道標≪過去を見つめてあさっての方向へ≫


2005年07月18日(月) 走れメロス!!

「そうです。帰って来るのです。」メロスは必死で言い張った。
「私は約束を守ります。私を、三日間だけ許して下さい。
妹が、私の帰りを待っているのだ。そんなに私を信じられないならば、
よろしい、この市にセリヌンティウスという石工がいます。
私の無二の友人だ。あれを、人質としてここに置いて行こう。
私が逃げてしまって、三日目の日暮まで、ここに帰って来なかったら、
あの友人を絞め殺して下さい。たのむ、そうして下さい。」

             ―――――太宰治著 『走れメロス』1988年


私は彼とひとしきりおデートを楽しんだ。
夕食の時間だったので、常々気になっていたイタリアンバイキングの
店をリクエストし、二人で思う様食らい尽くした。至福な時間。

「じゃ、そろそろ出ようか」

と財布を開いて、思わず目が点になった。

残金1000円。

「ダ、ダーリンの手持ちは…」

まざまざと思い出すのは、店に入る前、彼が安心して
「あ、かろうじて1900円はある」
と財布の確認をしていた情景だ。事態を察した彼が
「カード使えるんじゃないのか、この店」
「そ、そうだよね、アハハあたしったらうっかり屋さん(・∀・)!」
店員に質問。即、「うち、現金のみしか受け付けてないんですよ」

ガク

(((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル 

「ダーリン車の鍵貸してくれ!!
有無を言わさず!!」


バイキングは制限時間90分、会計まではまだ30分ほど余裕がある。
彼が「オレが…」と席を立とうとする前に強引に制止、
近くのコンビニで現金引き出すか郵便局行くかと思い巡らし
「信じて待っててくれ」と、彼氏を半ば人質に金策に夜の街を駆けた!

しかし何せ夜だ。どこのATMも使えないの、飛び出す前に気づけよ
思うわけだがパニックになってるからそんなことまで頭が働かない!
考え付くのは自宅しかない。彼の大型車で自宅玄関に乗り付けると、
コツコツ貯めていた500円貯金箱に厚紙をぶっさし
一枚一枚丹念に抜き出して彼の待つパスタ屋に一目散に駆けた!
気分はまさに走れメロス。せ…セリヌンティウスッ!!
メロスの気持ちが手に取るようにわかる。リミットは残り10分。
ほうほうのていでたどり着くと、ホッとした表情で彼が
待っていた。

セリヌンティウスは、すべてを察した様子で首肯(うなず)き、
刑場一ぱいに鳴り響くほど音高くメロスの右頬を殴った。
殴ってから優しく微笑(ほほえ)み、
「メロス、私を殴れ。同じくらい音高く私の頬を殴れ。
私はこの三日の間、たった一度だけ、ちらと君を疑った。
生れて、はじめて君を疑った。
君が私を殴ってくれなければ、私は君と抱擁できない。」
メロスは腕に唸(うな)りをつけてセリヌンティウスの頬を殴った。
「ありがとう、友よ。」二人同時に言い、ひしと抱き合い、
それから嬉し泣きにおいおい声を放って泣いた。


「オレが余計に手持ちもってればこんな事態にはならずに済んだんだが」
と心の底から申し訳無さそうにする彼を前に、
「いっそ殺せ」と懇願する私だった…。

帰りに芸工大の展示を見に行く。和んだ。

危機的状況とはこういうものかと思った。
ご利用は計画的にとはこういうものかとも思った。


金田こけもも |MAILHomePage