お庭はしん、と静まりかえり、夕立ちの後の濡れた空気に、百合の甘い芳香が滲んでた。 何匹かの虫だけが声を嗄らして啼いているのを、しゃがみこんでひとり聞いた。 またまよう、自分の行く先。 うまくもまっすぐにも歩めなくて、誰かに惑わされてばかり居る。 あのひとが好きだと云うあたしは、どんな姿をしているんだろう。 あたしは相も変わらず自分のことが本当は嫌いで、悪夢のように体力の無い躯は、ふくらむ理想だけを持て余している。 誰かに護られなくても、自分のことは自分で護れると云ったのは嘘じゃない。 けれど他人は恋愛を求めて、この不様に切り刻まれた手を握り返してきた。 君じゃ駄目なんだ、と云うことも出来ず、 もがいていることを理解してくれる友達の傍に居ることが、やっぱり最終的には落ち着くのだった。
毎晩、舌から零れるほどのお薬を飲んで、そうしなきゃ眠ることの出来ないあたしを、 他から見れば異常だともみえる、その日課を、理解してくれるのだろうか。 うたた寝さえまともに出来ない。
もう零れるほどのお薬を、躯が吸収しはじめた。 ひんやりと湿った空気がいい匂いなので、窓を開けて眠ろう。 そして現実とナイトメアは続いてる。
お薬をのんだのにあまり眠れていなくて、気分転換に違うお部屋でネットをしてた。 寝床をこんなにも嫌悪したのは初めてだ。 バスの中や電車の中や飛行機の中、そういう場所で眠ることが当たり前だった、たった数日で、 あたしは自分の部屋でどう過ごしたらいいのかを忘却した。 出来れば家にも居たくない。 足掻いてどうにもできず、ただただ顔を手のひらで覆う。 血にまみれた印象、血なまぐさい朝。 忘れられないあの様な夏に今年も至ってしまった。 息はできていますか。 白濁のため息を無意識に躯から追い出しても、その中に幸せは見出せない。 逃げてしまっては勿体無いほどの幸せを、あたしは躯の中に溜め込んではいない。 空は灰色。 お腹は空けど、食物を受け付けようとはしない。 たくさん眠りたいのに、ここから動くことが億劫。 目を閉じて、思考を止めて、息を整える、という手順が全く上手くいかない。 油蝉の啼き声が一番良く聞こえる、北方向へ枕を向けて眠ろう。 この目の色にも、もう飽きてしまった。
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