Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
ガンダムUC
「ガンダムUC」は、作家の福井晴敏氏が、ファーストガンダムの宇宙世紀設定で執筆した新作小説。 DVDで数巻に分けてリリースされますが、1巻目が映画館で限定上映されていました。 DVDももう店頭発売になっている筈です。 福井氏原作でガンダムだし、遅い時間帯の上映もあったので、仕事帰りに20時の回をのぞいて帰ろうと。
…映画館に行ってちょっと唖然としましたね、新宿ピカデリーのロビー。 改装してシネコン・スタイルになったピカデリーは、上映10分前まで入場出来ないのでロビーで待つのですが、 な! なにこれ? 会社の研修会かなにか? 背広ネクタイにA4の書類カバンを持ったサラリーマンがくろぐろ…いやホント、普通映画館のロビーってカラフルでカジュアルな服装の人々がざっくばらんに待ってるって感じじゃないですか?…このロビーは異様。 今回230人のスクリーンで150くらい埋まってたけど、女性…10人もいなかったのでわ。 若い人よりも30代40代の会社勤めの人が多くて、世代職業的には私もぴったりなんですが、なんだか場違い感がぬぐえず。 福井氏原作は、「亡国のイージス」と「(終戦の)ローレライ」を見てますが、確かにあちらも男性客が多い作品ではありましたが、もう少し客層がばらけていたような。 これって、やっぱり、「ガンダム」だからなんでしょうか?
ガンダム新作劇場公開って19年ぶりだそうです。…というとこの前のは何だったのか?19年前というと平成になってますから、「逆襲のシャア」ではないでしょう。 私的には、ガンダムの劇場新作を見るのは「逆襲のシャア」以来になります。私「逆襲…」で初めて、新築されたばかりの有楽町マリオンに行った記憶がある…だから前世紀で昭和の昔(笑)、ずいぶん前ですね。 いや以前にも書いたと思いますが、比較するとこの20年のアニメーション、映像技術の進歩は本当に大したものだわ〜と。
私もけっこうガンダム好きだと思いますけど、でも以下の感想はかなり王道をはずれているかな? 以下、物語の本筋には殆ど触れずに95%はねたばれ無しで書きますが、自分で見るまで全くバイアスかけたくないという方はご注意ください。
福井氏の小説は、「終戦のローレライ」を例にとれば、95%のリアルと5%の非現実。非現実を描いても、地に足がついた緻密でリアルな構成が魅力です。 映像と小説では表現が異なる。ゆえにどうしても映像では原作の緻密さが活かしきれない…今回も「尺が足りない」という評を事前に読みました。でもイージスとローレライを考えれば、映像表現としてはこれが最大マックスでしょう。 私は尺が足りないとは思いませんでしたし、説明不足感のようなものも感じませんでした。 …もっとも私は原作を読んだ上で見ているので、最初に映画だけを見た方がどう思われるかはちょっとわからないけれども。
実写で映画化されたイージスやローレライと比較した時に、面白いものだな…と思ったのは、 さっき95%のリアルと5%の非現実と書きましたが、ローレライの時は、映像になるとこの5%の非現実が誇張されて感じられ、原作以上に嘘っぽい話のように思われてしまいました。 ところが、「ガンダムUC」ではこの原作の非現実感が消えて100%リアルに見えてしまう。 …もっとも宇宙世紀のコロニー世界という基本設定自体が100%非現実なのだから、リアルもへったくれも無いだろうと言ってしまえばその通りですが。 しかしとにかく「ローレライ」の時に感じた嘘っぽさ感(興ざめ感)というか違和感のようなものが、今回はありません。
それから、最初に小説ありきのためか、ストーリー展開が根本にあって、その上に道具(兵器)としてのMS(モビルスーツ)がある…ような気がします。
まぁ基本的にガンダムっていうのは、シリーズのどの作品でも、それ自体が「単体で強すぎる兵器」として設定されていて、その存在ゆえに問題を起こし(ストーリーが展開し、)周囲の人々が巻き込まれていく話になることが多いようですが、放映時間の制約中で何をどれだけ描くかという時に、まずモビルスーツ(Mobile Suite:MS)ありきの展開になってしまうことが否めないような。 テレビシリーズだと…これは現在の最新作の「ガンダム00」にも時々感じていたことですが、ストーリーよりも、まずいかにメカ(MS)を格好よく見せるかに重点がスライドしているのでは?と感じる部分があって。 私は昔からずっと、ガンダムをストーリーとして見ていたから、本当はまずストーリーありきであって欲しいと思う。
その点、今回はこのストーリーとメカのバランスが良かったなと思うんです。登場人物たちとのバランスも。 そのあたりがやっぱり小説原作の良さなのかな?と。 例えば「終戦のローレライ」という作品は、確かにローレライという兵器が主人公ではあるのですが、ストーリーの主人公はあくまでその兵器を使う人間…潜水艦の乗組員たちですよね? あの物語における兵器と人間のバランス感覚が、今回はガンダムという、これまではメカ主役的な作品だったシリーズの中でも、生きているような気がします。 もっともこれについては「ガンダムUC」も2巻以降の展開を見てみないと最終的には何とも言えませんが。
さっき私のこの感想は王道をはずれているかもと書きましたが、 あまりディープではないレベルでもネットの感想を見てると、「この映画はメカが!」っておっしゃる方多いんですよね。 ストーリーがどうのという感想があまりない。 まぁ男性陣はどうしてもそういう見方になっちゃうのかな? あれだけ男の人多く見に来てたら無理ないか…とも。
たしかに、でも私も「いちばん印象に残ったシーンは?」って訊かれたら、 「最後のクライマックスのガンダム起動」…って答えます。 …これは感動します。人間ドラマ的ストーリーもここに帰結する形になっていますし、 このシーンは…、これはちょっと見ていただかないと。映像と音楽とセリフと全てが融合してあのシーンになっていますし、言葉ではちょっと描写できない。
ガンダムUCと良いながら、そんなわけでガンダムの活躍は2巻以降です。1巻は起動で終わってしまっているし、 その分ファンネル型とか従来の地球連邦軍量産型とかその他のMSが大活躍ですけど。 そこで冒頭に書いた通り、あぁ20年来のアニメーション技術の進歩は凄いなぁと思うわけです。 この物語の舞台は映画「逆襲のシャア」から3年後の宇宙世紀0096年で、物語世界内でのMSの進歩は3年分なんですが、現実社会というか私たちの世界では20年以上たって映像表現が多大に進歩しているので、 むかし見たMS戦とは格段に進化した映像表現を見ることができる。 …これやっぱり、昔の映像を見ていたファンは、その動きの進歩に感動するでしょうし、「メカが!」って力説してしまうのも無理ないことかなぁとも思うんです。 さらに、1巻はコロニー内戦闘なので常にどこかに構造物があるため、対地(?対構造物?)速度感と高度感があって、迫力映像になっています。全方位コックピットですし。
でも映像表現の進化といえば、私が一番感激したのは、コロニー。 最新CGで描かれる葉巻型コロニーや、軌道構造物は、20年前の映像とは異なり圧倒的なリアル感で迫ってきます。 私、むかしからガンダム世界の宇宙や、コロニーや、軌道構造物の映像が好きで。 その昔の「逆襲のシャア」でも、ハサウェイが宇宙に上がって初めてコロニーの街を俯瞰で見下ろして「うわぁ!」と感嘆の声を上げるシーンで、私も客席で「うわぁ」と口に手を当てて感動した記憶があります。
20年前とは異なり、今はもう地球周回軌道上には宇宙ステーションがあって、「宇宙飛行士の野口さんがバンクーバーオリンピックを見ました」というニュースが流れる世の中にはなったんですけど、 それでも低軌道上の首相官邸とか、葉巻型コロニーとかは現実にはまだ見ることのできない映像で、
主人公のバナージはコロニー建設現場の見学に行っていて戦いに巻き込まれてしまうのですが、この建設現場…コロニーという超巨大構造物が目の前で建設されていくCG映像を、映画館の大スクリーンで見ると凄い迫力で。 葉巻型コロニー建設って基本は現代の、東京湾横断道路を掘削したTBM(トンネルボーリングマシン)と同じ仕組みのようですが、コロニーって円筒の径が、東京湾のトンネルとはケタ違いですからね。これはいま地球上のどこの工事現場を探しても見られない映像でしょう…こんなものが見られるのもアニメーションならではだと思います。
こういう映像を見ていると、やっぱり、なんか宇宙に憧れてしまいますね。 ネットで読んだ感想のなかに、「ガンダムUCは久々に宇宙への憧れを感じた。これは昔のガンダムにはあったけど、最近の作品には欠けていたものだった」というのがあって、あぁなるほど!と思いました。 そう言えばこの憧れも、久しく感じたことのない感情でした。
1時間足らずの上映ですが、とても良いリフレッシュになりました。2巻以降も映像グレードを落とさず…できたらまた劇場公開していただきたいです。 スクリーンはやはり大迫力なので。
2010年03月13日(土)
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