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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
キング・アーサー(2)補足情報など

このアイルランド・イギリス共同製作の映画は、ハリウッドというより、ヨーロッパ作品のように感じられる。

脚本家デイビット・フランゾーニは、明らかに2001年に出版された歴史家ハワード・レイド(Howard Reid)の「竜の王アーサー:英国でもっとも有名な伝説のルーツは蛮族に(Arthur the Dragon King : The Barbaric Roots of Britain's Greatest Legend)」に触発されて、歴史を再構築しようとした。

「グラディエーター」の脚本も手がけたフランゾーニにとって、この映画は、ローマ帝国の没落期を描いた第二章になるのだろう。
5世紀末、迫り来る蛮族の侵入からローマは、西暦50年から統治してきたブリテンからの撤退を決めた。

サクソン人などのゲルマン諸部族はブリテン島に侵入し荒らし回っていた。

アーサーの率いる騎士たちはサルマート人。サルマートはコーカサス地方に住むインド系イラン人の騎馬民族で、ローマに徴兵されブリテン島の権益を守る任についている。

マーリンは高地地方の(先住民)ピクト人(Highland Picts)で、反乱軍のむさくるしいなりをした首領にすぎない。ピクト人の別称は「ウォード(Woad)」だが、これは彼らがボディ・ペイントに用いていたウォード(大青:植物の名。青色の染料となる)に由来する。
グウィネヴィアは野蛮な森の民の娘である。

この物語には魔法使いは登場せず、ランスロットを巻き込んだ三角関係もなければ、聖杯もない。伝説の宮廷キャメロットも登場せずエクスカリバーは、父の墓から引き抜かれた単なる家伝の剣にすぎない。
悪者役はオークのようなサクソン人と、そしてもちろん、肥大化したローマ帝国。

ローマはアーサーを裏切り、彼の忠誠心、キリスト教徒としての信仰、平等主義の理想は様々な敵に脅かされる。

クライブ・オーウェンの語るアーサー像。
「彼は強い信念を持った人物だ。彼はローマを心の拠り所としており、それを体現するために戦ってきた。だが世界は変わりつつあり、ローマも変貌をとげ、彼は自身の信念を見直さなければならなくなる。グウィネヴィアに触発されて。
彼は信じるもののすべてが足下から崩れるような状況に投げ込まれただけではなく、部下たちの寄せる忠誠や彼らを率いて戦う目的もまた崩されようとしている。自身の信じるものためには、彼は部下たちを地獄のような任務に連れていかなければならない。だがその旅で、彼は疑いをいだき始める。

プロデューサーのブラッカイマーがオーウェンに求めたものは、内心の葛藤を抱えながらも表面的には決然たる態度を表す、その微妙な配合である。
監督のフークアは、「クライブには内省的なところがあるが、それこそ我々がアーサーに求めていたものだった」と語る。
「我々はアーサーの多少暗い面を求めていた。内心に葛藤を抱えた複雑な人物を。戦士であることは明らかだが、感受性が強く、だが感情をあからさまにするようなことはない。クライブはまさにうってつけだった。彼の笑顔は魅力的だが、時々部屋の隅に引き下がって自分の世界に沈み込んでいるようなことがある。それこそ私が望んでいたものだ」


この映画の公開は当初12月が予定されていたが、映画会社(ウォルトディズニー)の都合から、急遽公開が夏に繰り上げられた。
監督のフークアは当初、大人向けのR(成人)指定映画を製作する予定だったが、夏休み公開ということで、一般受けのするPG-13指定に変更された。これによってフークアは当初予定したものとは全く異なる映画を製作する羽目になった。

ディズニーとプロデューサーのブラッカイマーは、映画を明るくするために、USプレミアの13日前に、子供の名前のことでランスロットがボースをからかうシーンの追加撮影を行った。だかさらにドラマチックな変更はその数日前に行われた追加撮影だった。オーウェンとナイトレイは500人のエキストラとともに、イングランド北部でハッピーエンドの撮影を行ったのだ。
ブラッカイマーはフークアに申し訳ないことをしたと考えており、フークアがめざしたR指定版の「キング・アーサー」をDVDで発売するようディズニーと取り決めを行った。


本来の映画は、ハッピーエンドの一つ前のシーンから、最後の草原を疾走する馬のシーンにつながっていたようです。
映画をご覧になるとわかると思いますが、本来のシーンの流れの方が自然であり感動の余韻が残ります。
もし本当にR指定版が発売されるなら、米国版でも良いから(日本版はまず出ないでしょう)何とか入手したいと思います。

情報ソース
Variety誌Review (Variety)
From quiet croupier to action star(The Globe and Mail)
Boogie Knights (The Village Voice)
Return of the King (Entertainment Weekly)


2004年07月19日(月)