われてDVDに耳をすませてみました。
本当だ。
艦長と副長では着地音がちがう。

ところでこのシーン、特典ディスクのマルチアングルにも収録されているのですが、こちらは効果音やセリフの取り直しをしていない生映像(クロウとダーシーは、マストの一番上からではなく一番下のヤードあたりから下りてきます。それでも結構大変だと思うけど)。
それで、耳を澄ませて聞いていますと、
…艦長と副長の着地音には大した差はない。
つまりあの「どんっ!」は、音響効果さんの陰謀というか、体重100kgのリアリティを強調したかった結果…だと結論づけられるのではないでしょうか。


2004年05月08日(土)
「M&C」DVD、2枚組特典ディスク付7月23日発売

「M&C」のDVD発売が決定しました。2枚組、US、UK版同様のコレクターズエディションでメイキング・削除シーン付きです。
字幕は英語と日本語、日本語吹き替え付き(声優キャストはまだ不明)です。

発売日は2004年7月23日(金)…なんと「ホーンブロワー」の発売日と同日です。
発売元:ソニーピクチャーズ・エンタティメント
価格:4,179円(税込)

ソニーピクチャーズのHPにはまだ紹介が上がっていませんが、こちらでパッケージ・デザインを見ることができます。このデザインは、UK版ともUS版とも微妙に違いますね。

さあ皆さん!> 5月のお給料(バイト料)が出たら、福沢諭吉先生を1枚、こぶたの貯金箱に取りのけましょう。
6月のお給料が出たら更に1枚。
これで貴方も(給料日直前にもかかわらず)7月23日にインディファティガブル号とサプライズ号に再会できます。お店に予約にGO!
(「ホーンブロワー」はハピネット・ピクチャーズから発売、4枚組15,960円(税込)です。)

US版DVD特典を半分まで見ましたが、削除シーンは皆、惜しいと思われるものばかり、ひとつのエピソードとして完結している「Sea Monsters(海の魔物)」。
「Shipboard Life(艦の日常)」では、今ではすっかり顔馴染みになった水兵さんや候補生、海兵隊長が、とても「らしい」顔をのぞかせます。博物学ファンはガラパゴスの珍しいカツオドリを、帆船ファンは美しい美しいサプライズ(ローズ)の没カットを、堪能することができます。

原作ファンに嬉しいのは、マウアットの詩の暗唱と、毎巻恒例艦長水泳が復活していることでしょうか?
いやしかし艦長、泳いでる時は髪を結ばずにほどいているんですね。あれだと髪が目の前に来てしまって、邪魔なんじゃないかと思うのですが、でも原作を読んだら「海水が髪を梳くにまかせ」とありましたから、もしかして昔はああやって髪を天然に洗ったとか???(まさかね?ほんと?)
ちなみに、艦長が腰に差している短刀と、甲板で海兵隊長が構えていたマスケット銃は鮫対策です。でも虎と戦うマキシマスがあったのですから、鮫と戦う艦長も……。

「マルチカメラアングル」という映像特典については、これまであまり重要だと思ったことがなかったのですが、「M&C」のように細部にまで神経の行き届いた群像劇の場合は、大変貴重な映像特典になります。
単に役者さんを別の角度から見ただけのものではなく、例えば冒頭の奇襲攻撃時の砲列甲板のマルチアングルなどは、数台のカメラが同時にまわって、サプライズ号側の砲撃準備→アケロンから着弾→一部の砲列がやられプリングスが脳震盪を起こすが戦闘準備は続行→砲撃、の混乱の中にも秩序のある状態をあますところなく捕らえています。
プリングスが倒れてカラミーが水兵に指示を出し、副長を下へ治療に運ばせブレイクニーを伝令に走らせている間も、無傷の例えばドゥードルが砲術長を務める砲撃班は迅速に作業を続行、ドゥードルは点火索を手にかけて命令を待っているので、指示を終えたカラミーが指揮に戻って来た時には準備万端整っている、という様子がわかります。

「Hnndred Days」製作ドキュメント……100日間というタイトルは、原作20巻の原題ですが、実際の撮影は2002年6月半ばから12月半ばまでの6ヶ月がかかっています。ドキュメントではクランクイン前の撮影用サプライズ号の建造、映像編集後のサウンドトラック録音も追っていますので、もちろん100日を軽く超えるドキュメンタリーです。

このドキュメンタリーでは様々な珍しい映像を見ることができます。
撮影用にプールに建造されたサプライズ号の下には油圧装置が設置されていて、自在に揺れを起こすことができるのですが、鏡のような水面で波がないのに、撮影中の船だけが大揺れをしている…というのは何とも不思議な光景でした。

サウンドトラックの録音は、全映像の編集後に行われているのですね。指揮台のクリストファー・ゴードンの前にはビデオモニターがあって、彼はモニターの映像を見ながらオーケストラの指揮をしています。
コンサートマスターはリチャード・トネッティ。室内楽団での活動が多いトネッティは、オーケストラのコンサートマスター役を十分に楽しんだようです。
エンディング冒頭の曲(またはマチュリンがガラパゴスでアケロン号を発見する時の曲)…バイオリン・ソロで始まり弦楽器が徐々に同調していく曲…の録音風景が収録されていまして、トネッティの妙技にはため息です。

メイキングの面白さというのは、役を演じる俳優と、俳優本人の二つの顔が見られることだと思うのですが、時代モノの場合は特にこのギャップが大きいので面白い。
日本の時代劇で裃を着た武士が堅さを崩さないように、19世紀の士官には海軍であれ陸軍であれ、一種独特の格式があります。部下をファーストネームで呼びオヤジギャグをとばしている艦長とて独特の威厳があり、カメラが止まった瞬間に、艦長の殻が割れて気さくなラッセル・クロウに戻るところは見物です。もっと落差が激しいのはポール・ベタニーで、マチュリンのコスチュームのままで撮影の合間に、スティーブンにはありえないひょうきんな反応を示されると、頭が混乱しそうになります。
おすすめは最終シーン…艦長室でボッケリーニを演奏するシーンのおまけ。ギターはお得意な主演の2人が、完全にギター弾きの(クラシックにありえない)ノリでバイオリンとチェロを弾き、スタッフがフラメンコまがいを踊っているおまけがついています。

この落差…は「ホーンブロワー」のメイキングでも存分に楽しめますので、こちらのDVDも是非是非おすすめです。
眉間に皺を寄せて威厳を保っている海軍士官たちって、オフで素直に笑っていると、全然感じが違うんですよね(とくにヨアン・グリフィスとリー・イングルビー)。

ああ…しかし、たった一つ希望をくぢかれたこと…やっぱり削除シーンにもなかったか、ナマケモノ。
3巻のあのシーンがどうしても見たかったんです。FOX社の公式ホームページの艦長日誌にはナマケモノの記述があったんですよ。だから撮るだけは撮ったと思っていたのに。実はやっぱり、撮っていなかったのでしょうか?
そうそう、猫だ猿だと議論になっていた、マチュリン先生の部屋にいる黒い生き物は、しらふの猿でした。

ま、ともかくもご覧になってみてください。本当に宝箱のような特典ディスクです。


2004年05月07日(金)
「Sea Warriors」――資料DVD紹介

せっかくのゴールデンウィークに、なぜ更新をお休みしていたかというと、米国アマゾンから、本とDVDの箱が届いたからなのでした。

一気買いした本(洋書)…は徳間文庫から出ているデューイ・ラムディンのアラン・シリーズ。実はアメリカは今、ちょっとした海洋小説ブームで、ダドリ・ポープのラミジなんて品切れが出始めているようです。そこでアランも品切れが出ないうちに、未訳のものだけは抑えておこうと思いまして。
本の装丁にはこだわらず、在庫のあるもので集めた結果、3社のペーパーバックが混在する結果になってしまったのですが、もし1社の装丁にこだわられるのであれば、McBook Press社のものがおすすめ。オリジナルのカバー絵で装丁も綺麗。装丁デザインだけで言えばThomas Dume Booksも綺麗なんですが、このカバー絵はオリジナルではなくて当時の有名な海洋画を使用しています。でも私はやはり美術ファンではなく小説ファンなので、カバー絵はアランの指揮する艦がいいわ…と思ってしまって。
Fawcett Crest社の廉価版ペーパーバックは一番お安いし、通勤電車の中で読むには便利な小型サイズですが、その分ちょっとカバー絵が犠牲になっている感があります(インクの発色もちょっとおかしいような)。

DVDは2本。1本はもちろん「M&C」のUS版コレクターズエディションですが、もう1本は「Sea Warriors」というドキュメンタリーです。
米国アマゾンでUS版を購入された方は、この「Sea Warriors」、おすすめDVDでもれなく画面に出てくるものなので、カバーパッケージをご覧になると(ここをクリック)、「あ…見たことがある」と思われるかもしれません。

「Sea Warriors」の副題は、「ネルソン時代の海洋小説背景案内」、ドリンクウォーター・シリーズの作者リチャード・ウッドマンが案内役となり、英国内に残る当時の史跡や博物館を訪ね歩きながら、19世紀初頭の英国海軍の世界を紹介します。
各所に登場する解説者も豪華です。英国国立海事博物館やチャタム海軍工廠博物館の研究員、ロンドン大学の歴史学教授、そして海洋小説ファンとして嬉しいのは、ウッドマンだけではなく、ボライソー・シリーズの作者アレクサンダー・ケントと、キッド・シリーズのジュリアン・ストックウィンが登場して、自作を語ってくれること。挿絵画家のGeoffrey Hubandも登場します。

ドキュメンタリーに登場する史跡は、旧海軍省・海軍委員会会議室、H.M.S.ビクトリー(戦列艦)、H.M.S.トリンコマリー(フリゲート艦)、H.M.B.エンデバー(復元船)、チャタム海軍工廠博物館など。
内容は以下の通り。

1)海洋小説の歴史(フレデリック・マリアットからC.S.フォレスター、現代の作家たちへ)
2)当時の艦船について、フリゲート艦について(H.M.S.トリンコマリー艦上から)
3)旧海軍省と当時の組織(旧海軍省、本省と各軍港を結ぶ腕木信号機の現物紹介)
4)当時の艦船の活動(対仏封鎖の実態について)
5)艦船の建造(チャタム旧海軍工廠)、手動のロープ編み機に感動します。
6)艦船の貯蔵品と主計長の仕事
7)艦内の調理場と火気の管理、当時の食事について(10匹はコクゾウムシ(weevil)のたかるパン)
8)水兵の仕事(強制徴募と日常業務)
9)現代に当時を体験する(H.M.B.エンデバーの体験航海紹介)
10)船の生活(時鐘、ハンモック、舵輪と舵の構造、ハンドログなど)
11)艦長の職責
12)海兵隊について
13)戦時条例と鞭打ち刑
14)艦載砲と火薬庫
15)マスケット銃、白兵戦用の武器(剣、槍、斧など)
16)軍医の仕事
17)海洋画の魅力について(Geoffrey Hubandが語る)
18)海洋小説の系譜について
19)海洋小説作家たち、自作を語る(ウッドマン、ケント、ストックウィン)

当時の紹介に一部、ITVのTVドラマ「ホーンブロワー」の映像を使っています。一部TVで使わなかった没映像もあるような気がします(違うかしら? 違っていたらごめんなさい)。
いやでも、最初に「ホーンブロワー」を見た時は凄いと思ったけれど、「M&C」を見たあとで見ると、やはりTVドラマの限界というか、予算の限界で再現しきれなかった部分はあるんだなぁと思ってしまいます。

でも一つ、TVドラマの方凄いと思ったこと…第1シリーズの最終シーン=ホーンブロワーとケネディと水兵たちがマストの上に上がっているシーンなんですけど、これをよく見ると、船(インディファティガブル号ことグランド・ターク)が結構揺れているんですよ。
「M&C」でオーブリーがマストに上がるシーンでは、彼は片足をヤード(帆桁)にかけているだけなので、艦が前方に沈みこんでマストが傾いても、片足を踏ん張ればバランスを取りやすいんですけど、「ホーンブロワー」の場合は完全にヤードの上に立っているので、艦が前方に沈みこむ時はマストを掴んでいる片手だけを支えにバランスを取らなければならない筈で、これは相当に大変だと思います。

「M&C」のDVDについては、さらに長くなりそうなので日をあらためて。


2004年05月05日(水)
「エニグマ」に航海長とマウァットを探せ

「M&C」のキャストは、以前に他の映画やドラマでの共演が多いようです。主役2人の「ビューティフル・マインド」は有名ですが、他のキャストにも幾つか共演作品があります。
日本国内で放映または公開があったのは、アレン航海長(ロバート・パフ)とマウァット海尉(エドワード・ウッドオール)の「エニグマ」、ハワード海兵隊長(クリス・ラーキン)とホラー掌帆長(イアン・マーサー)の「シャクルトン」。
ぜひ見てみたいのは、プリングス副長(ジェームズ・ダーシー)とホラム候補生(リー・イングルビー)と老水兵プレイス(ジョージ・イネス)のTVドラマ「ニコラス・ニックルビー」なのですが、これ原作ディケンズだし、NHKBSあたりで放映していただけませんでしょうかねぇ?

もしWOWOWの受信できる方がいらっしゃいましたら、明日5月3日(月)20:00〜22:00は、「エニグマ」の放映があります。
航海長とマウアットに再会できますよ。

このイギリス映画、去年の6月頃の公開だったのですが、地味だったせいかお客の入りが良くなく、のんびり構えていたところ3週間で上映終了と聞いて、慌ててウィークデーに無理矢理仕事を切り上げて見に行く羽目になりました。
そりゃ確かにハリウッド映画に比べたら地味ですけど、イギリスのスパイ小説ってこの地味さが本来ではありません?
その意味では正統派の、第二次大戦を舞台にした英国情報戦争映画と言えましょう。…もっとも情報戦争と言ったところで主人公は暗号解析者ですし、殆どドンパチはありません。物語は「盗まれた情報」と「ドイツ軍の暗号」の2つの謎の解読を中心に進みます。
主人公の暗号解析者ジェリコにダグレイ・スコット、共に謎を解く暗号解析センターの同僚ヘスターにケイト・ウィンスレット。

ストーリーの方は実際に映画を見ていただくとして、我らが航海長と二等海尉殿の出番はというと、
航海長すなわちロバート・パフが演じるのは、主人公が勤務するブレッチレー暗号解析所の所長です。いわば施設の最高責任者ですが、いかにもお役人で暗号解析の本質が良くわかっていない…ために主人公とは方法論その他で対立します。
冒頭でブレッチレーに戻って来た主人公が、一番最初に案内されるのが所長の部屋なので、すぐにわかります。

二等海尉ことエドワード・ウッドオールは、本当に1シーンだけの役なんですが、「M&C」を思うと笑えます。
暗号解析には特殊な才能を必要とするため、解析者には奇人変人や危険思想の持ち主なども多かったのですが、彼らの才能を活かして仕事ができるように、解析センターではかなり自由にさせていました。
所長室で挨拶をすませた主人公が、センターの前庭に出ると、海軍の公用車が滑り込んできて、司令部の提督が降り立ちます。
急にドイツ軍の暗号が変更され、これが解読できず、つぎつぎと艦船が撃沈されたため、窮地に陥った海軍のお偉いさんが、解析センターの尻を叩きに来たのです。
そこへ暗号解析者の一人が通りかかるのですが、この男、海軍の軍帽の上からマフラーを巻くという妙な格好をして、へらへら歩いているのですね。
海軍の軍帽を被った奴が、敬礼もせずに提督の前をへらへら通り過ぎる…気の毒なネイグルの例を引くまでもなく、提督にとってはおよそ許し難い不敬罪なのですが、怒鳴りつけられてもマフラーの男は悪びれもせず、にこっと笑って敬礼の真似をして、そのまんま行ってしまう。実にブレッチレーらしいエピソードなのですが、…この変人暗号解析者を演じているのが二等海尉殿ことエドワード・ウッドオールです。
天然「にっこり」なので、提督も毒気を抜かれて立ち往生。考えてみればネイグルもこの手を使えば良かったのかも(…ってちょっと想像するとこわいですけど)。
そうそう、映画「M&C」には出てきませんが、原作10巻に登場するマーティン牧師、私のイメージはこの「エニグマ」に主演したダグレイ・スコットです。もうちょっと明るくて若々しい雰囲気で。

また、昨年の5月1日、2日にNHKBSで放映のあった「シャクルトン」の録画ビデオも見直してみました。
これは、20世紀初頭に行われたサー・アーネスト・シャクルトンの南極探検時の実話をもとにした英国の長編TVドラマで、主演すなわちシャクルトン役はケネス・ブラナー。
我等が海兵隊長クリス・ラーキンの役は、探検隊本隊に同行する画家マーストン。画家ではありますが探検家としてはベテラン、以前にもシャクルトンとともに過酷な探検旅行を経験しており、危険に遭遇しても慌てず騒がず何時でも何処でもユーモアを忘れないキャラクター。常にパイプを加えているので、それを頼りに探してみてください。
これに対して、掌帆長イアン・マーサーはちょっと探しにくい。探検隊を南極海で運ぶ汽走帆船エンデュアランス号の機関員役なのですが、まず機関担当なので、ほとんど甲板に出てこない。船員で目立つのは、その役目上、船長、航海士、船大工、甲板長…という順番で、これといった特徴もないんですね。探し方…こまったなぁ、やはり目でしょうか? もしくはいちばん地味な人…とか。
このエンデュアランス号、氷に閉じこめられ脱出不可能になり、一行は南極海を漂流することになります。
クリス・ラーキンは、この「シャクルトン」の撮影後すぐに「M&C」の現場に来たとかで、何処かのインタビューで「どうして私は、南の海で船に閉じこめられるような役ばかりなんだ」と嘆いていたとか。

ところでNHKでの放映時、吹替えでシャクルトン役を演じたのは磯部勉、これが大熱演でした。
「シャクルトン」の日本語版は日本語版として単なる吹替え以上の価値のある芝居だと思っています。
ときどきあるんですよね。日本語の抑揚で耳に残る名演技って。
最初にTVの洋画劇場で見た吹替キャストでシーンが定着してしまい、後から出たDVDで声のキャストが変わってしまうと駄目になってしまうほどの作品が。
最近のものでは、やはり「ロード・オブ・ザ・リング」の吹替版が秀逸。これは劇場用の吹替がそのままDVDにもTVにもなっていますが、本当に丁寧に作られていると感心します。
どこかの掲示板で読んだのですが、「M&C」予告編のジャックの声は磯部勉とか?…願わくば、個人的には、DVDの吹替えのジャックは磯部氏希望。声の高さや質も、それほどラッセル・クロウと違わないので(磯部氏の方がちょっと高いけど)、違和感も少ないのではと思うのですが。


2004年05月02日(日)