「孤高」

突然、心がズキッとする感覚。それを過去に置いて来たはずのものに時々見出す。抱えた腕からぽろぽろとこぼして、或いは故意に棄て置いて来たもの。通り過ぎて来た路傍にあちらこちら転がる。もしかしたらとても綺麗なものでどうしても必要なものだったんじゃないのかと置いて来たはずのものを取りに帰りたくなる衝動を呼ぶ。

いま此処に無いものたちは現物以上の、必要以上の煌きを放とうとするから、そんな時、心がそれが不必要だと決断した時の理由やら感触やらを都合良く忘れてしまおうとしているようにすら思えて憎い。

何て無益な事を。折角回避したのにまたわざと泥に嵌りたがるような愚考。痛みを思い出したいがゆえにかさぶたを剥がすようなその衝動をいつも冷笑するのだけれど。水潦を作って溺れるような、わたしはわたしの中にどうしようもなく愚かな、そういう部分が変わらず坐しているのを見る。

けれど違うな。きっと本当に思い出したいのは、「要らない」と感じたその時の感触。付随した確固たる理由。「ああ、やっぱり棄てたものだ」という一つの事実を思い出したいが為に。千歳の恋慕の想葬を過ぎたわたしは、たぶんもう何処にも溺れることはないのだから。


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