セクサロイドは眠らない

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2002年08月31日(土) 酒に酔った勢いで、いつのまにかエイコの手に自分の手を重ねていた。エイコは、少し身をよじらせると、手を引っこめた。

いつものように、赤木と青沼と黄田の三人の中年男は、半分酔ってふらふらと歩きながら、
「そろそろ新しいところを開拓するか。」
などと相談していた。

赤木が
「そうそう。この店なんかどうだ。」
と引っ張り出したチラシの店は、値段も手頃だし、後の二人も、いいんじゃないか、ということになった。

薄暗いボックス席に座ると、女の子がおしぼりを持って来た。まだ、十代のようにも見える。人形のようにスラリと伸びた足に、思わず三人共目をやってしまう。

女の子が去ると、三人は身を乗り出して、彼女の品評を始めた。

「顔がなんていうかな。清純だよな。髪だって染めてないし。」
「わからんぞ。ああいう子に限って、遊んでたりするんだ。」
「ちょっと痩せ過ぎだなあ。」
「いや。後から見たら、なかなかいい尻をしていたぞ。」

そんな話をしているうちにフロアマネージャーが来たので、赤木が、
「さっきの女の子、呼んでもらえる?」
と言った。

「さっきの、といいますと。ああ。エイコちゃんですね。少々お待ちください。」
と、マネージャーは、女の子を呼びに行く。

「お待たせしました。」
エイコと呼ばれた女の子は、硬い表情で三人の間に座る。

「きみも何か飲む?」
「私、お酒は・・・。」
「でも、こういうとこってさ、自分から飲まないと怒られるんじゃない?」
「ここはあまり無理は言わないんです。」
「そうか。じゃ、ジュースでも頼むといい。」

エイコは、ジュースとフルーツを頼むと、取り立てて愛想をするわけでもなく、そこの座り、時折、空いたグラスの水割りを作ったりする以外は、ぼんやりとしていた。明らかに、こういった仕事に真剣に取り組む気はなさそうだった。だが、三人の中年にはそこがまた好もしく、しきりに彼女の機嫌を取るように交互に話しかけてみたりもするのだった。

三人は最後には相当酔ってしまって
「また来るよ。」
と、エイコに言うと、よろめきながら出て行った。

エイコは表情を崩さず見送り、テーブルを片付けるために戻った。

マネージャーがこちらを見ている。文句を言いたいようだ。だけど、どっちみち、文句は言わない。私なりのやり方を貫いていれば、いずれにしても、私みたいなのを好む男がちゃんと付いてくれるから。

事実、エイコは、店でも人気の女の子だった。

--

三人の男は、しょっちゅう一緒に飲み歩いていた。赤木は一度も結婚した事がなく、青沼と黄田は離婚していた。そんな独り者の気楽さが、いつも三人をつるませている。

「こないだの子、良かったなあ。」
「こないだって?」
「ほら。エイコとかいう。」
「ああ。あの子か。少しお上品ぶってて嫌だな。客に気を遣わせる。」
「そこがいいんだよ。」
「そうか?」
「ああ。俺だったら、自分の娘があんな風だったら、もう外には絶対出したりしないよ。逆に、男に媚びまくるような女にだけはなって欲しくないね。」
「それもそうだな。だが、俺達は客だから、もう少しは気を配って欲しいなあ。」

そんなことを言いつつ、三人はなぜかエイコのいる店に足を向けてしまう。エイコが忙しいと言うと、「じゃあ、空くまで待つよ。」ということになり、最後には結構な金額をその店に落とすことになってしまうのだ。

「いつもありがとうございます。」
エイコは、だんだんと気を許し始め、そんな可愛らしい事も言うようになった。

「俺達、エイコちゃんのファンクラブ作ってんだもんなあ。」
青沼が言い、三人で笑う。

--

エイコは三人の男と、それぞれに外でデートするようになっていた。男達はお互いにそれを知りつつ、暗黙のルールで知らんふりをしていた。

今日は、赤木は、エイコにせがまれて高級な和食の店に行き、頼んで奥の座敷に二人にしてもらった。仕事で疲れていた体も、エイコの若さを前にすると急に元気が湧いてくる。何より、赤木はエイコの顔が好きだった。いつまで経っても男に慣れないような、どこか男に怒りを感じているような、その顔が大好きだった。それは単純な欲望とは違う。赤木は、エイコの肉体をどうにかしたい、などという気持ちはまるでなかった。ただ、その硬い表情を見ていると、何か思春期の頃の、もう二度と戻れないような感情。思い出すと、どうしようもない喪失感に包まれて泣きたくなるような。そんな時代を思い出して、おかしくなりそうだった。

赤木は、酒に酔った勢いで、いつのまにかエイコの手に自分の手を重ねていた。

エイコは、少し身をよじらせると、手を引っこめた。

「青沼や黄田とも、こんなことしてるのか?」
いつしか、問い詰めるような口調になっていた。

「ええ。してるわ。おいしいものをいただいて、おしゃべりするだけですけど。」

なあ、俺の女に。喉まで出かかるその声を飲み込む。

何が歯止めになっているのか。抜け駆けはしないという、友情から来る気持ちか。自分の物になれ、などと、エイコが一番嫌がる言葉だとわかっているからか。

「そろそろ行きましょう。」
絶妙のタイミングで、エイコはあっさりとそんな風に言う。

「ああ。行こうか。」
赤木は、ちょっと飲み過ぎたと思いつつ、立ち上がる。

だが、こんな女の子を前にして、飲み過ぎないほうが無理だった。

--

青沼の家は、もうローンも終わったとかいう一戸建てで、少々大声で騒いでも平気な場所にあるので、三人は今日は青沼の家で飲んでいた。

「なあ。あの子のことだが。」
突然、黄田が口を開いた。

「なんだ。エイコちゃんのことか。」
と、青沼が言った。

「俺、正直言って、あの子が気になってる。娘みたいな歳だって、笑われるだろうが。何度かデートもした。」
黄田が、ぽつりぽつりと話し始める。

「ちょっと待ってくれよ。俺も、あの子は気になってんだぜ。」
赤木が、慌てて言う。
「だけどさあ。抜け駆けはまずいと思ってたから、悪さはしてないさ。」

青沼が、口を開く。
「俺もだ。」

黄田は
「そうか。」
と、溜め息のようにつぶやいて、それから、言った。
「三人のものに、しよう。」

「三人のものったって、どうするんだよ。」
「分ければいい。」
「お前、狂ってるのか?」
「ああ。狂ってる。もうとっくの昔に狂ってる。エイコを見た時から。」

赤木は、あのエイコの目を思い出す。俺だって、狂う。その瞬間、社会とか友情とか常識とかを吹っ飛ばされそうな、あの目に。

--

三人は、エイコを青沼の家に誘い出した。

「なあに?三人で。」
「いやね。エイコちゃんのお誕生日が近いって聞いたから。」
「あら。良く知ってるわね。」

エイコは、どこか不審そうな目を三人に向けながら、それでも帰ろうともせず、三人に勧められるままに、少しずつアルコールを口にする。

「随分飲めるようになったんだね。」
黄田が、言う。

「ええ。さすがに飲まないでいるわけにもいかないから。」
エイコは、これから何かが起こることを感じているのだろう。いつもよりずっと早いピッチで酒をあおる。

時間だ。赤木が黄田と青沼にうなずいてみせる。

二人もうなずき返す。

そうして、もう、随分とぐったりしてしまったエイコの透き通るような肌に、注射針を刺し込む。手荒な事はしたくない。

数時間。三人は、そこで身動きもせずにエイコを見つめていた。

エイコは、すっかり硬くなって、まるで本当の人形みたいに転がっていた。

--

黄田は、腰から下をもらった。

尻を上に向けると、そのこんもりと盛り上がった曲線が美しく、黄田は何度も何度もさすって楽しむ。

やっぱり女は尻だよなあ。と、下種な笑みを浮かべる。

エイコが生きている時は指一本触らせてもらえなかったもんな。

--

青沼は、首から下の上半身をもらった。

乳房はそう大きくはなかったが、触ると張りがあって若さを象徴していた。出ていった女房の柔らかくダラリと垂れ下がった乳房とは対照的だ。

その乳房を指先ではじいたり、弾力を楽しんだりしたあとで、青沼は、エイコの上半身の横に体を横たえて、その手をそっと握る。

なんだかな。若い頃を思い出すんだよ。こんな風に手を繋いで歩いたりしたかったな。

--

赤木は、エイコの首から上を。

指一本触れずに、さきほどから眺めている。

エイコの口がゆっくりと開き、いつもの気だるく冷ややかな口調で話し始める。
「ねえ。あなた、私の顔を見てるだけでいいの?」
「ああ。見てるだけでいいんだ。」
「そう。良かった。」
「悪かったな。こんなことになって。」
「いいのよ。私、あなた達のこと、嫌いじゃなかったもの。」
「三人で出した結論なんだ。」
「仲がいいのね。」
「ああ。」
「うらやましいわ。」
「こうでもしなきゃ、お前は俺達のものにならなかったもんな。」
「今頃さあ。あの人達、私の体を好きにしてるかしら。」
「かもな。」
「良かったわ。切り離されてるおかげで、それを感じなくて。私の体に男が触るなんて、考えただけでもぞっとするもの。」
「俺は、見てるだけでいい。なんだろうな。郷愁っていうにはもっと強い感情で揺さぶられるんだよ。」
「わからないけど。このままそっとしててくれたら、助かるわ。」
「変だけど。こうなってからのお前のほうがずっと幸福そうだ。」
「そうね。なんでかしらね。体から解放されるって、すごく素敵だなって。」
「なら、良かった。」

赤木はずいぶんとためらって。それから、エイコの形のいい唇に、指でそっと触れる。

エイコは、柔らかく微笑む。

赤木は、エイコが笑うところを初めて見た、と思った。


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