Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
ニューワールド(2)
映画ニューワールドの魅力の一つは、ニューワールドの大自然そのものでしょう。 これは本当に、ホンモノのアメリカ・ヴァージニア州の自然だそうです。 現代アメリカの、それも東海岸ヴァージニアにまだこのようなところが残っているなんて!
同じことはもちろん、映画の製作スタッフも考えたそうです。 もうアメリカにはこのようなところは無いだろうと思いこんで、ロケ地となる手つかずの自然を探し、カナダの奥地をロケハンしたそうですが、やはり緯度が上がると植生などが変わってしまって、入植時代のヴァージニアとは雰囲気が違ってしまう。 そこでもう一度原点に戻って、丹念にヴァージニア州内を探したところ、ジェームズ川上流のチカホミニー川に、自然のままの沼沢地が残されていて、コンクリート製の艇庫ひとつ取り壊せば原初のままの自然を取り戻せることがわかった。 スタッフはこの艇庫を買い取り取り壊して、ここをロケ地としたそうです。 ロケーションにあたっては、ヴァージニア州政府の前面バックアップもあったとか。 そりゃあそうでしょう。 この映画を見ていると、私もこの地に行きたくなってしまいますもの。
ヴァージニアは、海洋小説の舞台としても登場します。 アレクサンダー・ケントのボライソー3巻(ハヤカワ文庫NV)でスパロー号の副長をしていたジェスロー・ティロルの故郷はこのヴァージニアで、彼はチェサピーク湾とかこの辺りの水域に詳しいのでした。 ダン・パーキンソンの「海の狐ドルトンの物語」(至誠堂)2巻も、チェサピーク湾が舞台。 デューイ・ラムディンのアラン・リューリー3巻(徳間文庫)の舞台は、実はニューワールドの舞台やロケ地のすぐ側です。 昨日、アランの3巻を読み返してみたのですが、映画を見た後に読むと光景が手にとるようで俄然リアル。
ニューワールド・ロケ地、ジェームズタウンとウィリアムズバーグ、ヨークタウン http://www.mapquest.com/maps/map.adp?country=US&city=williamsburg&state=VA
上の地図を見ていただくとおわかりだと思いますが、ニューワールドの舞台となった最初の植民地ジェームズタウンは、地図上では(31)と○で囲んで示されているところの左上(First Colonyと地名が見えると思います)。 アラン3巻をお持ちの方は、3ページを開いてこの上の地図と見比べていただきたいのですが、3ページ右下の地図と上の地図は同じ場所を示しています。 アラン3巻4ページの地図にもおなじみのGloucester Point(グロースター岬)、Yorktown(ヨークタウン)などの地名が見えます。 アラン3巻はアメリカ独立戦争が舞台ですが、このあたりは独立戦争の古戦場でもあるのですね。
ロケ地となったチカホミニー川はまた、南北戦争の舞台としても有名だそうです。 1862年のPeninsula Campaign、1864年のOverland Campaignはいずれもこのチカホミニー川近辺のヴァージニア沼沢地を戦場としています。
海洋小説ファンとして気になるのは、やはり帆船でしょう。 私も最初にこの映画に目をつけたのは、予告編に登場した帆船でした。
この映画には4隻のレプリカ船が登場します。 Susan Constant号, Godspeed号, Discovery号は、1607年にニューポート船長の指揮下ジョン・スミスらが英国から航海したガレオンのレプリカ船で、ウィリアムズバーグ財団(Williamsburg foundation)が1989-91年にかけて復元し、通常はジェームズタウン入植地(博物館)のジェームズ川に係留・展示されているもの。 ごく最近の復元ですし、本当はもっと新品で綺麗なのだそうですが、英国からはるばる波風に耐えて航海してきたリアルさを出すため、撮影中はボロボロに見えるように塗装されていたとか。
ジェームズタウン入植地博物館のURL http://www.virginia.org/site/description.asp?AttrID=17357&MGrp=1&MCat=2
撮影の途中、この3隻がジェームズ川を遡るショットを撮る必要が生じたそうですが、居留地でのロケも同時進行していて、そこにも1隻、船が必要。 またこの200年のうちに川が浅くなったのか、ジェームズ川の遡行には復元船Susan Constantでは喫水の問題が生じました。
そこで急遽、Susan Constantの代役として呼ばれたのが、Half Moon号でした。 Half Moonは、本当はHalve Maen号というオランダのガレオン船で、1608年にデラウェア湾やハドソン川を探検したことで有名。 これを記念して1989年に復元され、現在はニューヨークのハドソン川海事博物館(Hudson River Maritime Museum)に係留されています。 当時の所属はオランダ東インド会社でも1609年と時代が合致するため、立派にSusan Constantの代役をつとめることができました。
ハドソン川海事博物館のURL http://www.ulster.net/~hrmm/halfmoon/1609moon.htm
アメリカにこんなに、当時のガレオン船がごろごろ復元されているとは思いませんでした。 意外と、昔のイギリス船はイギリスよりアメリカの方に多かったりして。 デラウェアとかチェサピーク湾のあたりは、探せば他にも復元船がありそうです。
最初の入植船は、やはりニューポート船長が指揮したSusan Constantが有名ですが、3隻全てが復元されているところが凄いと思います。でもふと思ったのですが、やはりスペース・シャトル・ディスカバリー号は、このDiscoveryに由来しているのでしょうか?となるとこれは復元せねばならず、となるとGodspeedを仲間はずれにはできない?とか? そうそう。このクリストファー・ニューポート船長という方も、経験豊富な船乗りで、見事な前歴をお持ちです(苦笑)。 ニューポートは1560年の生まれなのですが、若い頃は、1570年代の後半から1592年にかけて、カリブ海で私掠船の船長をしていたらしいです。 キャプテン・ドレイクのお仲間の、カリブのイギリス海賊だったわけですね。
船と言えば、私この映画を見るまで知らなかったのですが、「ポーハタン」というのは、ポカホンタスの父で、当時この地を治めていていたインディアン部族の酋長の名前だったのですね。 日本人にとってポーハタンは、19世紀の半ばに日本に開国を迫ったペリー提督が率いてきた黒船艦隊の一隻として知られています。 なるほど、ここから名前をとっていたのかと。
ペリー提督の旗艦はサスケハナ号でしたが、これが私、中学生の頃からの謎だったんです、 なぜアメリカの船なのに「サスケハナ」なの?(まさか佐助花ってことわ…)って思うでしょう? それまで日本は鎖国してたのだから、アメリカ人が日本語を知ってる筈がないのだし。
この謎が解けたのは大人になってからでした。 「サスケハナ」ってチェサピーク湾に流れ込む川の名前だそうですね。 この川をサスケハナと名付けたのはインディアンで、ゆえに英語とは異なる語感になった。 アメリカ人はただ、川の名前を軍艦につけただけで、それがたまたま日本にもある名前だった。
でもこれって、厳密に言えば「たまたま」ではないのだとか。 映画「ニューワールド」では、当時のインディアンの言葉が正確に再現されていますが、聞いているとその響き…抑揚のなさ…が、日本語や韓国語、モンゴル語に似ていることに気づきます。 ネイティブ・アメリカンは民族的にはモンゴロイドで、蒙古斑があるそうです。遠い昔、ベーリング海峡陸続きだった時代に、アメリカ大陸に渡ったモンゴロイドの子孫なのだと。
最後に各レプリカ船のデータを添付します。 Half Moonについては、上記ハドソン川海事博物館のホームページに設計図を含めた詳細がありますので、ご参照ください。
■Susan Constant 種類: three masted galleon 全長 : 96 ft(29m)、 帆の面積: 3900 sq ft(362平方メートル) 建造: 1989 to 1991 - Historic Jamestown shipyard - Allen Rawl Naval architect: Stanley Potter 所有者: Colonial Williamsburg 係留地: Colonial Williamsburg, Jamestown Settlement
Discovery, Godspeed 同上
■Half Moon 種類: three masted galleon 全長: 85 ft(26m)、 船幅: 17.3 ft(5.3m)、 喫水: 8.5 ft(2.6m) 排水量: 112 tons、 帆の面積: 2757 Sq ft(256平方メートル) 建造: 1989 - Snow Dock, Albany, NY, USA - Nick Benton 係留地: New Netherland Museum, Croton-on-Hudson, NY http://www.newnetherland.org/ 外見は正確に復元されているが、内部構造は現代の資材を用いて建造されている。
《参考資料》すべて英文 映画「ニューワールド」プロダクション・ノート http://www.hollywoodjesus.com/movie/new_world/notes.pdf 世界の復元帆船 http://pages.zoom.co.uk/leveridge/replicas.html クリストファー・ニューポートについて http://en.wikipedia.org/wiki/Christopher_Newport
2006年05月14日(日)
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