Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
サープライズ号の帆船模型
アメリカのネットより、ジャック・オーブリー艦長の愛したフリゲート艦サープライズ号の、帆船模型のニュースです。 あなたのお部屋に、サープライズ号の模型はいかがですか? 完成品は$13,500(148万円!)、ご自分で組み立てられる場合のキット代金は$3,350(37万円)。
ただしこの模型、どうやら全長1.6メートルとか。実際に帆走も出来る(!)そうです。 模型の詳細はこちら。 六畳の私の部屋に入れたら、私が出て行かないと駄目か。
製作販売は、1760年〜1820年の1/24スケールの模型を専門に製作しているカリフォルニアの会社です。 The Ships of Steel, Chapman & Hutchinson Ltd. 購入方法(申し込み方法、支払い方法など)はこちらのページを。 海外から申し込みの場合、VISA、Mastercardで支払可能、発送はFedexですが、送料が$200程度かかります。 この会社には「この艦の大砲は撃てるのですか?」という問い合わせがよく寄せられるそうですが、答えは「NO」だそうです。
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海洋小説の場合、主人公となる艦が実在する例は比較的少ないのですが、3巻と、今回映画化される10巻に登場するサープライズ号は、同名の実在艦をモデルにしています。 先にご紹介したChapman & Hutchinson社のホームページには、実在のサープライズ号(H.M.S.Surprise)についても、こちらに紹介されています。
これによると、サープライズ号は、元はフランスのル・アーブルで1794年に建造された、L'Unite号というフランスの24門コルベット艦でした。 しかし1796年4月、地中海で拿捕され、サープライズ号と改名され、英国海軍の28門フリゲート艦となりました。 海事史上でこのサープライズ号の名を有名にしたのは、3巻「特命航海、嵐のインド洋」上P.255で語られる、サープライズ号とヘルミオネー号をめぐる事件です。 これは、1799年に反乱を起こし現在のヴェネズエラに逃げ込んだヘルミオネー号を、サープライズ号のエドワード・ハミルトン艦長が奪回したもので、そのためこの艦は、復讐の女神ネメシスの別名でも呼ばれることになったのでした。 実在のサープライズ号は、その後英国に帰国し、1802年に解役となりました。
というわけで、3巻の舞台である1805年には、サープライズ号という艦は歴史上には実在しませんし、同様に、ジャック・オーブリーが士官候補生だった1782〜83年にはサープライズ号はもちろん(その前身となるL'Unite号も)建造されていません。
ところで、ダドリー・ポープのラミジ・シリーズ(至誠堂)、C.S.フォレスターのホーンブロワー・シリーズ(ハヤカワ文庫NV)をご存じの方は、オーブリー3巻のこのくだりを読んで、「あれ?」と思われた筈です。
ラミジ艦長シリーズの12巻「密命の結末」は、このヘルミオネー号奪回事件を下敷きにしたフィクション。 サープライズ号役はラミジの指揮するカリプソ号ですが、作戦内容も実際の事件とはかなり変わっています(この場合は事実より小説の方が奇なり、で面白いです)。 この本の巻末には、このシリーズを訳された出光宏氏による詳しい解説がなされており、それによると、ヘルミオネー号はこの事件の後(1999年)にレトリビューション号と改名され、最終的には1805年に解役されました。
そこで記憶の良い方なら、ロバート・リンゼイ演じるペリュー提督のセリフを思い出されるでしょう。 「ガディタナ号はレトリビューション号と改名された。君の指揮する艦だ、コマンダー」 そう、ドラマ「ホーンブロワー2」(エピソード6)の最後に、ホレイショの初めての指揮官になるブリッグが、レトリビューション号という名前でした。 ただしこちらは、18門のブリッグ艦で、実在の32門フリゲート艦レトリビューション(ヘルミオネー)号とは艦の等級が異なりますし、それ以前の問題として、ホレイショが最初の指揮艦を得た1800年には、実在のレトリビューション号がまだ存在していることになります。
でも、今にして思うに、C.S.フォレスターは「スペイン要塞を撃滅せよ」を執筆した際に、ヘルミオネー号のことを念頭において、ガディタナ号をレトリビューション号と改名することに決めたのではないでしょうか? そして、2000年に放映されたTVドラマ「ホーンブロワー2」の製作スタッフも、それらを踏まえた上で、前後編となるエピソード5&6のサブタイトルを、「Mutiny(反乱)」、「Retribution(応報)」と名付けたのだと思います。 海事史に詳しい人にとっては、Mutinyと来ればRetributionなのでしょう。またあのドラマの結末と、各登場人物の運命を思うとき、「(因果)応報」というこのサブタイトルは、とてもふさわしいもののように思います。
2003年10月02日(木)
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