「妄想日記」

勝手に恋人と思つてゐる存在が有る。
わたくしが事ある毎にさう告げると彼は少し迷惑さうな顔をなさり、
「ボクはたれにもしばられないのさ」と、焦点すらさだまらぬ瞳で空を見る。

彼は彼を愉しませるもの以外、何も映さない瞳を持つてゐる。
その大変美しい、硝子のやうな瞳にはわたくしすら映す事がなひ。
わたくしが彼の愉楽となる刹那のみ、映る事が叶ふのである。

まるで王子様のやうな華麗な容姿。
それでいてサヴァイバルな冒険精神を持ちあわせた類稀なる純粋。
そんな事を思わせる。

あなたの考えていることが何ひとつ解らなひ。解らなひのです。
確認出来ぬ想ひへの焦燥か。時折、わたくしはとても不安になる。
思い余つてその背中、切なくキユツと抱き締めてみても、するりと躱された冷たひ余韻が指先に残るだけ。

「アイなんかにしばられないのさ」
わたくしを哀れむやうに見る硝子。自由に生きるふたつのいのちに、枷はいらぬと諭される。
さうでした、さうでしたね。
「溺愛、カッコわるい」
溺愛などしてはならぬきまり。
びらうどの花の上に転がりあそぶ、その自由を奪ふものがこの想ひなら永久にこのかひなを戒めませう。

だからせめて愉楽が尽きる刻には、わたくしの胸で睡つてほしい。
一輪の月響る、今宵も肖像をぢつと眺めてゐます。



  たまくんやで。



あなたの考えてゐる事が何ひとつ解らなひのです。
何せ、あなたの頭の中にはお花畑が咲いてゐる。


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