日常些細事
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松浦亜弥さん(仮名・30歳)よりメールがくる。某マッサージ店でぐいぐい揉まれて半死半生の目に会ったらしい。オシトヤカな人だから文句も言えなかったようだ。 マッサージをしてもらったら余計に肩がこってしまった、という経験をされた方は多いと思う。筋肉は強く揉むとかえって硬くなってしまうのだ。 揉み返しというやつですね。 施術を受けて痛かったり強すぎると思ったら、 「痛いです」 「もっと軽くやってください」 と遠慮なく言ったほうがよい。 ほとんどの整体師やマッサージ師は要望に答えてくれる。 中には 「これでいいのっ。これが効くのっ。これがうちのやりかたなのっ。ぐいぐい」 なんて店もあるが、そんなところには二度と行かないことです。 けれど痛いのが大好き、というお客さんがいないわけではない。 以前足裏の整体に来られた男性。40代半ばで三つ揃いをびしっと着て、いかにも 「仕事が出来ますわたしは」 という感じの人だったが、施術の最中 「もっと強く。もっと強くやって」 何度も催促する。力を強くしても整体の効果には関係無いのでそう説明するのだが、 「いいから強く」 と聞かない。 しょうがないからかなり力をいれて手技をおこなったが、その間30分、椅子に座って苦悶の表情を浮かべ、ときおり 「いたたたたた」 体をくねらせ悲鳴をあげていた。 そして施術が終ると 「ああ。足がジンジンする」 と、うれしそうに帰っていったものである。 こういう人は辛い食べ物も好きなんだろうなあ、きっと。
ママカリフォーラム(注1)で整体のお仕事。『ITソリュージョンフェア』なるモバイル機器の展示会があり、そこで 「パソコン操作で疲れた体を整体で癒しましょう」 という企画である。 今回は主催者の意向もあって足だけの施術となった。私のほかに 小林さん(見た目40歳)と村橋さん(見た目26歳)の女性ふたりが担当する(注2)。 お客は結構大勢来ている。けれど食いつきが悪い。 あらかじめ主催者側からいただいているので料金は無料なのだが、興味はあるらしくチラチラこちらを見ながらも近づいてこない。 「どうですか?」 声をかけると 「いや。勤務中なので」 との答え。 聞くと皆お役人だった。 展示会と平行して岡山市長など自治体の長による講演が行われていて、その関係で来たらしい。とてもヒマそうにしているので施術を受ける時間はたっぷりありそうだが、誰かに見られて 『市役所の○○は勤務時間中に足裏マッサージを受けていた』 などと投書されては困ると用心しているようだ。 私も時間を持て余していたので 「まあちょっとだけ」 気の弱そうなひとりを無理やり座らせて足を揉む。 妙に柔らかい足の裏だった。 「疲れやすいでしょう?」 そう聞くと 「ええ。そうなんですよ。最近特にねえ」 私と同い年ぐらいのその人は、まわりを気にしながらも気持ちよさそうな表情をしていた。
(注1) 岡山駅の西に新しく出来た総合展示場の愛称。ママカリは瀬戸内海で捕れるイワシのような魚で、これの酢漬けは地元の名産品。近代的なビルに酢漬けで有名な小魚の名前を冠するとは、岡山県もなかなかスルドいセンスの持ち主である。 (注2) この仕事はメンタル整体師会から頂いた。整体の仕事の無い私を不憫に思って、師匠が時々斡旋してくれるのである。
本日はメンタル整体師会の勉強会。肩こり解消の新しい施術法などを教わる。 いろんなやり方があるものだ。改めて整体は奥が深いと思う。
ホームページ作成のため山口氏が来る。 山口氏がパソコンをちゃかちゃか動かすと、あっというまにセットアップが完了した。 これで私のホームページはプロバイダとかいうところをどうにかして電話線にもぐりこみ、皆様のお茶の間に現れるらしい。 電気素人の私には理解不能の事態であるが、ともかく私のホームページは完成した。 お礼を言って、山口氏に謝礼の入った封筒を渡す。 ところが山口氏、封筒を改めたとおもったら 「これは多すぎます」 謝礼の一部を返してくる。 「ぼくはまだ未熟者なのでこんなに貰うわけにはいきません」 と言う。 その謙虚な態度に 「いい人だ!」 私は激しく感動した。 「しかし金持ちにはなれんなっ」 そうも思った。 もともと彼とは知り合いなので、 「安くしてよー」 とお願いしていたのだが、それにしたって相場の3分の1である。 もっと欲を出してもいいのになあ。 こんなだから30過ぎて未だに嫁も貰えず収入も安定しないのだ(ちなみに私は40過ぎて嫁はおらず収入も少ないです。いいひとじゃないのに何故・・・)。
ホームページ作成のため山口氏が来る。 「ここの数字、赤色になってますが黒に変えてください」 「フツーの字体でいいんですよ、マンガみたいな文字じゃなくて」 ほぼ出来上がった作品をパソコン上で見ながら、派手で気に入らない個所を作り変えてもらう。 「ますます地味なホームページになっちゃいましたよ。いいんでしょうね?」 キーボードを操作しながら山口氏が言う。 「いいのです」 と私は答えた。
ホームページ作成の打ち合わせに山口氏が来る。 電脳のプロである山口氏は、私のホームページを面白くしようと色々なアイデアを用意してくれていた。 私は面白いホームページでなくて良いと思っているので、山口氏の出す提案を次々に断っていく。 自分のアイデアを軒並み却下されて、さすがに温厚な山口氏もムッとした表情である。 「これじゃあ、ものすごく地味なサイトになっちゃいますよ。いいんですか?」 「これでいいのだ」 私はバカボンのパパみたいに答えた。
2003年08月03日(日) |
ありきたりの励ましで |
夏季集会2日目。 歌会(注1)の休憩時間にA氏と話す。 彼はALSという病気の患者さんである。1月に会った時にはまだひとりで杖をついて歩いていた。それが今回は、奥さんの介護を受けながら電動車椅子に乗っての参加である。 しゃべる言葉もいくらか不明瞭になっていた。 常々私は 『人生のハンデは表現者の武器』 だと思っているが、いくら無神経な私でも本人を前にして 「いやー難病を患って大変ですね。その病気を題材にいい歌ができますよ」 なんてことはとても言えない。 結局、 「がんばってくださいね」 ありきたりに励ますことしかできなかった。 そもそも私が整体師を志した理由の一つは、病気や体の痛みで悩んでいる人の助けになりたい、というものだった。 それが今、目の前に病気の人がいるというのに何もできず手をこまねいているだけである。 なんという能無しであろうか(注2)。
会場に、A氏は2歳になる娘さんを連れてきていた。大きな目がくるくるとよく動く可愛らしい子で、部屋中を駆け回り参加者の笑いを誘っていた。 疲れ知らずに動きまわるのをとっ捕まえて、その小さな手を観る。 幼いながら生命線など主要三線に勢いがある。 彼女は長寿の手相をしていた。
(注1)参加者が提出した短歌を互いに批評しあう会。結構キツイこと言われて泣きそうになったりもします。
(注2)後日、師匠の秋山先生にうかがったところ、ALSといった筋肉系の病気にはアキレス腱反射刺激などの施術がよく効くのだそうだ。今度会ったらしてあげたいと思う。
2003年08月02日(土) |
激突人生の女(ひと) |
短歌人(注)2003年夏季集会に行く。 今年の会場は京都のホテルニュー京都。二条城のそばにあるなかなか立派な建物だった。ここで明日の夕方まで短歌三昧の時間を過ごすのである。参加者は150人以上と非常に盛会だった。 17時からのオープニングパーティーを皮切りに、高瀬賞、評論賞の授賞式、永田和宏氏による『酩酊講演』とつつがなくプログラムは消化されていく。 21時からは深夜サロン。日本の津々浦々より久しぶりに集まった会員たちが「ま。固いことは抜きにして」 お酒を酌み交わしながら親睦を深める、という時間である。 職業病というべきか、こんなときでも体のコッてる人を見たら整体したくなる。 田中麗奈さん(仮名・43歳)はひどい肩コリだった。 肩甲骨を動かしたり肩関節の回旋をする。しばらく続けているとガチガチだった肩や背中の筋肉が ふにゃあ と柔らかくなってきた。 本人からも 「ああ。ありがとうございます」。 などと礼を言われ、すっかり気を良くした私は頼まれもしないのに手相まで観てしまう。 田中さんの手には 『思い切りがよく、理論家で潔癖症。純粋な人なので世渡りはヘタ。なかなか妥協できなくて周りとしょっちゅう衝突する。そこら中にぶつかってばかりの人生』 と出ていた。それで 「あなたの一生は激突人生です」 と言うと、 「はははは」 乾いた声で笑われてしまった。 笑いながら 「わたし結婚できます?」と聞かれたのだが、 「相手がいい人だったら、あなたもいい奥さんになれるんですがねえ」 暗に無理と答えると 「あはははは」 豪快に笑いとばされてしまった。 笑っていたけど、たぶん物凄く怒ってたと思います。
(注)短歌人は短歌愛好者で作る会の名前で、私はそこの会員。同名の雑誌も発行している。小説などでは同人雑誌の会などというが、短歌の世界では結社と呼ぶ。短歌にはこういった結社が多数存在しています。
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