| 2005年05月18日(水) |
小説『僕のセルマ2』 |
「僕のセルマその2」
セルマは、札幌の店でみつけた女だが、店のオーナーの話しによると東京本店からの出向だという。 いつまでいるのか、とたずねるとわからない、本店次第だからと言われた。 遠距離恋愛の苦手な僕だから、セルマが東京に戻ってくれさえすれば自然と忘れるとも思った気楽さで、逆に積極的なアプローチをはじめた。
セルマは僕が教えるより先にきれいな日本語を十分にはなせていたので、僕のフランス語講座通いははじまらなかったのだが、劣等感の強い僕には彼女の美しさがまぶしく映り、次第に腹立たしくなっていた。
話をできるのは店の中だけで、彼女には別の世界があるのに、僕には彼女のいない世界が考えられなくなっていく。 子供じみた片思いなど、柄ではないと何度も戒めても、僕の気持ちは毎日膨らんでいく。 恋に出会えた喜びで満足するほど僕は純粋な心をもたず、セルマを自分のものにできない苛立ちばかりがつのっていくのだった。
戦うことしかできなかった僕が、さらに年をとって戦えなくなった。 というより、僕自身が戦いを求めていないというのもある。 勝敗に興味がなくなってしまったのだ。若い鹿の雄たちが角をぶつけあってあそぶような、無邪気な健康さは今の僕にはない。 そして欲しいものなど何もないと思っていたのに...。 彼女のおそらく無差別な優しい微笑みに僕は騙され、その優しさが彼女の中に秘められた静かな強靱なプライドからくるものなのだと気がつくのにも時間はかかったため、僕は知らずと彼女にリードされ、幸せにしてやりたいなどと思い上がっていたのも忘れ、女神に頼りすがるような時をすごしている。 セルマは自信のない僕を許してくれているような、高くておおらかな空のような存在になっていった。
セルマと一緒にこのまま、秋の落日をながめ、冬の寒さにたえ、そして春がくるのを楽しみに生きていけたらどんなにすばらしいだろう。 誰に賞賛をうけたとか、富豪になった証として単に眉目秀麗な妻がほしいつもりはない。 僕はセルマを舞踏会につれていけないし、いい服もかってやれない、しゃれた冗談で笑わせるセクシーさもない男だから、それはかなわないのかもしれない。 せめて僕の苦手なタイプの男たちのように、成り上がり風でもいいから脂ぎったたくましさや図太さがあればもっと強引にちかづくこともできるのかもしれない。 僕はセルマと出会って、自分が嫌いな男たちよりも臆病であることをはじめて恥じた。 セルマは僕とつりあう女ではなかった。
夢をみないことも、生きていくために必要な才能のはずだから・・と言い聞かせている僕。
つり合わないものを追うほどに若くもなく、かといって空想で安らぐほど老成した詩人にもなれない僕がいて、愛すれば愛する程セルマが明日にもいなくなってしまいそうな恐怖も大きくなる。 この日々が永遠ではないことに目をそむけて、気軽さを精一杯よそおって、今日もまたセルマに会いに行く僕だった。
|