「其処に映るもの」

わたしがもう少しヤングだった頃、写真を撮らせて欲しいと何度か頼まれた事があった。物好きな。わたしなど撮ってどうするというのだ。つーかきみ、なにに使うか明確に告げよ。怪訝な貌をしてわたしは断り続けていた。それがなぜ何枚も何度もそれを許す気になったのかは憶えていない。わたしは恋人ではない二人の男性に了解した。

一人は何枚も、それはもう何枚も、色んな場所へ連れて行き、色んなポーズをさせてわたしを撮った。そして現像した大半の写真を気に入らないと彼は棄て、気に入った写真だけを大切に写真立てに飾っていた。わたしもその選ばれた数少ない写真が嫌いではなかった。でもわたしは撮られるのがとっくに厭になっていた。

もう一人は思わぬ瞬間にいきなりカメラを向けて撮る事が好きだった。わたしはこういう撮られ方が嫌いだった。やめてと言うと、じゃあ笑ってと言う。面白くないのに笑えないと返すわたしに、普通にしてていいからと笑った。撮ってもらった数枚の写真を見てわたしはなんて下手なんだと責めた。全部棄てろと言うと彼は怒って全部の写真をそのまま抱え込んだ。わたしは撮られるのがもっと厭になっていた。

綺麗に撮られる事だけを意識した写真と笑った瞬間ばかりの写真。彼らが求めていたものが映り込んだ写真。今のわたしの手元には勿論一枚も無い。


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