窓の下には いっぱいの観葉植物 2階の開いた窓から 声が聞こえてくる 戸口からは大きな黒犬が 顔をのぞかせ 吠えかける 駐車場に戻るのに 一本裏通りを歩いてみる いつの間にか迷子になり 知らない街に迷い込んだよう 柳町 昼の顔から 夜の顔になろうとしている街 大通りに面したお店らしき建物 古い木製のドア いくつかの小さな色のくすんだガラスがはめ込まれている 足元を見ると何か白く明るく 石灰か? いや塩だ 塩がまいてある 盛り塩なのか? いやと言うよりは 塩をドアの下一面に擦り込んだような ドアの端から端まで続いている しかも丁寧に塗り固めたようなあとさえある ドアを通り越して向こう側にも 塩の道が と思ったら なんだか薄暗い路地になっていて 赤く光る看板が灯っていたり 本当に迷ってしまったのだろうか 塗り固められたドアの下の塩の道は何なのだろう 本当に盛り塩なのだろうか なんだかナメクジよけのような気がしてきた ドアの横の柱も何だか腐りかけてるようだし これ以上悪くならないように マスターが工夫したのかもしれない まだ少し早いけど 店に入ってみることにする 案の定薄暗い店内は なんだかかびくさいようなにおいが立ちこめている 梅雨時にしてはひんやりした感じもするが カウンターは触ると湿気が多い ひげを生やしてるけど 頭は薄いマスター登場 少し飲むことにする BGMはジャズ 何だか出づらい あの塩は聞かなかったけど マスターよけなんじゃないかな マスターを店の外に出さないための だってマスターなんだかナメクジみたいだぞ そんな経験はしたくなかったので ぼくはドアを開けることはやめにした 塩にどんな意味があるのかわからなかったけど ドアの向こう側にはどんな人がいたのかわからなかったけど かなりの間ドアの前で立ち止まって あれやこれや考えていたのは事実だ ということは やはりあれは盛り塩だったのか 塩が恐くて入れなかったのは ぼくがナメクジだったからかもしれない 店の中にいたのはぼく自身だったのかも となると 塩は現在と未来を隔てるための障壁なのか
ヒバリは夕暮れ時まで鳴き続け 夜空に飛び上がることなく 草にまみれた田んぼから 届け物
緑に染まる春になれば水が満ち カゲロウの羽の模様した 用水が廻りながら潤してゆく
前川の下を流れる新堀は新たに築かれた川で 底までは2メートル 前川の下にトンネルを掘り交差させてある さらに川下では5メートルの掛樋を築き 川の上を水が流れていた 川下に探検に行った頃の思い出
水温む春になればヒバリは鳴き続け 用水を通す願いもかなえられた トンネルはコンクリートに代わり 掛樋はサイホンになった
日が暮れると聞こえてくる国道2号を通る車の音 届けたかったものはどこに行ったのか 届ける道はどこにあるのか
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