やんの読書日記
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2004年08月28日(土) ロビンフッド物語

ローズマリ・サトクリフ作
ウォルター・ホッジズ絵
原書房

サトクリフの処女作
サイン入り
オリジナル以外の作品で面白かったのが少ないので
あまり期待していなかったが
本書を読んでロビンフッドの
少年、弓の名手、義賊
というイメージがかなり変ったような気がする。

義賊には変りはないが無法者といわれるいわれはなく
正規の王リチャードに忠誠を尽くし
信義と友情に篤い、その上に冒険を好む
ヒーローだった。
知らなかったエピソードもたくさんあり
これって、どこかの有名なアニメとは全然違う
というところがたくさんあった。
もちろん本書の方が誠実で美しい。
ところどころ出てくるリュートの調べみたいに。
そして不滅だと思っていたロビンに
最期の時が訪れたときは悲しかった。
サトクリフ独特の情景描写
エメラルドのような輝き
息ひとつするあいだなど・・・が
所々にあわられていて
後にローマンブリテンを書き
カーネギー賞を獲得するのだなと思われる
そういう息吹きみたいなものがあった

ホッジズの挿絵は線画もいいし
陰影のある風景画もいい




2004年08月18日(水) 魔女の血をひく娘 1.2

セリア・リーズ作
亀井よし子訳
理論社

メアリー・ニューベリーという清教徒の娘
魔女の疑いをかけられて故郷のイギリスから
アメリカへ逃れたのに、入植地でも同じ疑いをかけられて
逃亡し、先住民の間での暮らしを選び、幸せを知ることなく
逃亡と闘いの一生を終える。

メアリーがアメリカへ出発したときからつけていた日記
普通の娘と違った行動をしていたことがもとで
魔女だと疑われ始めた彼女は
キルトの中身にその日記を縫いこんで隠し、
彼女を信頼して一緒に暮らしていたマーサに託して姿を消す。

そのキルトが300年以上もたって発見され
中の日記が日の目を見る。
上巻はこの日記によって物語が進んでいるけれど
下巻はフィクションでつなげている。
先住民の間で暮らし、呪術によって人の病を治すメディスン・ウーマン
として再登場するメアリーは結局魔女として生き
魔女として死んで、子孫にその技を伝えていく。
彼女の子孫が現代のメディスン・ウーマンとして登場し
メアリーの所有物を伝承しているのは、魔法じみているが
ネイティブアメリカンならそのくらいのことは普通なのかもしれないと
思って読んだ。

メアリー・ペーパーと呼ばれるキルトの中の日記は本物らしいが
メアリーと彼女に関係した人々をひもといていくという作業は
本当なのだろうか。かなり真実にせまった物語だった。


2004年08月17日(火) 車輪の下

ヘルマン・ヘッセ作
新潮文庫

ヘッセの少年時代をハンスとヘルマンという二人の少年を
借りて描いた作品
初めて読んだのは中学生のとき
そのあと何度も読んでいるが
久しぶりに読んでみて新しい感動があった。

親の期待を一身に受けて神学校を受験し、2番で合格。
しかし、神学校の息の詰まるような規則や
友人関係に疲れ、悪友の感化によって脱落していく少年。
故郷に戻っても彼の居場所はなかった。
行き着くところは死。
そういう筋書きはいつ読んでも同じなのに
若いころに読んだときは、周囲の好奇の目
過剰な期待に押しつぶされて彼は死んだと思って憤りを感じた。
その間にながれるヘッセ独特の詩的な描写に気付かなかったのは
どうしてだろう。故郷の川、森、花神学校の湖、
そういうものが生きて流れているのだ。

彼はなぜ故郷で自分を見つめることなく死んでしまったか。
絶望して泣き崩れる彼の心が痛いほど伝わってくる。
若いころ、自殺だとばかり思っていたが今では
そうではなかったように思える。
ほんの少しの休息を川に求めて、そのまま落ちてしまった。
事故なのだ。本当はヘッセはここで生き方を考えていたはずだ。

だからこそ風景描写がすばらしいのだと思う。


2004年08月05日(木) 11の声

カレン・ヘス作
伊藤比呂美訳
理論社

11人の証言者が入れ替わりに
1930年代のアメリカの世評を語る
フィクションのはずなのにリアルな新聞記事の感覚がする

彼らが話題にしているのは黒人とユダヤ人差別
KKK団のなす悪事のこと。
キュー・クラックス・クラン団
初めてその名を聞いたのは
映画「風とともに去りぬ」
スカーレットの2度目の夫が入団していたと思う。
黒人差別の秘密結社が現在でも存続するというのは
時代が危ういからだと思う。

銃でうたれたユダヤ人の職人、井戸に毒を入れられようとした黒人の少女。
それらがみなクラン団によって引き起こされている。
誰かを差別して自分は優越に浸る
そういう人間関係が戦争を引き起こすのだと思う
南北戦争もベトナム戦争もイラク戦争もみな差別からくる戦争だ

作者の言おうとしていることが
陰に色濃く表れていて見逃すことができない。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                            


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