「静かな大地」を遠く離れて
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舞台版『婢伝五稜郭』を10月13日の初日に観に行った。 殺陣と歌と踊りに彩られたエンターテインメント仕立ての中に、濃厚な佐々木譲テイスト を醸し出す男女の登場人物が、すっくりと立つ姿が快い。テーマは重くならざるを得ない。 だからこそ「北辰の星」を指す男たちと、銃を構える女の立ち姿が残る。
まだ小説版は途中まで雑誌掲載されただけだが、この舞台は『北辰群盗録』『五稜郭残党伝』 や『武揚伝』『くろふね』からも登場人物や要素を引いてきて、五稜郭サーガ名場面集という 趣もある。といっても、単に名場面をモンタージュしただけではなくて、メインの人物たちが しっかり軸を成しているドラマが、終盤に向けて焦点を結んでゆく構成になっている。
大スター土方歳三を出さないところに心意気を感じて好感をもったが、箱館政権組の人々は 新撰組人気とも相俟ってか、結構若い女性中心に人気があるようだ。もちろん榎本武揚も。 ネットで見てみると、伊庭八郎や星恂太郎あたりに反応する層もいると見受ける。 『婢伝五稜郭』が描く架空の男たちの見せ場は、この層にかなりアピールすると思う。 それぞれの道を行く途上で一瞬交差する運命、その中で交わされる反目、そして友情。 このへんを演じる役者さんたちの、舞台映えしてカッコいいことと来たら大したものだった。
全体として連想したのは、1962年初演の福田善之さんの代表作『真田風雲録』。 ほぼ半世紀前の作品だが、時代の転換期の若者の群像を描いて、近年に至るまで何度となく 再演されている傑作。豊臣家滅亡に重ねて時代の転換期と学生運動の気分を描いたところ、 女性と歌が重要な要素となっているところからの連想だろう。 舞台版『婢伝五稜郭』も今後、何度も再演されるような作品になってほしい。
■舞台版『婢伝五稜郭』 http://www.10quatre.com/next.html
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