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ラヂオスターの悲劇
トマーシ
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2005年09月08日(木)
ボレロが流れている。

今は飛行機の中
そのクラシックの音楽プログラムに悠々迫らざるこのラヴェルの名作は組み込まれていて、およそ一時間ごとに繰り返されることになる。ちょうど二回目のボレロ。
飛行機は空の上。
さらに雲の上に出たところ。
射し込んできた鮮やかな光に弾みがつく。
雲はどこまでも連なって互いに紡ぎ合っていて
まるで巨大な中華鍋みたいで
そこに光が射すとギラギラと油がひかれているみたい。
雲が何層にも何層にも積み重なっていることが分かり
上から見た雲は鍾乳洞に垂れる石灰石みたいに奔放にあちこちで突起していた。
もちろん綿飴みたいでもあり、繊毛の厚い絨毯のようでもあり
ツヤツヤと生気を帯びて白い。

ラヴェルのボレロは次第次第に盛り上がっていく。
僕の見ているもの全て
その艶やかさは更に色めきたつように見えた。
太陽を覗くとそれは射すような光で地上から見上げるより
ずっとしっかりと導いてくれるふうに見えるのだった。



2005年09月07日(水)
久々で本格的な旅の空

電車で蒲田を通るのは初めてのこと。車窓からは第一京浜が見える。
いつもはこの向こう側なのだ。高速の降り口、立体のジャンクションを今通り過ぎたところ、いつもはその下をくぐり、今は真横に見ている。
まるでモノレールみたいな遮音壁とコンクリートの慎ましやかな駅を幾つも通り過ぎる。つんと甘酸っぱい気分。
どうして甘酸っぱいのかはよく分からない。
懐かしい気分でもないのだから尚更。
でもその甘酸っぱい気持ちが時々顔を覗かせながらも気分は時に乗じて
ドンドンフラットに滑らかになっていく。
重く不安に凝固するというのではなく塵芥ひとつなくフラット。
むしろ気分は軽いくらいだ。

外は雨、ギアはニュートラルで体は躍動感の極みにあるわけだ。
旅行の一番楽しい醍醐味はこのテンションに自分を持っていけるところにあるのかもしれない。色々なことは取りあえずチャラだ。

特にこうしてぼんやりと飛行機待ちに一人でいると
気持ちは粒が揃って研ぎ澄まされるけれど
この感覚こそは普段はなかなか持つことの出来ない
また留めることの難しい貴重で得がたい心持ちで
もうそれだけで十分に収穫を実感することが出来た。