「発光する魂と解体を始める記憶」

大阪へ向かう途中、バスの中から神戸の街並が見えた。
また懐かしい、と感じた。

神戸という街に縁を感じている。理由は、無い。
訪れた事がなかった時からなんとなく親近感を覚えていた。
以前、勤めた会社の本社が在る。それは神戸にあったから選んだわけじゃなくて。
その頃、見つけた恋人とも初めに訪れた。
モザイクの夕暮れ。これからも、という告白を今も憶えている。
だからというわけじゃない。
神戸の街に懐かしさを感じる。自分の記憶のもっと奥の方で。

(帰りたい…。)

その時、こころの中でそう呟いたのはわたしではない。
わたしには此処に帰りたい理由が、無い。
それが誰の呟きなのかは知っていた。
遺伝子がはこぶもの。
それは血統や容姿だけではないという事をご存知だろうか。
人が形成される中と外以外のもの、それは記憶。
デジャヴと思われるものの正体かも知れないし、そうじゃないかも知れない。

今の日本通運よりも大きな運送会社だったという祖父の実家。それが神戸にある。
大金持ちのぼっちゃんだったという祖父は生前までわたしにとって粋で上品な人で。
けれど、様々な出来事があり会社は潰されてしまった。
祖母と結婚してからは四国に移り住んだが、躰が弱く満足に働けなかったらしい。
母は、幼い頃から今では想像も出来ないくらい笑えるほど貧乏だったと冗談雑じりにわたしに話した。でも母の兄弟は集まれば口々に言う。
「それでも今と同じくらい幸せだったよ。」と。

何の苦労もした事のなかった祖父にとって、それからの人生はどのようなものだっただろう。貧しくとも大家族に恵まれ幸福ではなかったか。

(帰りたい…。)

わたしはその時、知った気がした。
祖父は帰りたかったのだろう。
自分が生まれ、一番良い時期を過ごしたこの神戸にずっと帰りたかったのだろう。


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