Sail ho!
Tohko HAYAMA
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Sail ho!:映画「マスター&コマンダー」と海洋冒険小説の海外情報日記
原作付き映画化と情報戦略:ハリポタとLOTRとM&C
「マスター&コマンダー」は、原作ファンの多い作品の映画化です。 昨年夏(8月)のワシントンポスト紙に、この大型作品映画化の行方を案じる記事が載りました。
"Lucky Jack Aubrey's Latest Port:Hollywood" By Ken Ringle, Washington Post Staff Writer Washington Post, 2002.08.23 「Master and Commander: The Far Side of the World」の映画化は、「ハリー・ポッター」と「指輪物語」以来最大の大型作品であり、パトリック・オブライアンの熱心なファンたちは、その行方を案じながらも見守っている。 だが、「ハリー・ポッター」を映画化しているワーナー・ブラザースが、積極的に情報を公開し、原作ファンを安心させているのとは対照的に、20世紀FOXは、厳しい情報統制を行い、なかなか情報を公開しようとしない。 誰もがわかっていて、FOX社の重役だけが気づいていないことは、米国だけでもオブライアンの本は500万部売れており、この映画が成功するか否かは、オブライアンのファンにかかっているということだ。 映画化される「The Far Side of the World」は、シリーズ10作目。オブライアンの原作では、1812年の第二次英米戦争が舞台。オーブリーとマチュリンは、太平洋で英国捕鯨船をえじきとしているアメリカの(帆走)軍艦ノーフォーク号を拿捕または撃沈すべく、ホーン岬を越えて追撃する。だが、FOX社の製作陣は「アメリカの観客は、アメリカが敵役という設定を受け入れ難いだろう」として、米艦ノーフォーク号を、フランス艦Acheron号に置き換えた。また原タイトル「The Far Side of the World」はゲーリー・ラーソンのコミック映画を連想させてるものだとして抵抗を示している。(下記注参照) オブラアン作品の熱心なファンたちは、ハリウッドの通例が、自分たちの愛する作品を台無しにしていしまうのではないかと恐れている。FOX社の人間は誰ひとりとして原作を読んでおらず、また例え読んでいたとしても全く理解しようとしていない…とある関係者は語った。 小柄なスティーブン・マチュリン役に190cm近い長身のポール・ベタニーがキャスティングされていることも、ファンは疑いの目で見ている。だが少なくとも監督のピーター・ウィアーは、オブライアン作品の世界を再現することに没頭しているようだ。ウィアーは乗組員役をカリフォルニアで調達しようとはせず、イギリス、カナダ、スカンジナビア、ポーランド出身者から選び、18世紀の船乗りらしい外見にこだわったということだ。 (注)ゲーリー・ラーソン(Gary Larson)のコミック映画ファーサイド:ネットで探してみたらこんなものを見つけました。確かにシリアスな追撃戦とは正反対のコミック映画のようですね。
ところがしばらくして、このワシントン・ポストの投書欄に、このような投稿がのりました。投稿者は20世紀FOX社のトム・ロスマン会長ご自身。
Faithfully Bringing Lucky Jack to the Screen 2002.09.27, The Washington Post 私は8月23日付けの貴社の記事を読んで眉をしかめた。 記事の中には「FOX社の人間は誰ひとりとして原作を読んでおらず、また例え読んでいたとしても全く理解しようとしていない」という一文があったが、これはFOX社で働く多くの人々を侮辱するものである。FOX社の会長として、また社員として私は、ここで働く資格があると確信しているが、私はパトリック・オブライエンの本を読んだだけではなく、私自身が長年、パトリック・オブラアンに心酔するファンであり、この私こそが9年前、プロデューサーのサム・ゴールドウィンのために、このオブライアン・シリーズの映画化権獲得に尽力した当人なのである。
そしてこの投書の題名通り、ロスマン会長は、オーブリーを正確に映画化すると述べ、その例として、オーブリーの体に残る古傷の痕は、原作9巻までの経緯を正確に再現しているとしています。 そしてその10日後、ワシントン・ポストと並び称されるアメリカの日刊紙ニューヨーク・タイムズに、「マスター&コマンダー」の映画を詳細に紹介した記事が載るのです。
On the Seas Again Guided by a Star, By Rick Lyman 2002.10.13, New York Times この映画化の話は、10年前、現在FOX社の会長職にあるトム・ロスマンが、コネティカット州での休暇中に雨に降り込められたことから、オブライアンの本の1冊を手に取ったことに始まる。ロスマンは当時のボスであるサム・ゴールドウィンJr.に、この本の映画化権獲得をうながした。 一時はディズニーの手に渡った映画化権だったが、ゴールドウィンはこの権利を取り戻し、ロスマンに託した。そしてロスマンはパトリック・オブライアンのファンであったピーター・ウィアーに声をかけた。 映画の製作陣は、純粋なオブライアン・ファンからの批判は覚悟している、と言う。だがロスマンは「貴方がこの本の、そして登場人物たちの精神(spirit)に即している限り、何の問題もないはずだと思う」と語っている。
明らかにワシントン・ポストを意識しまくった内容なので、思わず苦笑してしまいます。何やらFOX社の御用新聞みたいになってますし、ただこの記事を書いた記者には、FOX社は異例の情報公開を行ったようです。現在までに発表された紹介記事の中で、とにもかくにも、この記事がいまだに一番詳しいのですから。
この記事については、Kumikoさんが内容をさらに詳しく紹介してくださっていますので、こちらをご参照ください。
この一連の騒動(?)を通して、いくつか発見をしました。 「ハリウッドで映画化されたら、原作は台無しになる」…というのは、外国人の間ではよく言われていることですけれど、アメリカ人自身もそのように考えているということ。これはちょっと意外でした。 また原作付きの場合、映画会社の情報公開は原作ファン対策も視野に入れている…ということ。我が身をふりかえって、私も結構うまく映画会社に踊らされているかもしないと思いました。
「ハリー・ポッター」の第三作など、撮影中にもかかわらず既にかなりスチール写真が映画雑誌に流れていますが、その中には誰かさんの正体の明かされるクライマックス・シーンもあるんですよね。これなどはかなり意図的に流しているんでしょうね。 となると…、第二部の時には情報が流出していたのに、第三部になったら急に厳しくなった「ロード・オブ・ザ・リング:王の帰還」の情報統制の意味するものは??? そして相変わらず、情報のほとんど流れて来ない「マスター&コマンダー」。 全米公開まであと2ヶ月です。
*ここで紹介したワシントン・ポストの記事は全体のごく一部のみを要約したもので、全文をお伝えしたものではありませんので、お気をつけください。ワシントン・ポスト2002.08.23, 09.27、ニューヨーク・タイムス2002.10.13の記事全文はこちらで読むことができます。 http://www.geocities.com/Hollywood/Cinema/1501/masterandcommander/farsideoftheworld_inprint.html
先頭がニューヨーク・タイムス、以下順を追って記事が古くなっていきます。この3件以外の記事(メキシコの新聞記事の翻訳)なども読むことができます。
2003年09月22日(月)
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