(仮)耽奇館主人の日記
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2005年01月31日(月) |
ささらの初恋のこと。 |
新潟は妙高在住のはとこ、ささらが初恋をしたと報告をしてきた。 相手は誰だいと聞いたら、歌手にして俳優の白竜だという。 私は正直、思いっきりのけぞってしまった。 渋いなんてもんじゃない。 白竜といえば・・・ 内田裕也主演の映画「十階のモスキート」の主題歌「誰のためでもない」がまず頭に浮かぶ。 そして、ビートたけしこと北野武監督、主演の映画「その男、凶暴につき」の酷薄な殺し屋の役が強烈な存在感を放っていたことを思い出す。 ちなみに、娘のサカキは泉谷しげるが好きで、カラオケでは「春夏秋冬」をレパートリーのひとつにしている。 何というか・・・田舎のヤンキー以上に、硬派な好みではあるまいか。 一体、何でまた白竜なのかと問いただしたら、私から借りていった本の中に、白竜の自伝があって、ひどく感銘を受けたのだそうだ。 一般的に、硬派で、男臭い好みとして、分かりやすい対象は、東映Vシネマの竹内力なのだが、私ははっきり言って、ただのイメージだと思っている。 内田裕也、泉谷しげる、白竜のように、文字通り、歯茎から血が出るほど歯がみしながら、グチャグチャになったものをさらけだしてしまった男たちの方が、よっぽど信用出来る。 人間は、誰でも、本質的に弱いのだ。 その弱さを思いっきりさらけ出せるのは、ひとつの強さなのである。 さらけ出した上で、生き延びようとする強さだ。 そこに、男の色気が漂うと、私は考えている。 「それじゃあ」と私。 「おまえが好きだって言ってた、松田龍平はどうなったんだ?」 電話の向こうで、ささらがふふんと鼻を鳴らした。 「確かにカッコいいけど、まだそれだけだもんね。白竜、カッコいいよー。ねっ、今度CD全部コピーしてー」 私は受話器の前でニヤッと笑った。 今時の女の子みたいに・・・ジャニーズ系やナヨッたボーイどもに傾かないところが、新潟の女系家族特有ではある。 面食いではないのだ。 その代わり、男を見る目はしっかりしている。 それにしても、白竜か・・・ 今春で中学一年生の女の子、 「マシュマロ通信」が大好きな、おしゃれ命のささらの初恋の相手が、 よりによって白竜。 人のことは言えないが、我が家族ながら、やっぱり変わっている。 でも、幸先いい。 今日はここまで。
2005年01月09日(日) |
優しいサディストのこと。 |
SMにおいて。 私というキャラクターをひと言で言い表すなら、「優しいサディスト」なのだそうだ。 我ながら、ニヤッと笑ってしまう表現だ。 確かに。 ガブリと本気で噛んだ後、必ず、ペロペロと優しく舐めることをする。 その逆もやる。 私の優しさは・・・人の痛み、苦しみ、悲しみを知ってる上での思いやりからくるものだと、自分では思っているが、どうもそれだけではないようだ。 以前、「狼の優しさ」について書いたことがあるけれども、 「獲物を美味しく食べるために、もったいぶる」という、動物にもある「愉しみ方」なのだろうかと考えている。 猫がネズミを弄ぶあれと同じである。 ああいう動物的な、本能的な愉しみ方・・・ 当然、人間にも備わっているもので、どれだけそれを自覚するかで、その人のセックスの楽しみの幅が決まる・・・ ということは。 SMも含めたセックスにおいて、高級な感覚を持ち合わせているのは動物の方で、真にケダモノと蔑むべきは、人間の方なのだ。 その証拠に、己をコントロール出来ない輩の何と多いことか・・・多発する陰惨な殺人事件を見ても分かる通りである。 ほんとうに・・・ 動物の方がよっぽどうまくやっているのだ。 ケダモノじみた人間であるよりは、人間らしいケダモノでありたい。 そんなわけで、今日も、私は自由自在にタガを外して、狼に変身を遂げることを愉しんでいる。 ニヤリ。 今日はここまで。
私の教え子の一人に、一匹の蝶々がいる。 蝶々だけに、とても壊れやすい羽根をしている。 でも、その存在は美しい。 今日、彼女は十八歳になった。 秘密の名前を呼んで・・・ 「お誕生日おめでとう」。 ・・・・・・ 君にホセ・ドノソの「夜のみだらな鳥」の冒頭に掲げられた、 ヘンリー・ジェイムズの言葉を贈る。
分別のつく十代に達した者ならば誰でも疑い始めるものだ。人生は道化芝居ではないし、お上品な喜劇でもない。それどころか人生は、それを生きる者が根を下ろしている本質的な空虚という、いと深い悲劇の地の底で花を開き、実を結ぶのではないかと。精神生活の可能なすべての人間が生まれながらに受け継いでいるのは、狼が吠え、夜のみだらな鳥が啼く、騒然たる森なのだ。 ・・・・・・ 私は君に言う。 マイナスに呑まれてしまうほど、君は「人間」の形をしていないと。 そこらへんの、普通の、「人間」・・・ マイナスと対峙すると、何も出来ずにマイナスそのものになってしまう、脆弱にして醜悪無残な「人間」たち。 世の中に揉まれることに慣れずに育った彼らは、だからこそ、周囲にも、自分自身にも弱く、醜いのだ。 「人間」であるよりは。 一歩下がって、「人間」を客観的に眺められる「何か」になりたまえ。 自分自身を壊して、新しい自分自身を手に入れるために・・・ まず。 マイナスを呑みこんでしまいたまえ。 そっくりそのまま、創作意欲・・・叫びの材料になるぞ。 君の秘密の名前を呼んで・・・ 吠えたまえ、啼きたまえ、君自身の森を騒がしたまえ。 ・・・・・・ 君の行く道に、この曲を贈る。 スターリンの「ワルシャワの幻想」だ。
オレの存在を頭から輝かさせてくれ! おまえらの貧しさに乾杯! メシ喰わせろ!
今日はここまで。
2005年01月05日(水) |
サカキ、痴漢に遭うのこと。 |
去年の話になるが、剣道部の帰りに、娘サカキが痴漢に遭ったという。 それでどうなったかと聞いたら、持っていた木刀で、メッタ打ちにして、大怪我をさせたそうだ。 両腕、右足をボッキリ骨折させてやったと自慢げに話すサカキに、苦笑しつつも、私は不安を抱いていた。 で。 今日になって不安は的中した。 痴漢の親御さんから連絡があって、「過剰防衛」で告訴すると言ってきた。 前もって、サカキに、訴えられた場合、私に連絡するように言えと言った通りに、わざわざこちらに連絡してきたわけだ。 瞬間的に、告訴が本気ではないことを読み取った。 もし本気なら、正式に弁護士を通すはずだからである。 息子が痴漢をしてメッタ打ちにされたからと訴えるほど、恥知らずではない場合だが。 何とか「賠償金」を取ろうって腹だな・・・ ニヤッと笑って、私は電話口でのらりくらりと相手の攻めをかわしつつ、 「てめえんとこのガキが痴漢を働いたから、そういう目にあうんだろうが。ガキの躾を代わりに娘がしてやったんだ、こっちがカネを要求したいくらいだぜ。おさわり代も含めてな!」と一喝して、一気に土俵際まで寄り切ってやった。 「何なら、告訴してもいいぜ。世間様に息子さんの行状を広めた上で、『過剰防衛』とやらを訴えたいのならな」 と、付け加えて、押し出しで私の勝ち。 それにしても。 息子がバカなら、親もバカ丸出しである。 重傷を負った息子を見て怒るより、そういう目にあわないように育てるのが親の役目ではないだろうか。 だから、常々、サカキには言い含めているのである。 「自分の身は自分で守れ」と。 そのためには、相手を殺してしまっても構わないとまで言い聞かせている。 くだらない社会的道徳とやらで、自分が殺されてしまったら、割りにあわないからだ。 生きてこその人生である。 ・・・・・・ 電話の後で、私はサカキに言った。 「今度、痴漢にあったら、そいつの親もぶっ叩いてやれ」 サカキは電話の向こうで、ニヤッと笑って、「うん!」と返事をした。 今日はここまで。
塚本晋也監督の「鉄男」を初めて観たのは、二十歳だった。 中野武蔵野ホールのレイトショーで観た時の、衝撃はいまだに皮膚感覚まで鮮やかに蘇ってくるほどだ。 一緒に観た友人は、気持ち悪い、わけがわからん、ヒドイなどと酷評していたが、私は全く正反対の感想だった。 何故ならば・・・ 塚本晋也演じる「やつ」が、工員をしていたとおぼしき、工場と同じ光景が、幼年時代の記憶に大きく位置していたからだ。 タールの匂い、生の金属の匂い、錆びた金属の匂い、メッキの匂い、火花の匂い・・・ 市川の実家の近くにあった、スクラップ工場は、幼年時代の私の格好の遊び場だった。 何台も積み重ねられた廃車の山、むき出しになったエンジンが散在する迷路の中を進むと、膨らむように変形したコンテナに詰め込まれた鉄材の屑の山が見え、螺旋状になった削りカスをひとつひとつ、ていねいに選んで持ち帰ったりしていた。 年上の、近所の悪ガキたちは、そんな私に目もくれず、石を持っては、車のボンネットやテレビのブラウン管に投げつけて、叩き割ることを日課にしていた。 そんな破壊の光景を眺めているうちに、私の中に何かが芽生え、「鉄男」の中で「やつ」が太ももに埋め込んだ鉄材とそっくり同じものを拾って、そこら中をガンガン叩くことを始めるようになった。 当時、私はまだ補聴器をつけておらず、私の世界には「音」が存在していなかったが、裸の耳で・・・ 生まれて初めて、聴いた音が鋼鉄の軋み、衝撃などの・・・高音だったのだ。 要するに、ガラスを引っかくような、耳障りな高音なら、聞こえる耳だということが判明したわけだ。 そのせいもあって、私は「鉄男」のサントラを手がけた石川忠のノイズっぽいパーカッションにもひどく反応した。 幼年時代の私が想像した、 全ての工場の全ての工員が一度は妄想したかもしれない、 「鋼鉄との融合を果たした、新しい世界」。 そういう夢を見事に、危険なまでに映像化したのが、「鉄男」だったのだ。 私は一度、鉄材で錆を削り落として、それを手のひらに集めて、口の中に入れたことがある。 じんわりと唾液が染み込み、金属の味が口いっぱいに広がり、私は錆を噛みながら、その不味さに耐え切れず、ペッペッと吐いた。 その記憶を呼び覚ますきっかけの「高音」は・・・ 「鉄男」の中のあのシーンだ。 工員姿の「やつ」が歩く途中で、金属製のハンガーをたわむれに引っぱたくシーンである。 ピンチの数々がジャラッと音を立てる・・・ 私の耳には、あの「高音」がひどく気持ちよかったのだ。 今。 そういう「高音」を聴かなくなって久しい。 しかし、聴きたくなれば・・・ 今の私はいつでも「高音」を作れる立場にいるから、常に「世界中を燃え上がらせてやる」ことが出来るのだ。 ・・・・・・ 友人と「鉄男」についてこんな会話をしたことがある。 「『鉄男』でマスをかけるか?」と友人。 「かけるとも」と私。 「劣情をもよおすシーンなんてあるのか、あれ?」 「劣情じゃねえ。マンコを思い浮かべるだけがオナニーのネタじゃねえんだ。俺は『鉄男』そのもので勃起するね」 ・・・・・・ 今日はここまで。
柴田剛さんと再会した。 私にとっては、数少ない男友達の一人であり、尊敬すべきアウトロー映画作家である。 久しぶりに見た彼は・・・ 全体的に色濃くなっていた。 匂いも濃くなっていた。 以前はひょろっとしたイケメンの優男だったのだが、今はプロレスラーの高山善廣選手みたいになっていた。 連れの女の子とは初対面で、ガラにもなく照れてしまったが、しっかり挨拶した。 匂いを嗅ぐと、ただの女の子ではなかった。 剛さんの紹介どおり、アウトローの匂いがぷんぷんしていた。 三ノ輪に引っ越しするということなので、大阪、下北沢と、だんだんこちらのエリアに近づいてきているのは、思わずニヤリとした。 ・・・・・・ 私と剛さんの共通点はズバリ、「泥臭さ」である。 もっと煮詰めて言ってしまえば、「日本の原風景」なのだ。 ちょっと威嚇的に言うと、破壊と狂気と地獄の中で明確になる、血みどろの、静かで清らかな、美しい「光景」だ。 三人で飲んでる間、スターリンの話になって、剛さんが歌詞を口ずさんで、私もノリにノッたところでも、私たちの匂いは似ているのだ。 そういう友達は大切にしたい。 だからこそ、私は出来ることであれば、喜んですると決めている。 今回は急だったので、剛さんのご要望に満足に応えられなかったかもしれないけど、何かあったらまたいつでも。 三人の健康を祈って、乾杯! 今日はここまで。
2005年01月02日(日) |
初夢とささらの宣言のこと。 |
まず。初夢は、こんな内容だった。 さらさらと柔らかく降る雪の中を、深く積もった山の上を、クロスカントリーで滑り歩いている私がいる。 後ろをさくさくとついてくる桜の君がいる。 彼女は真っ裸だった。 そのうち、雪が止み、山道が広がって、広々とした雪原が大きく視界に飛び込んできた。 暗く、蒼い、夜空が真っ赤に溶けるように消え、朝日がゆるゆると顔を見せてくる。 陽光が雪原に反射して、それを全身で浴びると、私は一切の苦悩、懊悩が消滅するような、晴れ晴れとした気分になった。 そこで桜の君を振り返り、 「寒くないのか、おまえ」と私。 「ううん」と桜の君。 「やっぱり、あれか、おまえ、雪女だったんだな」 「うん、あたしもびっくりよー」 私がニヤッと笑うと、桜の君もニヤリと笑った。 こんな内容を、桜の君に報告したら、すごくいい夢だなぁと言われた。 雪国の人間なら誰でも知ってることだが、雪の中の空気はとてもきれいなのだ。 その中を呼吸するだけで、ほんとうに肺が清らかになる。 朝方の空気は特に、きれいで気持ちがいいので、初夢に雪国の朝日を拝むのは、吉兆だと思う。 桜の君にとっても、いい年になりますように。 ・・・・・・ はとこのささらが、キッパリ、宣言をしてきた。 生意気にも、「アーティスト宣言」である。 絵を描いたり、詩を書いたり、ギターを弾いたり、写真を撮ったり・・・と、オールラウンドのマルチアーティストになりたいという。 「ほほう」と私。 「そのためには、何をしなきゃならんのか分かってる上での宣言なのかな?」 「モチロン。おじさんのあの言葉、大好きだから、あの通りにやっていくよ」とささら。 「?」 「“いっぱい、詰め込む”、英語だと“フィールド、シールド”・・・」 「ああ」 ほんとうは、私の言葉ではない。 英国の怪談の達人、M・R・ジェイムズの短編に登場した言葉で、韻が好きなので、いつまでも覚えていただけなのだ。 しかも魔術、妖術に深くかかわる言葉である。 それがささらのモットーになるのか・・・ 私はニヤッと笑って、 「とりあえず、何から始めるんだい?」と聞いた。 「まずは、ヌード。おじさん、あたしのヌードを撮って」 「・・・・・・」 しばらく沈黙を続けたが、私はしっかりした声で返事をした。 何と言い返したのかは、ここではあえて書かない。 今年は今年で、また色々ありそうだ。 今日はここまで。
喪中につき、新年の挨拶はしません。 去年は色々ありすぎたので、今年はいくらか穏やかな年になりそうです。 でも、大晦日に、お寺で除夜の鐘をつく前に、娘の榊が新潟からお客を二人連れて現れました。 これが、新年早々、私にとっては頭痛の種でした。 佐渡島の透と、その小学校の元担任だったからです。 例の・・・透の種を搾り取って、子供を孕んだという先生です。 こちら、今年小学六年生、あちら、今年三十三歳の元小学校教諭。 水垢離を終えると、私は榊を廊下に引っ張って問い詰めました。 「あの二人は何だ?」と私。 「何かね、お父さんに会いたいんだって。バシッと喝を入れてもらいたいとか・・・」と榊。 そこで、私は早速、透と先生を呼びました。 「これから鐘をつくけど、おまえたちの分も勘定に入れてつくぜ。時に先生、おめえさんの名前は?」 先生はフルネームを言いましたが、ここでは名前だけにしておきます。 「・・・幸子?紅白のトリも小林幸子だなあ。これも何かの縁だあね。それで、ズバリおめえさんの心中は、この雪空とおんなじだろう。身を切るような凍てついた中を、さらさらと降る雪とな。おめえさんの四苦八苦を百八と数えて、しっかり鐘の音を聞きなよ」 私は透の頭を撫でながら、ふんどし、作務衣と丁寧に身も心も整えて、しっかり鐘をつきました。 ・・・・・・ お寺の食堂で、軽く食事を済ませて、檀家のお参りの対応を、私の分まで従弟に任せて、二人を連れて土蔵の中に入りました。 当日記の長い読者さんならご存知、「地下室」のある土蔵です。 「地下室」へは降りませんでしたが、中二階に上がりまして、そこで裸電球の明かりの下で、二人を相手に「安珍と清姫」の話をしました。 有名な話である以上に、日本人なら知ってて当たり前なので、ここではいちいち説明しません。 男女関係の「あるべき形」のひとつとだけ申し上げましょう。 「透、寒いのは我慢して・・・脱いでくれ」と私。 「みんな脱ぐの?」と透。 「うん、真っ裸になるんだ」 裸電球の光で押しやられたとはいえ、圧倒的に濃い闇が四方を取り囲んでいる中で、あらわになった少年の裸体は、妖気を放つくらいの瑞々しい美しさに溢れていました。 「先生、幸子先生、目を伏せちゃならねえ。よっく見るんだ、おめえさんの中の『蛇』が這い回った透の肌を・・・どう感じるか、ありのままを言いな」 幸子先生は正座していましたが、そのまま闇の中へ後ずさりするように目を伏せるどころか、背けていましたので、何だかいびつに見えました。 「透、手をどけろ。隠すんじゃねえ。そいつも先生の前にさらすんだ」 透は両手で自分のペニスを覆っていましたが、私を恨むような流し目でちらと見やり、それから、先生の前でゆっくり両手をどけました。 先生は見るも哀れなほど、呼吸が荒くなり、胸を両手で覆って・・・むせび泣き始めました。 「どうして・・・こんなことを?なぜ、あたしを追い詰めるの?・・・」 間髪を入れず、私は地声をはりあげて、「喝!」と叫びました。 「追い詰めてんのは、俺たちじゃねえ、おめえさん自身なんだ。もっと心を脱いで、今の透みたいに素っ裸になっちまえよ。聞くが、透の裸を見て、今でも抱きたいと思うかね?」 「思います・・・」 「そら見ろ。なら、いちいち自分自身に何かと理由づけて、がんがら締めに縛るんじゃねえ。年の差や世間体なんて関係ねえんだ。おめえさんが透を抱きたいから抱いた、それだけよ。それだけを考え詰めればいいってことよ・・・透」 私は立ち上がって、背後から蜘蛛のように透の両肩を掴み、自分の羽織っていたどてらをかけてやりました。 「おまえも先生を孕ましたからっていちいち気に病むんじゃねえ。男は女ででっかくなるもんだぜ。ちと早く、知ってしまったというだけさ。こうなったら、とことんまで先生に教えてもらいな」 透が振り返って、私に抱きついてきたので、私は優しく抱きしめてやりました。透の耳元にぼそぼそと囁きながら、頭をぽんと叩いて・・・ 「先生、ガキを始末なんてことは微塵も考えちゃならねえぜ。面倒は俺が見てやるから、とにかく産むこった。ガキに罪はねえ以上に・・・先生も、生まれてくるガキも『家族』だからな。おめえさんの透に対する愛が本物なら、その愛でもって堂々と生きていけばいいのさ」 土蔵から出ると、二人ともスッキリした顔になっていました。憑き物が落ちたという感じです。 お寺のお勤めが終わって、娘の榊を迎えに来た紅蜘蛛お嬢様と談笑しながら、私服に着替えていると、幸子先生が意味ありげな笑顔で廊下から手招きしました。 「何です、幸子先生?」と私。 「ひとつだけ分からないことがありまして・・・」と先生。 「うん?」 「何で、『安珍と清姫』の話をしたんですか?」 「ああ。そりゃ先生が透を追いかけ続けるためのハッパでさあ。もちろん、先生は透と結婚して一般的な家庭を築くことは出来ねえでしょう。透の子供を産んでもなお、先生自身が『家族』であるためには、透を追い続けなければならんのです。まさしく、清姫のようにね・・・先生はもっともっと、先生の中の蛇に正直になるこってすよ」 ・・・・・・ 雪が止んで凍てついた空気が張り詰める中、従弟の嫁が運転する車で我が家に向かう途中で、私は嫁と、長男のハルが透のように女教師に食われたらどうするかを論じ合っていました。 「当然、中絶させて、訴えてやるわよー!」と従弟の嫁。 「ケツの穴が小せえな、てめえは。それでもお寺の奥さんかよ。もっとどっしり構えていかんと、みんな心が貧しくなるだけだぜ」 「じゃあ、もし、もしの話よ?サカキちゃんがどっかのオヤジに孕まされたら、どうするの、あんたは?」 「そうなったら、そうなるしかねえやな。何かの『縁』と思うしかねえ。俺はびっくりはするだろうが、てめえみてえに慌てはしねえよ」 我が家に着いて、車を降りると、嫁が運転席から、近所の人が窓を開けてくるくらいの大声で、 「バカ!!この、三国一の大バカ野郎!!・・・今年はあんたにとっていい一年になりますように。いつもいつもありがとうね、お世話になっています」 と最後は柔らかく、上品に挨拶してきました。 私はうんうんと頷きながら、挨拶を返しましたが、嫁の車が発進したところで、雪玉を作って、愛情たっぷりに車のケツにぶつけてやりました。 ・・・・・・ やっぱり、喪中の連絡が間に合わなかったと見えて、何人かから年賀状が来ていました。 私はへろへろになりながら、根性で熱い風呂に入り、初風呂の感触をじっくり味わいました。 ・・・・・・ いまだ、ホムペ制作中ですが、今年もよろしくお願いします。 今日はここまで。
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