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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
2005年6月の「13 Gun Salute」

9月29日は、ネルソン提督の246回目のお誕生日。
来年2005年のトラファルガー海戦200年記念行事を主催する「Sea Britain 2005」(英国立海事博物館、政府観光局、ナショナル・トラスト、英国ヨット協会などで設立した組織)は、記念すべきこの日に、2005年記念行事の一部をマスコミに発表しました。

9月29日付けのBBCニュースは下記のように伝えています。
http://news.bbc.co.uk/1/hi/uk/3700262.stm

これによると、記念行事は2005年6月のオープニング・セレモニーから始まりますが、この開会セレモニー、なんとネルソンに扮した俳優がH.M.S.ピックルに座乗してストランドのサマセット・ハウスまでテムズ川をさかのぼり、途中、倫敦塔の対岸に係留されたH.M.S.ベルファストから13発の礼砲を受けるというもの。

この時はやはり、タワー・ブリッジ(有名な跳開橋)は開くのでしょうね。
H.M.S.ピックル(BBCニュースの写真にもなっている復元船)のオリジナルは、1800年にポーツマスで建造されたスクーナーですが、1805年10月21日のトラファルガー海戦の直後に現地をいち早く出発し、英国に第一報を伝えた急使船として有名です。
当時、ジプラルタルから英南部デボン州の海港プリマスまでは14日、プリマスからロンドンまでは昼夜兼行で2日かかり、トラファルガーの勝利を英国政府が知ったのは、海戦の16日後のことだったそうです。

このピックル号は実はボライソーの23巻「聖十字旗のもとに」501ページに登場します。プリマスに帰港したリチャード・ボライソーが、ピックル号に便乗してファルマスまで帰ってくるというエピソード。
このピックル号は、作者アレクサンダー・ケント氏の説明によれば、あの1805年のピックル号の筈なんですけど、今回ピックル号について調べていたら、これはありえないことがわかってしまいました。ボライソーの23巻は1814年の話なのですが、実はかの有名なピックル号は1808年にスペインのカディス沖で座礁しているのだそうで。
ま…でも堅い話は無し。ケント氏がここでリチャードをピックル号に乗せたのは読者サービス(?)のつもりだったのでしょう。
おかげで私たちも、このBBCニュースの小さな写真から、艦上のリチャードを想像するという楽しみができましたし。

ついでですので、リチャードをだしにして(すみません、ボライソー提督>)もう一つ説明してしまうと…
提督への礼砲について。
ボライソー22巻の最終章、やはりリチャードが故郷のファルマスに帰ってくるシーンですが、479ページ。
ボライソー家の執事のファーガスンと、レディー・キャサリンが、屋敷内でセント・モーズ砲台の礼砲を耳にします。
礼砲の数を数えていたファーガスンは、「17発でさ、奥さん!提督の礼砲、あれは間違いなくそれでさ」と言うのですが、彼がなぜ間違いなくそれ…つまり、これはリチャードの帰還…だと耳で聞いただけでわかったかというと、礼砲が17発だったからなのです。

礼砲は、軍艦が入港する際、これを迎える港の砲台または艦船が、入港してくる相手の最高指揮官に敬意を表するもの。
礼砲の数は相手の位によって決まっており、海軍大将は17発。
当時の海軍に提督(海軍少将以上)は125人いましたが、海軍大将は61人(Brian LAVERY"Nelson's Navy"P,94)、こんな時期にファルマスに帰ってくる海軍大将はそうはいないと考えたファーガスンは、「これは海軍大将リチャード・ボライソーの帰還に間違いない」と考えたもの。

オーブリー&マチュリン・シリーズ13巻の原題は「The Thirteen Gun Salute」ですが、これを直訳すると「13発の礼砲」。
13発は海軍少将への礼砲なので、このタイトルを見るだけで、この13巻には何らかの形で海軍少将がかかわってくるのだろうな…と想像します。

それで言うと、ネルソンは中将ですから、今回、H.M.S.ベルファストからの礼砲は13発ではなくて、15発では?…と思って、詳しい方におたずねしてみたところ、13発は少将への礼砲の他に、国旗への礼砲の意味もあるので、こちらではないか?…とのこと。
ピックル号に乗っているのは、ネルソン役の俳優だから、中将ではなくてやはり国旗では?…というご意見なのですが。
ところで「ネルソン役の俳優」って誰になるのでしょうね?

ちなみに、ベルファスト号というのはテムズ川に係留、一般公開されている第二次大戦時代の巡洋艦です。ドイツの戦艦シャルンホルスト撃沈に重要な役割を果たしたことで有名。
何処かで読んだのですが、映画「M&C」でホラム役を演じたリー・イングルビーのお祖父さまは、海軍時代にこのベルファストに勤務していらしたとか。ちょっと調べてみましたら、ベルファストってムルマンスク向け援ソ船団の巡洋艦だったんですね。酷寒の北の海でさぞかし大変だったことでしょう。


2004年10月02日(土)