Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
2日間限定 「キング・アーサー」(1)
「キング・アーサー」の先行上映に行ってきました。 サイトの鞍替えはいたしません。ただ、 また…、豪華パンフレットが解説足らずで、アメリカの新聞に載っていたような情報が掲載されておらず、パンフレットそのものも少々方向ちがいなところがあって。 もっとも今回は、日本の配給会社の見込み違いが原因ではないのかもしれません。 米国の製作配給会社の方でも、試写会直前に撮り直しをするなど、いろいろと混乱があったようです。
ともあれ、今日と明日の2日間限定ということで、あまり日本には知られていない背景情報などを含めてご紹介しようかと思っています。 本日が個人的感想編、明日が補足情報編です。 来週はまた「M&C」サイトに戻ります。 ちなみに「M&C」の次回予告は「夏休み旅行特集」。3週間にわたって、イギリス、ガラパゴス、その他世界のM&Cの舞台をたずねた記事特集のご紹介をさせていただく予定です。
今日明日付けでupするアーサー王記事の内容ですが、一応、両日ともストーリー展開に関するねたバレは起承転結の承の部分までに収める予定、このため【ねたばれ】警告表示は付していません。 が、私なりの感想も入りますので、これを読んでしまうと、ある程度の先入観が入ることにはなると思います。 それでも構わないと思われる方のみ、この先へおすすみください。よろしくお願いいたします。
18日の日曜日、友人のFさんと「キング・アーサー」の先行上映に行きました。 日本丸の畳帆を見てから横浜みなとみらいの映画館に行こうという計画だったのですが、18日の横浜は大花火大会で大混雑、人混みに恐れをなして、映画は川崎へ移動となりました。
18日の横浜は34度近くまで上がったでしょうか? くらくらするほど暑く、「あぁアンティグアのイングリッシュ・ハーバーのドックってこんな暑さかも」などと溶けかかった頭で考えてながら日本丸へ。そして満々とたたえられたドックの海水を見た途端に思ったことは「あぁこの海、冷たそう」。
「私、いまドルドラムの時の艦長の気持ちわかった! この水に今すぐ飛び込みたい!」 と言ったらFさんの答えていわく 「でも、サメよけ銃を持った海兵隊長はいないから、そのつもりで」 (このネタは、今週金曜発売のDVDの未公開シーンをご覧になるとおわかりいただけます)
日本丸の展帆作業、いつもは解説者のいる左舷側で見ていたのですが、今回はあまりの暑さに、日陰のある右舷側で解説なしの見学。ところがこれには思わぬ収穫がありました。 右舷側って解説が無いかわりに、作業指示の命令がよく聞こえるんです。 回を重ねたリピーターの方には、日本丸の右舷側、おすすめかもしれません。
花火大会を見に来る人たちとすれちがいながら、横浜から川崎へ移動。 余談ながら、驚いたのは和装の若い人たちが多いことでした。 こんな時こそ浴衣が着たい!という女の子の気持ちはよくわかるけど、彼女に合わせて浴衣や甚平を着てきた男性が多いのはちょっと驚き。いやでも、茶髪のお兄ちゃんの甚平って、何故か似合うんですね。亜種のいなせ…というか、あぁいうのってイキが良ければいいものでしょうか?
さて、本題に戻ります。 「キング・アーサー」 これ米国でも賛否両論いろいろありましたが、たぶん日本でも意見はかなり分かれると思います。が、私個人的にはこの映画は好み、公開になったらもう一度、ゆっくり2回目を見に行きたいと思います。 これもやはり、ハリウッド映画というよりはヨーロッパ映画のテイストですし、おそらくは米国で不人気、ヨーロッパで評価される…という結果になるのではないかと。
映画を見る前の、事前の注意は「M&C」と同じです。 原作はいったん全て忘れること、大枠(キャラクターと時代背景)だけ頭に残して映画館に入ってください。 その意味では、いま配給会社が配っている詳細チラシ「キング・アーサー公式ハンドブック」はむしろ読まないで行かれた方が良いのではないかと思います。
解説パンフでライターの小西さんが書いてらしたように、「旧来のいわゆるアーサー王伝説に慣れ親しんだ欧米人より、先入観のない日本人の方が楽しめる」作品でしょう。
もっとも欧米でも最近は、伝説から一歩踏み出した、リアルであると同時に血なまぐさい(または夢のない)アーサー王の小説もベストセラーにはなっているのですが。 マリオン・ジマー・ブラッドリーの「アヴァロンの霧(三部作)」シリーズはベストセラーになり、TVドラマ化もされました。 このTVドラマ、映画公開にあやかってか、この夏8月21日、22日にNHKBSで放映があるようです。
これら最近のアーサー王小説の中で、映画「キング・アーサー」に一番近い世界は、おそらくバーナード・コーンウェルの「小説アーサー王物語(三部作)」ではないかと思います。 もっともコーンウェルの小説では、部族抗争はリアルながら、ケルト的民間信仰としての魔術や、愛の三角関係については一般的な伝説通り描かれています。ところが今回の「キング・アーサー」にはそれもない。
「キング・アーサー」の脚本家は「グラディエーター」を書いたディビット・フランゾーニですが、あぁなるほどな…と納得します。 グラディエーターは、ストーリー展開はドラマチックなものの、その実はマキシマスという一人の戦士の心の軌跡を、丁寧に淡々と描いた映画だと思うのですが、「キング・アーサー」も基本は同じです。 それを面白いと思うか、それとも派手さが足りなくて(ストーリーのドラマチックさではグラディエーターには及ばないので)退屈だと思うかは、見る人次第でしょう。 ただ私には、クライブ・オーウェン演じるアーサーの抑えた苦悩と心の軌跡を辿っていく面白さが魅力でした。
豪華絢爛な様式美とストーリーで見せる「トロイ」は、もちろんそれで十分面白かったのですが、もしあの題材をこの「キング・アーサー」の手法で描いたら、例えば伝説やストーリー展開のお約束を蹴飛ばしてでもアキレスの心の軌跡に特化して描いたらどうなったのだろう, と考えて。でもこの手法は、当たりはずれが大きいかもしれません。 「キング・アーサー」は、見ている人が、暗く悩み続けるアーサーに引き込まれ、魅力を感じなければ、はずれてしまうような気がします。 アキレスにはずれても、プリアモス王の悲哀や、健気なヘクトルや、情けないのが魅力のパリスや、その他、ヨロイが綺麗だとかエーゲ海の青が忘れられないとか、宝石箱をぶちまけたようにもろもろの魅力があった「トロイ」と異なり、アーサーにはアーサーしか無く、全ては彼に集約されている。
グラディエーターのサイドキャラクターたちが、あくまでもマキシマスとの関係の中でしか個性を発揮しないように、キング・アーサーのキャラクターたち、グィネヴィアや部下となる6人の騎士たち…も、あくまでもアーサーとの関係の中で描かれているところがあります。 その分、ストーリーは集約していますし、主人公の心の軌跡は追いやすいのですが。
あぁ。私やっぱり、このクライブ・オーウェンのアーサーに惚れたみたい。だから面白いと思うのでしょうか? でも、「この指揮官になら地獄まででもついていきたい」と思ってしまう騎士たちの気持ち、わかるような気がするのです。 このアーサー、写真だけをみていると単にハンサムで暗いだけの人ですし、冒頭では騎士たちが何故この危険なミッションに同行するのか、正直言ってよくわからないのですが、2時間映画に付き合うと、最後には「あぁこの人にならついていこう」と思わされ、納得させられてしまいます。
その意味では確かに「カリスマ性のある指揮官」なのですが、しかしながらこれは、ジャック・オーブリーの持つ指揮官のカリスマ性とは全く正反対の魅力でしょう。 ジャックは陽気で積極的で攻撃的で、「ナポレオンを王と呼びたいかー!」「ノー!」「よし、かかれ野郎ども!」みたいなノリで、彼の積極性が部下たちに伝染していくような、陽のカリスマ指揮官。 ところがアーサーの吸引力は全くの逆。 暗くて内省的で、常に自分を責めているようなところがあって、部下たちに心の中で「すまない」と思いながらもそれを押し殺して断固とした口調で命令を出している、ところが…実は部下たちにはそれが見え見えにばれていて、だからきっと騎士たちはこの大将を放っておけなくて、地獄までこの指揮官について行ってしまうのではないかしら(ちょっと考えすぎ?)。
いやでも私は、この手の陰のカリスマを持った指揮官に弱いですから。 暗い色の髪に薄い色の瞳のクライブ・オーウェンには、どうも、とある海洋小説に登場する艦長を思わせるところがあって、あぁあのドラマを映像化するならオーウェンに主人公でも良いな…と思ったことを白状します。 (先入観をもたれるといけないので、誰の話をしているのかは伏せることにします。さて私と同じコトを考える方がいらっしゃるでしょうか?)
以下、雑多な感想+情報いろいろです。
とにかく馬と人が綺麗に撮ってある。騎士がカッコイイ。 アーサー王と6人の騎士なので、V字型に綺麗な編隊を組んで(馬にこういう言い方をするのかどうかわかりませんが)突っ込んでいくところなど、あまりの格好良さに舞い上がってしまいます。 役者さんたち、ゼロから特訓の人もあったそうですね。簡単そうに乗ってますけど、初心者には馬の動きに合わせて上手くバランスをとって振り落とされないようにするだけでも大変で、馬上の殺陣を演じるには、体が無意識に反応してバランスをとれるまで乗り込まないと出来ない筈だから、あそこまで行くのは本当に大変だったでしょうね。
最初のミッションの途中で、雨の森の中で野営しているシーンがあります。 さりげないシーンだけど、騎士たちのタフさとチームワークの伺われる良いエピソードでしょう。 個人としてのアーサーの魅力もあるけれど、グループとしての騎士団の魅力にも惹かれます。
ランサムの児童文学ファンの皆様へ> このグィネヴィアは「ピクト人」の設定だそうです。戦士でもある彼女はちょっとコワイけどそこが魅力で、きっとナンシイ船長は大喜びでしょう(笑)。
でもグィネヴィアなエリザベスと、パリスな鍛冶屋のウィルでは勝負は決まっているね…と上映後に友人と合意(映画がちがう…)。
サクソン人の王セルディックを演じているステラン・スカルスゲールドはポール・ベタニーの親しい友人(彼にだまされてポールは「ドッグヴィル」に引きずりこまれたそうです)。ポールとジェニファーの息子ステランの名前は、このスカルスゲールドからもらっているそうです。
なんと「ホーンブロワー」のスタイルズ(ショーン・ギルダー)が出ています。アーサーたちが救出に行くローマ貴族の家臣の役。おやおやスタイルズ、ホレイショ艦長におとも?…とか思ってしまいました。
そのホレイショじゃなかったヨアン・グリフィス。ランスロットは現実主義者だしこわもてなのですが、宴会の席などでは明るく笑っていたりして、複雑なキャラを演じながら屈託なく笑うヨアン…を珍しいものでも見るように見てしまう私って、やはり問題ですか? 放っておくとどんどん内省の淵に沈んでいってしまうアーサーと現実主義のランスロットの関係は、ちょっと今のNHKの新撰組の近藤と土方の関係に似ているかもしれません。
そういえば、この感想は正しいのかどうかわかりませんが、「キング・アーサー」の殺陣ってちょっと日本的? 幅広の剣を使った殺陣って、突くか叩き切るものだと思っていたのですが、「キング・アーサー」の殺陣は引き斬るような、日本の時代劇に近い動きになっているような気がします。そう見えただけかもしれませんが。 こちらの動きの方が叩くより優雅に見えますね。
最後に、 「キング・アーサー」に「絵に描いたような騎士物語」を求める方はハズレます。 そのような方はヴァンサン・ペレーズ&ペネロペ・クロスの「花咲ける騎士道」を見に行かれた方が良い思います。 これは文句なしにおすすめ。めちゃくちゃ格好良くて明るく楽しいラブ・コメディ、でも殺陣はホンモノ。 こちらの上映は7月30日までです。おはやめに!
「ロード・オブ・ザ・リング」の「二つの塔」を見るようなつもりで行くと、あまりはずれないと思います。 そういえば、米国の新聞記事に「オークのようなサクソン軍」という描写があって笑ってしまいました。
明日19日付けでは米国の新聞などから、パンフレットの補足となるような情報を紹介したいと思います。
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昨日付けでご紹介した中国語サイトの元になった日本語サイトを、複数の方から教えていただきました。 ありがとうございました。
http://www.water.sannet.ne.jp/vinorosso/master.htm コピー・ペーストしてご覧ください。
こちらは「お遊び」として作られたもののようですが、これがどういう経路で中国大連の紹介サイトに乗ってしまったのか? やはり謎は謎のまま残ります。
2004年07月18日(日)
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