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Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
原書で読む海洋小説(その1)入門編

「海洋小説を英語で読むなら何が良いですか?」というお尋ねをいただきました。
うーん、何が良いかしら? むかし初めて読んだ海洋小説を思い出しながら、いろいろ考えてみました。

葉山さんは英語使えるから…って言われるかもしれませんが、私は英文科でも西洋史専攻でもなく、今使っている英語は全て、就職後に必要に応じて勉強しなおしたものです。
私が最初に勤めたところは、時々国際電話のかかってくるオフィスで、大学受験終了以来英語とご無沙汰だった私は、当然おろおろ。
これじゃぁまずいと思って、就職後半年が経過した秋から、英会話学校なるものに通い始めました。
そうなると、小説の主人公たちの交わす会話が、英語では実際に何と言っているのか気になるものでして、私はお気に入りの小説の幾つかをペーパーバックで買って、日本語訳と英語原文の会話を比較するという遊びを始めたのです。
でも、もちろん1冊全部読むなんて大それたことは考えませんでした。既にに翻訳の出ている本を買ってましたから、全部読む必要もありませんでしたし。

そんなある日、忘れもしない渋谷の三省堂書店で、私は1年以上続刊の出ていなかったアレクサンダー・ケントのボライソー7巻「Passage to Mutiny(反逆の南太平洋)」のペーパーバックを見つけてしまいました。
その時の私の英語レベルは、高校卒業+英会話学校1ヶ月。
お遊びの拾い読みではないし、大人向けのペーパーバック1冊なんて読み切れないだろうと自分でも思っていました。
でも1年待っても新刊は出ないし、先は読みたい。そして読みたい先の物語は、英語だけど今、目の前にある。
どうしても先が知りたくて、これを諦めることは出来なくて、駄目もとでそのペーパーバックを買いました。
読み切れっこないだろうと思いながらページを少しずつくっていきました。
ところがこの7巻、ストーリーが波瀾万丈で、もっとハッキリ言ってしまえば主人公たちがどうなるか心配で心配で、止まらなくなってしまったんです。
最終ページにたどりつくまでに3ヶ月かかりましたが、とにもかくにも1冊読破してしまいました。

私にも英語の本が読めるんだ。自分でもびっくりしました。
でも考えてみればこれって、専門用語を別にすれば、高校時代に読まされていたリーダーに比べても、格段に難しいというわけでは無いんですよね。ただ分量がやたら多くて、教科書5冊分くらいはあるだけの話しで。

結論:
ふつうのペーパーバックは、高校のリーダーの教科書と同じ。あとは最後まで読み切るだけの情熱さえあれば良い。

あとは如何に、情熱を持って読める本を探すかだと思います。
私見ですが、ペーパーバックを選ぶポイントは以下の3つではないかと思います。

1)ストーリーが面白い(波瀾万丈)なこと。中だるみがなく、2〜3章ごとに山があって読者を飽きさせない作品。

2)お気に入りのキャラクターが登場する。または既翻訳作品でお馴染みのキャラクターが登場する作品。

3)読みやすい作品:文章があまり複雑ではない。ほどよく会話があること。

どうしても読み切る!という固い決意をしていらっしゃる方の場合は、
4)まだ日本語訳されていない、または翻訳本が絶版または在庫切れの作品。
を選んで自分を追い込む方法もありますが…。

この点から見ると、どの作品も一長一短です。
例えばC.S.フォレスターの「ホーンブロワー」は、端麗な英文がおすすめではありますが、原作では主人公が常に、延々と、暗く悩んで心配ばかりしています。それがお好きな方は構いませんが、初めてのペーパーバックで、英語であの悩みに何週間も付き合うのは、ちとごめんこうむりたい。
A.ケントのボライソーも、リチャードが主人公だった頃は良かったけど、25巻以降の主人公である甥のアダムは、どうも暗くってうだうだ悩むばかりで、ついどやしつけてやりたくなっちゃうんです(笑)。

P.オブライアンは、3)で問題あり。ほどよく会話はあるけれど、文章が複雑すぎ。会話が高尚すぎ。ついでにマチュリンの皮肉はひねりすぎでさっぱりわからん。
関係代名詞とセミコロンで一文10行とか平気で続きますので、読んでいるうちに、whichの先行詞が何だったかわからなくなります。
オブライアンには突然ラテン語が出てきて困りますが、D.ポープのラミジには突然イタリア語が、D.ラムディンのアランにはインディアン語が英文訳なしで登場します。

ま、ですから最終的には皆さんが何をより重んじるかだけだと思います。
「マチュリンが好き。たとえ突然わけのわからぬラテン語をしゃべりだしても、さっぱりわからない皮肉を言われても、とにかく彼の活躍を読みたい!」方なら、迷わずオブライアンを読まれれば良いでしょう。
情熱は往々にして、英文法を蹴飛ばして突き進むものです(いや、ホントよ)。

でもそういうわけですから、前もって日本語訳を最低1〜2冊読み、キャラクターに慣れていることが必要だと思います。
全く知り合いの居ない外国を旅行するのと、知っている人がいる国を旅行するのとでは楽さが違うのです。
そして知り合いは出来るだけ多い方が良い。私が初めて読破したボライソー7巻の場合は、主人公リチャード・ボライソーと艇長オールデーの他に、5巻から引きつづきの副長ヘリックと三等海尉のキーンがいてくれたことが、ずいぶん助けになりました。
オブライアンの場合だったら、ジャックとスティーブンは確実、キリックとボンデンもほとんどの巻に出てきますから、知り合いには困りません。

日本語訳を読んでおくと後が楽なのは、もうひとつ、専門用語の扱いです。
高橋先生チームの翻訳では、帆船の専門用語は漢字書きし英語のルビをふるという形をとっています。
たとえば「錨をおろせ」は「投錨」と書いて、「レッツゴー!」とルビをふる。
これに慣れていると、英語で「Let's Go!」と書かれても、「さあ行こう!」ではなく「投錨!」のことだとすぐにわかります。
日本語訳1〜2冊読めば、知らずにかなりの船の専門英語を覚えてしまうことができます。
同様の効果は、「M&C」のDVDを何回も見る、セリフの録音を何回も聞く…ことによっても得られます。言葉は耳からの方が覚えやすいかもしれませんね。

で、最終的にこれら全てを勘案して、最初の1冊…私がおすすめするのは、
「Richard Bolitho, Midshipman」
アレクサンダー・ケントのボライソー・シリーズの第1巻です。
上記の条件の1)と3)、それに4)が当てはまります。この作品「若き獅子の船出」というタイトルで日本語訳が出版されていますが、すでに在庫切れで、現在は古本屋でしか手に入りません。

ボライソー・シリーズ27巻の中でこの1巻と、その続編となる「Midshipman Bolitho and the Avenger」の2冊だけは、実はジュヴナイル向けに書かれた作品です。英国の中・高生対象なので(英国では学校の国語=英語のサイドリーダーに使われているそうです)、英文がわかりやすく読みやすい。物語もそれほど長くはないので、挫折がありません。
ストーリーは波瀾万丈で、中だるみもないし。
主人公は17才の士官候補生リチャード・ボライソー。私は「M&C」のカラミーを見ていると、この1巻と6巻のリチャードがかぶります。
とりたててこの本…というのが無い方は、まずはこの1冊からいかがでしょう?

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2004年05月22日(土)