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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
ジョン・ハウ原画展

カナダ大使館内の高円宮ギャラリーで開催されている「ジョン・ハウ(John Howe)原画展」に行ってきました。
挿絵を手がけた「ロード・オブ・ザ・リング:LOTR」が映画化されるにあたって、ハウは、アラン・リーとともに美術スタッフとして映画製作に参加、ビジュアルコンセプトを手がけています。

土日休みという、勤め人にはあんまりな展示会なのですが、毎週水曜日は午後8時まで開いています。
あまり広い展示室ではないので、30分あれば十分に見ることができるでしょう。
詳細は下記↓
http://www.canadanet.or.jp/p_c/howe.shtml

ハウの絵はすべて水彩+インクで描かれているのですが、
これが本当に水彩???
油彩ではないのに、この微妙な光の加減は…。なんだか本当に魔法を見ているようです。
映画LOTRで映像化もされたガンダルフとバルログの戦い。
この原画はマグマの照り返しの焔光が実に禍々しく、闇との明暗が不気味さをかきたてます。
照明を用いた実写映画やコンピュータ・グラフィックスと違って、明暗が不連続なので余計に怖いのでしょう。その迫力に息をのんでしまいました。

カラズラスやローハンのエドラス、灰色港、闇の森、裂け谷などLOTRの舞台となった場所の原画が続きます。
日本語版の挿画は白黒でしたので、原作を読んでいる時には「なんとなく…」のイメージしかなく、カラー映像と言えば映画LOTRのロケ地なりCGの合成映像なりの世界が、私の中にはすっかり定着していたのですが、
今回じっくりと見ていくと、ジョン・ハウが最初に思い描いていた世界は、ちょっと違うのだな…ということがわかります。

カラズラスもエドラスも、今となってはニュージランド・アルプスとは切り離すことができない映像になっていますが、ハウの原画は意外とユーラシア大陸…カラズラスはヒマラヤとかカラコルムのようなイメージですし、エドラスはチベットのポカラ(黄金館はもっと質素で、ポカラ宮のように壮麗ではありませんが、町と山の雰囲気がポカラなんです。)
逆に灰色港は、映画にあるセピア色の入り江ではなく、むしろフィヨルドそのもので、あぁこれだったらどうしてニュージランド南島のフィヨルドでロケしなかったの!と思ってしまいました。

いちばん驚いたのは、闇の森と裂け谷なんです。
闇の森は映画には登場しませんが、でも全般的に映画LOTRに登場した森って、北ヨーロッパ的な森でしょう?
実際のニュージーランドの森がどのようになっているのかはわかりませんが、少なくとも映画に出てくる森は、かなり北のヨーロッパ的な光と空気をもった森でした。
何がちがうって、湿気が違うんですよ。ヨーロッパは湿度が低いから、視界がクリアで。
緯度が高いから太陽光線も少し黄色がかっていて。
実際、編集段階で多少、色彩処理はしていたみたいですね。ボロミアの最期を撮影した森は、メイキングでオリジナル映像をみるとちょっと光の加減が違うので。

それが、ハウの描く闇の森と裂け谷は、もう少し光線が白くて、大気に湿度があるんです。
もちろん植生は違うんだけれども、でもあの湿気と光はむしろ、湿度の高い日本の森に近い。
水彩だってこともあるのかもしれませんが、むしろ東山魁夷の描く日本画の、あの空気中の水分が見えるような絵の世界に近いんですよね。
それが…なんだか嬉しかったんです。
こんな裂け谷と闇の森でもいいんだ…と思ったら、なんだか中つ国がとても身近になって。

今回の展示会場(カナダ大使館)からわかる通り、ジョン・ハウはカナダの出身、それも太平洋岸ブリティッシュ・コロンビア州に育ちました。このあたりの森は雨が多くて、確かに湿度の高い森になるのでしょう。
現在はスイス在住ですが、想像上の中つ国の森を描く時に、ハウの元となったのはこのブリティッシュ・コロンビアの森だったのかもしれません。

中つ国の海を描いた作品も幾つかありますが、この海も…、海洋小説の挿絵で見慣れた大西洋の色ではないんですよね、やっぱりこれも太平洋…それも北太平洋の色なのではと。

映画LOTRのトータル・コンセプトが北ヨーロッパなのは当然だと思うのです。原作者トールキンも、もう一人の挿絵画家アラン・リーも英国出身ですから。
ただ、ハウのこの太平洋沿岸的な部分については、今まで気づかずに来たので、ちょっと意外な発見でした。
「東夷のハムール」という、水がしたたりそうな絵があるのですが、これがお気に入りです。

会場ではハウの創作の秘密を探るドキュメンタリー「Lord of the Brush」が上映されていました。
このDVDは下記サイトから購入することが出来るそうです。
「Lord of the Brush」 http://www.lordofthebrush.com/news.htm


2006年03月18日(土)