売り場にて 6月用のチラシを作らねばと思い出し コピーの裏紙に鉛筆で下書き わら半紙で刷るつもりなので もちろん写真なぞ載せられず せめて商品名だけでもとひねり出した
リネンのバッグ 天然石のアクセサリー 和布あしらいのTシャツ 絽のアロハ 泥大島や博多帯を使ったスカート その中には まだ試作品の段階のものもあり 実際は間に合うのかどうかスリル満点
夕方 Kさんがやってきて あと少しで完成の絽のアロハを見せてくれた 撫子柄の涼しげな水色で ウエストをシェイプしたかたちが とても女性らしい けれど製作には相当苦労したようだった
わたしも 次作はトップスをと思うけれど 袖付けや衿の始末を考えると なかなか取り掛かるのに勇気が出ない 使う布も作りたい形も決まっているのに もう一本スカートを縫って 勢いをつけてからにしようとかずるずる
チラシはKさんが 原稿をもとに文字の部分だけ パソコンで作ってきてくれることになり 無理のない範囲でお願いした さてさてあと一ヶ月 既に地域の情報誌にも掲載され いよいよという感じになってきたぞ
ブログに手を入れて ネットショップとリンクさせた とうから借りていながら 画像を日常的に撮るというのが わたしの中にはなく 毎週月曜日にわくわく館へ出かけては またデジカメを忘れているのに気付く
けれどやっぱり 今がとても楽しく貴重な日々なので 文字だけでなく 別のかたちで残しておきたい 毎日の小さなあれこれが 少しずつ積み重なっていくように 画像を載せられたらと思う
それにはどうしても お店を作るという 解り易いくくりが必要で 決してそこが到達点ではないのに まだ見ぬ未来から 今を振り返っているような 複眼を持たなければならない
それは時にちょっとつらくて 自分を縛ることでもある 同じように 6月というお尻を決めた展示も 自分を追い込む要素になっている こんな風に何かを課すことを 今まで極力避けてきたわたしだったのに
春はなんだか忙しく 子ども達の学校のことだけで ついつい提出書類も忘れそうになる 授業参観に家庭訪問 これからそれぞれの旅行の説明会もある おまけにふたりとも体調を崩して 病院通いと眼が廻りそうなほど
やっと成人して就職したと思ったのに 自分の子どもが あの電車を運転していた当人だとしたらどうだろう たくさんの人が亡くなったことに 思いを馳せたあとで ふと運転手の母に自分を重ねている
子どもが自立しても 一生親であることは変わらない まるで最初からひとりで生きてきたように いつか親なんか忘れて 自由に歩いて欲しいと思う けれどその子が何らかの責を問われるなら 本人以上にわたしも背負うことになるだろう
それを思えば 自ら何かを課すことなんて 贅沢な余興に過ぎない けれどそれができるようになったのも 何よりも重い命を産みだしたことの お陰なのかもしれない
わくわく館で作業の日 まずは昨日買ってきた古物を 一緒に行けなかった Hさんに披露しつつ ラッピングしておいた銀の杯を プレゼントした
それを見つけたとき 繊細な仕上げと 杯というアイテムから これはわたしよりも 彼女が持っている方が 相応しい気がしたのだった
木箱の蓋を開ける手つきからも 大切なものを見る様子が窺えて 感想の言葉ひとつひとつが やっぱりあげてよかったと こちらもシアワセな気分になれた
そのあと わたしは壁のやすり掛け Hさんは台所仕事をし 午後になってKさんがやってきた 売り場をやめた彼女に 先週ふたりで選んだ着物をプレゼント
それを仔細に見ながら とても喜んでくれて 感想の言葉ひとつひとつがまた嬉しい 選んだときのあれこれを話しながら 一緒に買ったそれぞれの着物も また披露しなきゃなんて思う
それから またそれぞれ作業に戻り Kさんは うちから運び込んだ古い箪笥2段に ステインと柿渋を塗ってくれた 3段に分かれた一番下の部分は 既にKさんの家にもらわれて とても素敵に仕上がっている
残りもあげたいぐらいだったけれど お店で使うことになり ついでに以前運び込んだ タイル貼りの台も化粧直ししてくれる予定 もとはただのものばかりが 大切に扱ってくれる人の手によって どんどん新しく生まれ変わっていく
着物リメイクのお店へのお誘いで 久しぶりにお出かけ気分 他にも 陶器の展示会ふたつを眺め 古物をゆっくり物色したり お豆腐料理を食べたりと 盛り沢山の一日だった
古物は 雑多な中に何が埋もれているか 発掘する行為そのものが楽しく 今のものは その置かれている空間の雰囲気も ともに味わいながら眺めるのが楽しい
いかにも人の手で作られたものを見るとき 繊細さや緻密に工夫をこらした技に惹かれる シンプルであればあるほど ごまかしは利かないから 丁寧な技は必ず伝わってくる それは古いものにも 新しいものにも共通している
6月の展示会のために製作中のものを それぞれが持ち寄っていて お互いに自分にはない個性の 手作りを見せ合いながら 悩みのポイントや 工夫なんかを交換しあった
行った先で出合ったものはもちろん こんな誰かの製作の過程を共有できることが とても刺激になる どんな素敵な空間や 雑多なものに紛れても 負けずに立ってくれるようなものを 作れるようになりたい
菊丸の命日 飾ってある写真の中のキクは 今も使っている大きな座卓に 顔だけを乗せてふにゃあっとしている まだ若くて 死期が近づいた頃とは 長い毛の色も全く違う もっともそれは死んでから気付いたこと
いつもは自転車で行く距離の用事を 出かけようとしたら自転車がなかった さっき出かけてくると行った上のコが 自分のじゃなく かごつきのを乗る用事があったのかと 仕方なく歩いた
細い路地を抜け いつもとは違う目線での徒歩は 知らないうちに キクとの散歩を思い出させる ほんの取るに足らない小さな偶然の時間が 今日持てたことの不思議
元は母屋として使っていたのだろうか 今は農家の道具置きになっている古い家 車道からも離れて 小さな庭の緑が美しい こんな場所に住んで やつとゆっくり日なたぼっこができたら
また 選びようがなかった人生を考えている いつか きっといつか そんな風に暮らせるように出会いたい
それはハトが食べるもの〜♪ なんか知らないけど 朝起きたときから ハトマメが頭の中で流れ続ける 今日はわたしの誕生日
蚊絣の男着物を どんなスカートにしようか 悩みに悩んで 古い大島を組み合わせることに決定 星型模様を細長く裁って 蚊絣の縫い合わせ部分を 大島のリボンで隠すように
朝からミシンを掛け始め 5幅分の縫い合わせを 全部折伏せ縫いで仕上げ 大島を4本つけたところでもう5時間 あと一本と 丈を長くするために 裾にも大島をと思うけれど 根気が続かずブレイク
今回の生地合わせは ちょっと法曹の衣装みたいな雰囲気で 本当はギャザーもタックも入れない方が 良質感が伝わってくる ただ生地が薄地なので すとんとした仕上げだと 形に負けてしまうのだった
2着とも よく着込まれた着物だったので このスカートを作った残りは ほとんどハギレでしか利用できないだろう 残念だけど 今の手持ちの中では ベストの組み合わせだと思う
越してきた時から 眺めていた着物 どう表現するかのアイデアは あの頃よりはるかに広がった もっとツールを獲得したらきっと より多くの可能性から選べるのだろうけど
ハトマメを食べた外人は 英語で説明されてもやっぱり ハトマメを食べたかもしれないしね
わくわく館の中庭に手を入れた 4方の部屋の窓に囲まれて いろんな緑が雑多に植えてあるそこの 真ん中辺りに砂利の小山があって それをどうにかしなければというのが Hさんの一番の気がかりなのだ
中庭には水道がないので 台所から長いホースをひっぱって ザルに入れた砂利を洗っては 犬走りのコンクリを埋めていく作業 Hさんが掘る係りで わたしが洗う係り 一緒に作業しているうちに その場で自然と役割分担が決まるようになった
けれど その半端じゃない量に 大仕事の予感がひしひし 次第に口数も少なくなり 腰は痛くなり 別の作業でブレイクを入れないと とても続かないのだった
なのでわたしは 朝のうちいつもの家具捨て場で拾ってきた 椅子やテーブルを洗い Hさんは 延び放題のバラを剪定 それからお昼を作って食べながら 途中まで掘った庭を眺めた
ちょうどあの掘った辺り あそこに桜の木を植えようよ ほんとだよねいいよねえ まるでもうそこに 枝を広げた桜の木が見えるようだけど 苗木を植えても すぐ花が開くとは限らない
でも 春になるたびに 初めての桜を待つのも悪くない
疲れているからと早寝したのに 3時に目が覚め次は5時 昨日から夢ばかり見て その内容もあまりよくない 無意識からのメッセージでもなんでもなく 現実と絡まった浅い夢
ひとつは週2日どこかへ 勤めるための面接 大勢が集まっていて かなり感触はよかったものの 提出用紙に必要事項を記入して間違え 上に別の紙を貼って書き直そうとしたら 用紙がどこかへ紛れて見つからない
あせって探す一方で ここが決まっても 今の生活にこれ以上の何かを加えるのは 到底無理な気がしていて だからこそ紛失したのだとも思えた 安定収入をプラスするためとは言え それはわたしの課題を 先送りするだけなのだった
もうひとつは近未来の設定で 何故か状況が悪くなり 人質を連れて逃げようとしている夢 あまりに直接的すぎて嫌になる それで逃げたらどうなのか どうして逃げなきゃいけないのか なんの理屈もわからない
窓越しに朝陽が昇る 誰にも平等に与えられたいちにちが始まる ともかく今日は売り場が待っている 頑張ろう 子ども達のお昼には なにを作って行こうかな
店舗の壁 もともとは石膏ボードの上に 紙のクロスが貼ってあり 薄汚れも混じって 全体的に茶色い感じだった 随分前に釘やピンの穴を 補修用パテで埋めた後 なんだかんだと用事が先行し 白が点在する壁が気になりつつ日が過ぎた
もうこのままでもいいんじゃない なんて言うHさんに 既にこの壁に慣れているんだとゾッとした 今日は絶対ペンキ塗りと決め まずパテにやすりをかけようとしたら 下のクロスまで剥がれてしまったので そのまま上から塗りはじめた
けれど パテにペンキが乗ると粘度が増し もろもろとパテごと剥がれてくる そのままある程度塗ってはみたものの 仕上がりは美しくない クロスが薄くなっても やっぱりやすりは掛けるべしを学ぶ
量販店で試しに買った 2リットル弱はあっという間 このぶんだと 全部塗り終えるには 容量の大きいのを買わないと相当割高になる 調べると同じ色の大きいのはないことが判明 計画立てているようで まるで行き当たりばったりなのが こんなところにも
でも今日塗った ちょっとクリームがかった白は 少しツヤありだったせいで感触いまいち ツヤなしの白なら大きいのがあるから 次はそれに変更かも ペンキの前で さんざ色に悩んだのも意味なかったな
5時ギリギリになって お買い上げのお客さん さて帰ろうとメールをチェックすると ネギ忘れるな! の文字に笑った 帰り道途中にあるHさんちに寄って 約束どおりネギをもらった
木曜日の朝にはまだだったのに 帰りには桜が一気に開いていて そんな話から 花見きぶんが盛り上がった 去年は結局計画しながらも なんとなく流れてしまったので 今年はとりあえずふたりで 昼間にちょこっとでも出かけたい
わくわくの日の月曜日 天気がよかったら作業の合間に出ようか それはそれとしても やっぱり夜にお酒飲みたいよね 話しながら少し歩き 景色の広がる辺りで 離れた場所の桜を眺めた
わくわく館の中庭に 桜の木を植えようか 毎年そこでお花見ができるように でも10年も経ったら もうあの場所いっぱいになっちゃうかな 花はやっぱり桜だけど なにかシンボルになるような木を植えたいね
ふと そらが気になった 沈んで行く太陽のずうっと左に ひとかたまりに光る場所があり よく見るとそこだけ虹色になっている 見てあそこ ああっ彩雲だよよく見つけたねえ 生まれて初めて わたしも
誰かに教えたいけど 角度が違えばもう見えない そう言っている間にも 虹色は少し薄くなって行く なにかいいことあるかな あるよきっと まるで少女みたいに弾むわたし達だった
コウノピアの売り場にいると Sさんから電話 いつもめちゃくちゃ忙しそうなのに 平日の昼間になんて珍しい 何かと思ったら いつからお店をするのかと言う
6月の手作り雑貨展の話しをし 先日Sさんが提案してくれた レンタルボックスよりも もっと大きいスペース貸しのことを 詳しく聞いてみた
例えば 今他所でSさんが借りているのは 畳二畳分で月4千円 申し込みが早かったので安いが 借りたタイミングで金額が違うそう 置いたものが売れたときに その他に手数料として 販売価格の2割を取られるとのこと
ボックスにしても 月いくらのレンタル料だけにするのか 手数料も取るのか いろいろ方法があって迷っていると告げると 手数料は絶対取らないと やって行けないだろうとの意見
もしやるのなら 他にも借りたい友達を 紹介してくれるそうだった ともかく一度ゆっくり 詳しい話をしようと約束した
ただ安く利用できさえすればいい というのではなく こんな風に 現実的なアドバイスをもらえるのは 本当に有難い わたしが必要としている場所を 誰かが求めてくれるお陰で 道はどんどんクリアになってくる
4月に入ってからの この開放感はどうだろう 長いこと 自分の生まれたこの月が ぼおっと暖かいこの季節が あまり好きではなかった
けれどこの地に来て 今年ほど春を焦がれたことがない位 いつまでもその気配は遠く 冷たい空気が満ちていた ようやく今日は 本当に気持ちのいい 春らしい陽差しに包まれた
ひたすら耐える3月 突破口が訪れる4月 そんなリズムを これまで何度か感じてきた 好きになれなかった頃は たぶんまだ眠ったままで 自分をどう使っていいのか解らずにいた
臆病で慣れた場所にずっと居たい それはわたしの感情が求める部分 けれど表現欲求は それとは真反対の向こう見ずな突撃タイプ 安心できる場所を見つけて そこで新しいことを試して行けるなら 両方が満足するのだった
昨日 大家さんとお話をして 展示会の9日間の家賃を考えてもらった 思いがけず寸志で構わないとのお返事に 一層気を引き締めた 日程は少し余裕を取って 6月の頭からとなった
何かを変えようとして 一向に変わらないことがある一方で こんな風に 着実に整って行くこともある 自力と他力が繋がって やっと一本の道筋が見えてくる
なんだか濃い日々を過ごしている 引きずっている売り場は新たに 一年間で契約を結んだ そしてこの地に来て5年目に突入 一向に何も変わっていないような日々だけど もうあせる必要はないと思える
モノを作って売る ただそれだけのことに 全てが集約されて あんなに思っていた 早くお店をという気持ちが どこかへ飛んでしまった
何か思いついてはうまく行かないこと 結局それは 怠け者の自分をそのままにして 誰かのちからを充てにしていたせい まず本当に作りたいものを作ろう それができたとき もっとわたしは自由になれる
ミシンを踏みながら やっぱり相変わらず解きながら 作り易い方向に流れてしまいそうなのを 何度も堪える 自分の不器用さは受け容れるけれど そこに留まっていては何も変わらない
心残りのないように 精一杯努力しよう 伝わらなかったら またその時に考えればいい
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