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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
M&C、ボライソー 表紙画コレクション

オーブリー&マチュリン・シリーズの表紙絵を描いているジェフ・ハントの絵画について、以前にネット上から購入できるサイトをご紹介したことがありましたが(2003年11月27日)、このサイトとは別に、やはりハントや、その他の海洋画家の絵画、複製画を購入できるサイトが、米国のオブライアン・フォーラムで紹介されていました。

http://www.marineartists.co.uk/

Marine Artists. Co.UKという、ロンドンの画商のサイトで、テムズ川の屋形船にある画廊では、実際に絵画の販売も行っているようです。

以前ご紹介したサイトと異なり、ここではオブライアン全20巻のほぼ全ての表紙画を見ることができます。
HPのホームから、各画家のページにクリックで飛ぶ形になっていますが、
上から順に、

GEOFF HUNT - The Nelson Collection Gallery
(ジェフ・ハント:ネルソン提督の逸話を題材にした連作)

GEOFF HUNT - The Patrick O'Brian Images Gallery
(ジェフ・ハント:オブライアン表紙画ギャラリー)

STEVEN DEWS
(ヨットを題材にした絵画で有名なSteven Dewsの作品)

GEOFFREY HUBAND - The Bolitho Collection Gallery
(Geoffrey Hubandのボライソー・シリーズ表紙画ギャラリー)

JOHN MECRAY
(アメリカの海洋画家John Mecrayの作品)

各画家の名前のところをクリックすると、各人のページに飛ぶことができます。
各ページの「VIEW GALLERY」ボタンをクリックすると、さらに多くの絵画を見ることができます。
このサイト、見るだけならお金はかかりません。

ジェフ・ハントの表紙画はハヤカワ文庫の美しい表紙絵になっていますが、悲しいことに一部がカットされています。ここではこの表紙絵の全体を見ることができます。

オーブリー&マチュリン・シリーズは、英国版米国版、ハヤカワ文庫版すべての表紙画が同じなので問題はないのですが、アレクサンダー・ケントのボライソー・シリーズの方は解説が必要でしょう。
ここで紹介されているGeoffrey Hubandはアメリカ版(McBooks版ペーパーバック)の表紙を描いている画家です。
イギリス版(ハイネマン社ハードカバー)では、17巻以降がHubandの表紙画になります。

ボライソー・シリーズの表紙画は、最初、クリス・メイジャーという海洋画家の手によるものでした。日本版(ハヤカワ文庫)1〜14巻は、英国版と同じこのメイジャーの表紙画になっています。
メイジャーが亡くなった後、英国版ではBrian Sweetが16巻の表紙画を担当しましたが、ハードカバー版の出版社がハッチンソン社からハイネマン社に移ったと同時に、17巻から表紙画はGeoffrey Hubandになり、今日に至っています。
日本版の表紙はメイジャー没後、15巻から野上隼夫氏に変わり、こちらも現在に至っています。

という意味ではこのGeoffrey Hubandコレクションは、日本では見られないHubandの表紙絵が見られる機会ということで、ファンにはお勧めです。
英国、日本版ともクリス・メイジャーが表紙を描いていた初期作品についても、Huband版の新しい作品を見ることができるので、二度美味しいとも言えます。
アメリカ版初期作品の表紙画を描き直さなければならなかったのは、版権の関係だそうです。

小説の表紙画というのは、その小説の該当シーンとは切っても切り離せないものです。
ゆえにオーブリー&マチュリンについては、私が読んでいる限りの1〜10巻の中でのコメントになりますが、一番印象深いのは5巻「Desolation Island」。
その理由は、けれども、ねたバレになるので5月末までお預け(ごめんなさい)、でも予告しておきますと、表紙に描かれているのは本編の中でもかなり印象的なシーンです。

ボライソー・シリーズの表紙画で言えば、実は今回のコレクションの中には無いのですが、一番印象深いのは20巻「Beyond the Reef:大暗礁の彼方」の表紙画。ハヤカワ文庫版で言うと315ページのシーンを絵にしていて涙ものです。

今回のコレクションで見ることの出来る絵ではやはり7巻「Passage to Mutiny:反逆の南太平洋」が思い入れで一つリードかもしれません。
この絵はレブ諸島(フィジー)の居留地の湾に停泊するテンペスト号ですよね。陸の居留地から見るとすぐそこに停泊しているように見えるのですが、居留地に熱病が発生して事態は一変します。TVドラマのホーンブロワー第2話と同じ状況になり、感染の可能性のあるものは陸に取り残され、沖に停泊する艦は隔離された安全地帯…呼べば届く位置にありながら、そこには天国と地獄があるという絵なんでございます、これは。

ドラマチックと言えばやはり、小説より事実でしょう。
ジェフ・ハントのネルソン・コレクションをクリックした次の画面に登場する海洋画「Vanguard in heavy weather off Toulon, 19 May 1798」にも逸話が隠されています。
1798年5月19日、フランス・ツーロン沖の地中海を航行していたネルソン提督の旗艦ヴァンガード号は強風に襲われ、フォアマスト等を損傷します。このままではコルシカ島に吹き寄せられ座礁してしまうため、僚艦のアレグザンダー号がヴァンガード号を曳航して暗礁から引き離そうとしましたが、天候は悪化、このままではアレグザンダー号も危険と判断したネルソンは、曳航索を切り離して自艦を救え!とアレグザンダー号のボール艦長に命じます。しかしボールは聞き入れません。ネルソンは波しぶきの中、脅迫したり罵倒したりして相手に言うことを聞かせようとしますが、ボールは断固として曳航索を切らず、危険な数時間を、2艦は結局何とか乗り切った…という話です。

海と空の美しさが魅力の海洋画ですが、やはり彩りを添えているのは描かれた船に乗っている人間たちのドラマのようです。

今回の更新に際してはUさんにお世話になりました。ありがとうございました。

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やっと時間ができたので、精神的リハビリも兼ねてまずは「サイドウェイ」を見に行ってきました。
アカデミー賞脚色賞受賞の逸品。
中年の坂にさしかかった二人のダメ男、大学時代にルームメイトだった二人が、人生の転機にカリフォルニアのワイナリーをまわる旅に出ます。
一人はついに身を固め結婚する決意をし、いま一人は離婚の傷心からいまだ立ち直っていない。
一人は陽気で女好き、いま一人はワインおたくでちょっと根暗で繊細。でも二人は親友。

私、オブライアンが男性読者にどうして人気があるのかわかるような気がしました。
この映画「サイドウェイ」の2人のダメ男には親近感と共感を感じる。
ジャックとスティーブンは、確かに勇敢で剣も銃も使えて格好いいところがあるから、それに隠れて女性の目から見ると意外と気付かないのですが、実はけっこうダメ男な部分があって…でも弥次さん喜多さんよろしく互いに上手くフォローしている。
男性読者はけっこう、このダメ部分に親近感を感じて読んでいるのかもしれない…と思ったのですが、いかが?

別れた妻を忘れられずズブズブと落ち込む親友に対して
「おまえ大丈夫か?クスリは?」
「大丈夫だ。ちゃんと精神安定剤を持ってきているよ」
…さすが現代アメリカ、こうなるのかーと思いましたね。精神安定剤というお守りがあれば、阿片チンキはいらないわね。

来週が結婚式だというのに、旅先でナンパしてしまいトラブルに巻き込まれる女好き。
おまえはもう、いい加減にしろ!と一度は怒って見捨てたものの、結局は見捨てられず、ののりしながらもフォローに走り回る親友。

駄目エピソードだけ見ていると、どっかで見たような気になるんですよね。

それはともかく、でもこれがアカデミー脚色賞というのはわかります。
人生にワインを重ねる…ワインってこんなにも深いものだとは思いませんでした。
どのワインを選ぶのか? 酒の好みには隠しようのない性格が現れ、またその時の心理状態が見事に現れてしまうのです。
もっとも、でもやっぱり大雑把でからっとしたカリフォルニアンよね…と思う部分はあり、同じ酒をテーマにフランス人や日本人が製作すれば、もっと繊細な映画にもなりえたかもしれないのですが、

公開は今週末までだと思いますけど、人生の味わいをテイスティングするには良い映画だと思います。
おすすめ。


2005年04月03日(日)