「静かな大地」を遠く離れて
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2010年01月16日(土) |
マイケル・ポランニー |
2009年10月25日「メチエの誘惑」で書いた戯れ言が正夢になった(?)年明け、 ドキドキしながら購入して読み進め、ようやくさっき一読し終えた。この本の話である。
■佐藤光『マイケル・ポランニー「暗黙知」と自由の哲学』(講談社選書メチエ) 20世紀の「万能人」のユニークな思想 本邦初の本格紹介 科学の根源を問い、暗黙知理論を提唱した異色の科学哲学者。 科学のみならず経済学・哲学・宗教学の分野においてもユニークな思考を 展開した希代の天才の思想の全貌を初めて紹介する。 (目次) 序章 現代世界とマイケル・ポランニー 第1章 自由の哲学 第2章 経済学 第3章 知識論 第4章「宗教の受容」への道――科学、芸術、そして宗教 終章 暗黙のリベラリズムの可能性
「やってくれたぜ、山崎比呂志さん!」という意味不明な盛り上がり方は、さておこう。 著者の佐藤光氏の本は、大型書店で何度か覗いては専門書然とした佇まいに恐れをなして 読んだことがなかった。だが「ポランニーをポランニー自身の意図に忠実に読むという 研究の方向性は、不十分ながら示すことができたように思う」という真摯な姿勢、 「暗黙知」というキーワードの安易なインフレを戒めねばという義憤めいたパッション、 経済学と宗教の双方への手加減なしの論及の粘り腰、いずれも好ましく読めた。
栗本慎一郎『意味と生命』や講演「宗教を超えて」から20年余、カール・ポランニーは 昨今の経済情勢の文脈で言及される機会が増えてきたが、マイケルは「暗黙知」一辺倒で その議論の恐るべき射程に関心が向けられる日が来るとも思えなかった。 だがこのメチエは今でるべくして出た、と言って良いタイミングの行き届いた本である。 個人的にもこれから長い付き合いになる本になりそうだし、世の中への波及も楽しみだ。 さしあたり、以下に挙げる皆さんの書評を心待ちにしている。右のはエントリー理由♪
池澤夏樹 “アイシスト”や『ぼくたちが聖書に〜』や「帰ってきた男」の書き手 佐藤 優 内在的論理/究極以前/働くこと祈ること/中間団体/伝統の保守と再生 福岡伸一 『世界は分けてもわからない』を読んでから本書を読むと気分が出たので 松岡正剛 千夜連環篇で市場経済論を連打中、繋げて『意味と生命』を語ってほしい 三苫民雄 ハンガリーの思想家について貴重なサイトを開設されている方 安冨 歩 『生きるための経済学』は関心領域、問題意識が深く交錯している好著 山下範久 『現代帝国論』で「ポランニー的不安」を我が家で流行語にした功績により (50音順敬称略 笑)
他人に下駄をあずけて終わる、コミットメント感ゼロのご紹介でした。
佐々木譲さん、直木賞受賞おめでとうございます。 芥川賞の該当作なし、の会見は池澤夏樹さんの担当でした。このニアミスは、僕に 2006年秋の帯広でのお二人の対談の、あの幸福な記憶を想起させてくれました。
佐々木さんの小説は、もちろん着眼点のシャープさ、構成や描写の技術の確かさに 裏打ちされた、読者を裏切らない完成度が約束されているのですが、何よりも人間 を見る佐々木さんご自身の眼が澄んでいること、それが信頼につながっています。 今回の受賞は遅すぎたと思いますが、多数の読者の声なき声の集積だと信じます。
「静かな大地を遠く離れて」では、2001年以来『武揚伝』に言及してきました。 『武揚伝』にもらったものは日本の近代黎明期への視角の大転換だけではありません。 「ありえたはずの、もうひとつの未来」を想うこと、心の中に持つことは、必ずしも いつも思い通りになるとは言えないことが多い人生の中で、とても力になっています。 ヒトに潜在する未来は良きものとも悪しきものとも決定されてはいない、今ここでの 人格的参加こそが、未だ非決定な未来を地上に現出させて行くのだ、そんな想いです。
アムステルダムの海軍博物館で買った小さなガラスの地球儀が今も部屋で光っています。 あのオランダ滞在に新刊のハードカバーを抱えて行った至福に、最大の感謝を込めて。
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