「静かな大地」を遠く離れて
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2008年08月10日(日)

榎本武揚公の没後100年。
7月には記念シンポジウムを聴きに行った。「国際主義者か、帝国主義者か?」
という二項対立に収まらない、その大きな存在を未だ捉え切れない感を強くした。
世界が剥き出しの資本主義、というか教科書の中の出来事としか思えないような
帝国主義戦争の様相に迫っていく中、五稜郭以後の榎本武揚の人生の軌跡を知る
ことがますます大事に思えて来ている。佐々木譲さんの『武揚伝』に導かれて
日本の近代の端緒に潜む「ねじれ」を“体感”したことが、ずっと響き止まない。

この「ご縁」を確かめる思いで函館市立博物館で開かれている特別展に出かけた。

■特別展 没後100年「榎本武揚−箱館戦争の光と影−」

本物の流星刀や多津夫人とやりとりされた手紙も見られてうれしかったが、
最も気になったのは榎本が後半生に力を入れた「殖民」についての展示だった。
植民地という時のショクミンと同音だが榎本の言う「殖民」は意味が異なる、
という主旨のキャプションがついていた。
広辞苑で引いてみたところ二つの漢字が併記されていて区別されてはいない。
下記の研究書が新刊として出ているようなので当たってみる必要がある。

■東京農大榎本・横井研究会 編 『榎本武揚と横井時敬―東京農大二人の学祖』

展示スペースの一角にテレビが据えられていて、過去のNHKの歴史番組が
流されていた。ちょうど榎本武揚の特集でゲストの佐々木譲さんが映っていた。
しばし画面に見入る。

好ましき自由主義的保守、という言葉が頭に浮かぶ。最近、エドマンド・バーク
への関心から高山宏『ふたつの世紀末』を引っぱり出したり、佐藤優氏の言説に
触発されて「うむ、南北朝とフロマートカ」とか闇雲にわけのわからない対角線
を妄想してみたり、ネーション・ステートとフランス近代共和制のすったもんだ
が今後の日本で他人事ではなくなるだろう、とか話していたりしたせいだろう。
往年の大河ドラマ「黄金の日日」の終盤を見直していたせいもあるかもしれない。

榎本武揚。ナポレオン・ボナパルトを英雄視した青年、その長い長い後半生。
「洋行帰りの西洋かぶれ」や「二君にまみえた変節漢」は見当違いも甚だしいと
して、さて榎本武揚その人を今日の文脈でどう捉えれば未来につながるのだろう。
イノベーションを積極的に推進することで保守を実現する漸進的な自由主義者か。
榎本の視点から見えた明治をもっともっと体感したい。

函館は親しい街なので避暑がてら気軽に飛んだ。市電に揺られて久しぶりの
五稜郭へも足を運ぶ。さすがに日中は陽射しも強いが空気は爽やかだ。
「葉っぱの形が違うね」と北海道の地を踏む度の決まり文句をつぶやいて笑う。
青葉を繁らせた樹々が緑の下草に木漏れ日を落としている中をくぐって歩く。
「臨死体験のイメージ映像みたいだ」と妙な体感を口にしてまた笑う。

滞在の目的のひとつは、五稜郭のすぐそばの函館中央図書館を訪れることだった。
以前に来た時に函館市民がうらやましくて溜め息が出るくらいに気に入った場所。
何をするでもなく書棚の間をうろつくのが愉しい。オランダかフィンランドあたり
の都市の施設に来ているような居心地の良さがある。単に建物が新しいというだけ
ではない、確かな設計思想や運営方法があるのだろう。同じ日本という行政体の
中でも、やればできなくはないのだ、という実例として心慰められる思いがする。
蝦夷共和国の中枢たる五稜郭に隣接する図書館、というのが「あり得たはずの
もうひとつの未来」めいた連想となって、この過剰な思い入れをつくってもいる。
思えば前回函館を訪れた際、五稜郭タワーの上から俯瞰した景色の中に見つけた
のが、この図書館に来たそもそものきっかけだった。

すべては佐々木譲さんの紡ぎ出した極上のロマネスクの甘美な罠、というわけだ。


2008年08月09日(土) メモ「今、なぜ榎本武揚か」

※追記 このシンポジウムの模様は以下に掲載されました。

『環――歴史・環境・文明 Vol.35[特集]「食糧問題」の問題点』(藤原書店)
<シンポジウム> 今、なぜ榎本武揚か
M.W・スティール+小倉和夫+佐藤優+速水融 (司会)高成田享



シンポジウム「今、なぜ榎本武揚か」(7月11日 日比谷)


『近代日本の万能人 榎本武揚』

「国際人」ではなく「万能人」とする

日本の近代化

薩長ではなく旧幕臣 


ーーー各々10分間の問題提起


【M・ウィリアム・スティール氏】


勝海舟についての論文

米からみた函館戦争

日本の近代史 いろんな立場からみる

敗者、地方、農民、女性

『もうひとつの近代史』


1、「北」からの見方 

現在は東京から見ている(×) 榎本は視点が違う

北海道、サハリン、朝鮮半島、シベリア

1868.7.4 上野の闘い

1869.7.4 函館終結

ウォルケンバーグ公使 独立政権


2、日本史と世界史の関わり

"グローバリゼーション" 19C半ばからのひとつの地球的課題

近代国民国家の誕生 米、伊、独、日 統一戦争の時代

オランダにいる頃(1862-67)ー独ビスマルク、英仏民主的→日本の統一

榎本は蘭の統一戦争を見て日本の統一戦争をする


3、青年の夢

若さ、エネルギー、パッション

若い人がつくった世界

明治維新、函館戦争を30代で


4、米からみた榎本

共和国、徳川支持

公使、北軍、Progressive free trade 高く評価

日本の近代どうできたか 

教科書と異なる「語り」の面白さ



【小倉和夫氏】

榎本とアジア(直接はない)

清国公使

明治以降の日本のアジア外交の先駆者

朝鮮半島の安全保障の重要性を強調

 ↓

当 1、朝鮮が力をつける→難しい

  2、日清協調

時 3、日本が保護国化 

1885年 2、3いずれか問われたとき2を主張

 →清に拒否される→保護国化

もし拒否されてなかったら?

植民地主義、帝国主義者であったのか?

アジア全体の近代化、安全保障の観点、国際主義

日本の近代化のみとして考えてはいなかった

日本だけの問題ではないと見抜く

なぜあの時代に国際主義的視野をもち得たのか?



【佐藤優氏】

榎本との共通点→ロシアに長く関わった、オリの中に入った

1、エリートとは

2、他者理解とは

3、外交

4、国家


〈1〉

モスクワ大使館に写真 榎本初代公使初めて関心を持つ

『シベリア日記』

したたか(×)生き残る本質的な知恵がある人

インテリジェンス(←ドウブツにも使う!!)

空理空論(形而上学、哲学、宗教、朱子学)を好まない アンバランス(補足:朱子学はつまらない成績も良くなかった。長崎海軍で花開く。)

しかし、プラグマティック

〈2〉

シベリア日記 民俗学者 砂金 ピンポイントな関心 

エカテリンブルグ←重要な場所に気づく

ブリヤート モンゴル人 言葉の収集

内在論理を探る 中露との関係

〈3〉

交換条約 サハリン

当時のシーレーン 占守までとったほうが良い

北千島アイヌ 色丹島に移している 戦略的

帝国主義「食われない側にまわる」

〈4〉

国家「自分に従ってきた人を助けたい」

下からの共同体意識 祭りの要素、感覚 リアリズム

儒教的忠誠と同時に

オランダ ネイションステイト 

ロシア 帝国 中心が大事 皇帝に近づく

「この男ならば見せておいた方がいい」と思わせる


リアリズム レアール みえるものの背後に

名誉、過去のいきさつを越えて

明治

福沢もレアールな感覚をもっている

超越的なもの 閉塞状況を越える



【速水融氏】

歴史人口学

人を集団でとらえる学問 例外的に一人

近世ー近代の連続性

父 御家人株 幕臣

・地政 ゲオポリティーク

・知性 農業大学




ーーー休憩後、高成田享氏の司会のもと


■蝦夷共和国


パッション、共同体意識、米の榎本びいき

領土、土地というものへの考え方が違うー「一緒にやっていこう」という感じ

国家と対立というのではなく

国際法に通じていながら

幕臣の救済


H:藩臣もたくさん北海道へ開拓に行っている


S:「共和国」レスプブリカ 民衆のもの

  尊王思想が希薄だが国家思想がある

  ステレオタイプな国民国家にとらわれない

  国民国家以前ー線ではなく面だった  

  国境を「線」にしなきゃいけない

  とにかく生き残ること

  中江兆民 

 「共和国」に過剰反応しない

  レアールなものー


St:日本側の文献には「共和国」という語がない

  米側「リベラリズムへの最初の〜」

  オランダ首相当時リベラルな人、憲法つくった


S:天皇観は?(なぜ出てこない?)


St:天皇若い 薩摩のもとで動かしている コントロール

  天皇 皇国を拒絶はしないが unjust



■戦力vs戦力だけでなく外国「交戦団体」


St:国際法 海上法 プロパガンダ 新聞

  米独仏の極東プレゼンス 戦争で弱まっていた

  英国のほしいまま



■千島樺太交換条約 シーレーン


O:あの時点でロシアと手を打ったことが重要

  →朝鮮半島、清との関係に集中できた

  日露関係上の損得よりも…

H:樺太の調査人口 徳川時代 2500人くらい

  全島先住民 アイヌ、ギリヤーク… 19C初頭

  「無主の土地」土地の調査と人口の調査をして初めて自分の土地と言える

  樺太に未練



■日露戦争まで30年


S:歴史の反転現象

  北千島アイヌ アイヌ同化へのベクトル

  面の国境 混住→線にしなきゃいけない

  →7月5日 メドベージェフ 特別メッセージ

   「道新」生態学維持のため共同プログラム

    →再び国境が面になりつつある

   先月アイヌ


  「先住民族」 日本 多民族国家と明治的に認める

  (つづいて)

S:まったく未知のことをやろうとしている

  ファジィな状態を双方の外交当局が認めている

  とりあえず面という形でなんとかならないか

  ロシアが譲歩


O:国境という概念

  国境と国 どう考えるか 21C 重要

  一つの国家ー領土(×)EU 

  国民国家と領土的なものをどう考えるか

  色々なヴァリエーションが出てくる



■米 南北戦争後→日露戦争


St:Open door policy 自国の国益の為のゲーム

  日も米も膨張する未来観をもっていた

  太平洋、東アジア conflicting destiny

  ハワイ 1892,3年 米

  台湾  1894   日

  フィリピン1898 米



■国際主義vs帝国主義


H:少なくとも帝国主義者ではない?

  第三国を阻止する 安全保障

  榎本没後に日本は〜


S:帝国主義であり同時に国際主義者

  ライプニッツの〜モナド的に国家 モナドロジー しかし…

  大東亜共栄圏やユーラシア主義

  消し去ることができない、大きくなったり小さくなったりする

  本人葛藤で悩んでいない 包摂する論理もっていた


O:安部公房の小説

  「過去を葬るのに過去の方法をもってくるのは失敗だったな」

  明治政権

  安全保障 

  1、鎖国(徳川)

  2、一国安全保障主義(明治政府)

  3、日本は日本だけでは守れない(榎本)ー国際主義者

  「日本だけの近代化」はできない→WW2

  もし中国がともに近代化していたら…

  真の国際主義者/後の 

  明治にも矛盾あり、榎本にも矛盾あり


St:19C 避けられない 両面性

  国際/帝国の双方

  外交手段 武力 21Cでも消えてない



ーーー会場からの質問


■今、なぜ榎本か?(佐藤氏)

五稜郭後の榎本 

いま左に小倉大使と同席している

左と右 共通の言葉がない

右:歴史教科書/左:内紛

日本のことを考える

率直になってゆくこと


■先住民(佐藤氏)

S:帝国主義的せめぎ合い

  ロシア極東 意図的にアイヌ人をつくろうとしている

  日本先住民族カード先に切った

  ロシアではアイヌ研究がよくされている(沖縄や被差別部落も、日本の弱点ゆえ)

  ゲルナー 国民国家 近代的現象であることは明白

  国家と土地というもの 民族 ー 欧が必死で考えている

  1つできると9あきらめる

  自分の命を差し出す美しさー他者の命を奪う

  多民族日本のアイデンティティのもち方


O:民主主義社会 表現の自由

  やせがまんの説

  変節への情熱 物事を変えるときどうするのがよいか?ヒント

  なぜ変節したのか?ー「物事を変えようとしたから!」

  中に入ってするしかない

  江戸っ子(あっさりしている)


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