馨絵詞〜かおるのえことば
楽しいことも、そうではないことも。

2002年07月03日(水) 『のんびり日報』仕込み編〜素晴らしきのんびりやたち・7

仕込みじゃ。仕込みじゃ。
みなの衆、仕込め仕込めぃ!
いやはやなんとも。

ということでやってきた仕込み日。
8時半に江古田はさすがにきつい。
でもストアハウスって開くの10時じゃなかったっけ?
記憶違いかなと思いつつ行く。

やっぱり10時開きだった。
まあ…早い分には良いわいなあ。

照明の手伝いをするはずのところ、人が余っていたのでさっさとブースに入る。
4月のワークショップでリックノビョン殿に教えてもらった知識と、小屋見のときにコウジ殿より聞いた話のおかげで、すぐに出したい音を出せるようになった。
ただ、ちゃんとしたレベルチェックや芝居を通してのタイミングの練習は全然できていないけどさ。
あらためて、リックノビョン・コウジ殿両名に感謝する。
そんなわけで、音響・稲葉としては比較的余裕のある仕込みだった。

   ◆

パンチ張りの時にはブースを出て人海戦術に加わる。
仕込みの中ではこのパンチ作業が最も好きだ。
皆で賑々しくやる雰囲気が…かなあ。
2年前の『アカイマツリ』が思い出された。

今まで稲葉は役者として仕込みに参加してきた。
今回は演出・音響の立場で参加、ブースにあっていつもより高い視線から仕込みの様子をずっと見ていた。
時間的には派手に押しまくっていたが、それでも舞台ができていく様をリアルタイムで見られてとても有意義であった。

   ◆

現場の声、主演女優のお出まし。

青木由利子役・志佐知香。

天気が少しわからない時期。
青かった空が突然くもり、一瞬の雨でぐっと冷え込み。
心も少し、わからない時期。
楽しかった気分から突然へこみ、一つの言葉でぐっと悩み込み。
だけどそういう今だからこそ…へこんで悩んで、そして立ち直ったときに気づくんです。
「少し深くなったかな」って。

私はこの今が大好きです。
前は「しあわせ」だったのに。
しあわせは自分ひとりで味わえるけど、「大好き」はどうしても相手に伝えたくなる。
ひとりじゃ味わえない気持ちを感じているんだ。
…やっぱり少し、深くなったのかな。

そんなことを考えながら歩く帰り道。
梅雨明けも本番も、もう間近。


   ◆

仕込み中、楽屋で彼女と話しているとき、楽しそうに「あたし、全部出ましたよ」と言ってきた。
実は彼女は稲葉を除けば唯一の稽古皆勤者なのだ。
おうち、茨城なのに。
彼女は腕力こそちーとも無いが、体力と精神力には感嘆させられるものがある。
たいした女優だ。

役者は謙虚なほうがいい。
謙虚すぎるくらいでいい。
役者の自己主張はだいたい寒い。

彼女はこの2ヵ月、とても謙虚だった。
何度となく誉めても「いやぁあたしなんかまだまだ」と照れる。
そう、役者はこれくらいでちょうどいい。

で、仕込みの日に「あたし皆勤したわよ」とこっそりかわいらしくアピールしてくる。

そう、役者はこれくらいでちょうどいい。

ラスト10回の稽古、彼女は急に調子を上げ始めた。
4月からずっと観てきて気持ちのいい10回だった。
所沢で稽古していても、稲葉の言ったことを素直に演技に出してきてくれた。

『精一杯にのんびりと』は裏方にも役者にも恵まれた芝居であると思っている。
彼女はその中でひときわまぶしい光を放つ、稲葉自慢の主演女優である。

   ◆

さてさて明日は仕込みの2日目。

本番まであと……あと…日!


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稲葉 馨

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