「再春」

春が来てしまったのだと思った。

霧雨のやみ上がる頃、宵闇。
逝き残された空の青が惑い、墨を滲ませながら隠れるような、
不自然な、不可思議な、宵闇。

春は過去しか思い出させない。
弛緩む温度が記憶を融かして、今を不確かにする。
足取りを止める刹那、桜花のように散りかかる、あと何cmかが重ならない面影。

春は途切れたものばかり見せて、今を見せない。
今、の積み重なりが未来になるのだとしたら、未来は来ない。
そんな憂鬱を連れて来る。

でも、もう、春の後ろ姿。
でも、また、春は来る。
わたしが春に今を見るのは何時になるだろう。


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