「世界の終りに」

世界に終りがあるとして、「if」の内側でそれを思う時はいつも、恐怖でもなくゆっくり落下してゆくような安堵と寂然とした郷愁が心を湿らせてゆく。突然、命を落とすかも知れない可能性を知っていて尚、無視しておきながらヒトは皆同時に閉じられる世界を口々に問う。

自分独りでも生き残りたいというヒト。皆で死ぬならそれでいいというヒト。わたしは後方だ。なにもない、ただ其処に存在するだけの世界はきっと無関係で無意味なもの。少なくともわたしにはその世界に何の意味も価値も見出せない。

「きみのためなら死ねる」
こんな言葉を語る奴は単なるエゴイストで馬鹿で嘘吐きだと彼は言った。死んでどうする。自分が居なくなった後、独り残された彼女がどうなるのか考えてもいない。俺は絶対に生きる。絶対に先には死なない。

知っていたのだろう。残された視界がどれだけ虚無なものなのか。
彼の言葉は愛の本質に近かった。好き、以上の想い。彼となら到達できるような気がした。世界の最後にも自分が微笑っていられるような気がした。


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