.hack//Roots *ハセヲ×志乃 - 2006年07月04日(火) ロストグラウンドのひとつ、轟々と本物さながらの轟音を立ててしぶきを上げる滝の前に彼女はいつも座っている。足をぶらぶらさせて、誰かを待っている。 かつり、と音を立ててハセヲは彼女に近づく。 ぱっとピンクの髪が揺れる。 そのときの表情がハセヲは好きで好きで、そして嫌いだった。 「志乃…、さん」 「、ん、どうしたの?」 ことさらに靴音を響かせてハセヲは彼女に近づく。ハセヲを見て微笑む彼女の笑顔は、先ほど振り向いた瞬間に垣間見たものとは似ているようで似ていない。きっと彼女が、あの男だけに向けるものなのだ。 それはとても綺麗な微笑で、ハセヲはいつも苦しい思いをする。 胸をちくりと刺す痛みを伴うのに、いやだからこそなのか、ひどく頭に残って何度だって見ずにはいられない。 そんな彼の葛藤を知らない彼女はすっと立ち上がりゆっくりと歩いてきてまっすぐハセヲの前に立つ。 うん?と小首を傾げる仕草が普段の彼女よりも少しだけ志乃を幼く見せた気がした。 「オーヴァンから連絡は?」 「ん、まだ」 「……そう」 「うん」 それ以上何もいうことが見つからなくてハセヲは黙る。すると、くすりと吐息が聞こえた。 「大丈夫だよ、私、がんばらなきゃって言ったよね?まだまだ……がんばれる、から…」 「志乃ひとりでがんばらなくてもいい!」 思わず張り上げた声にハセヲ自身はっとする。志乃は彼女が普段滅多に見せないような表情で、目を見開いてハセヲを見ていた。 「………俺がいる。し、タビーや、匂坂だって、…いる」 とてもじゃないけれど彼女を直視できなくて、首を反らしながら苦し紛れに続けた言葉に居たたまれない思いでいると、 「……うん」 すっと志乃が近づいたのが気配で分かった。次の瞬間、片方の手に暖かく柔らかなものが触れて、胸板の位置まで持ち上げられてハセヲは驚く。 「!」 見ると、自分の片手が志乃の両手に包まれていた。 「ハセヲ。………ありがとう」 「っ」 とても堪えられるものではなかった。 ハセヲは握られた片手をそのままに、もう一方の手でぐいっと志乃を引き寄せて、そして、強くその薄い背中を抱き締めた。 一瞬ぴくりと反った華奢な体はけれど拒否を示すことはなく、ハセヲの腕の中に包まれたまま。 そうして志乃は、ハセヲの手のひらを握った両手を優しく締め付けて、触れるだけの口付けを落とした。 それが感謝の念なのかそれとも他の何かなのか、もちろんハセヲには分からなかったけれど。 ...
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