セクサロイドは眠らない

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2002年08月29日(木) 確かに、自分は地味で、決してもてるほうではない。だから、高望みする気は毛頭ない。だが、なんでこんな男なの?3回目

前回までのお話 → 第1回 第2回

「もう一回、殺したらいい。簡単だよ。ひっこ抜けばいい。俺はあんたから養分をもらって生きてる。あんた次第なんだよ。」

ミチコは、ヤマシタの顔を見つめた。

「そんなに見るなって。」
ヤマシタは笑った。

「それもそうね。抜いちゃえばいいんだ。なんで思い付かなかったんだろう。」
「ああ。そうしろよ。お前に殺されるんだったら、いいさ。」

ミチコは少し驚いて、訊ねる。
「なんで?」
「なんでって。さっきも言っただろう?惚れてるからさ。」
「分からないわ。」
「俺、あん時もさ。お前に殺されるの、何だか嬉しかったんだぜ。」
「変よ。」
「変か。そうか。自分でも分からないんだけどさ。好きな女から殺されるのって、最高だなってあん時思ったんだよ。」
「そこまで好きだったら、私の気持ちを察して欲しかった。そうしたら、私だってあなたを殺さずに済んだのに。」
「余計な事だったんだろうけどさ。あんたを引っ張り出してやりたかった。殻に閉じこもって、本当の気持ちを出さないあんたをさ。」
「そうね。余計なことだったわ。」
「だけど、車を運転してる時のあんたはかっこ良かったぜ。いきいきしてて楽しそうだった。いつもの何倍も美人に見えたよ。」
「そりゃ、どうも。」

ミチコは、ビールをヤマシタの顔に差し出す。
「飲む?」
「いや。いらない。あんたに寄生してから、物を食べたいとは思わなくなった。」
「そう。」

ミチコは、残りを飲み干してしまうと、
「寝るわ。」
と、言った。

「俺を抜かないのか?」
「ええ。明日にする。今日は疲れたもの。」
「じゃ、寝顔見てていいか?」
「お好きに。」

ミチコは、コトリと眠りに落ちた。

その夜は、夢を見なかった。

--

そうやって、ミチコは腕から生えたヤマシタと、幾日か過ごした。こんな体では仕事に行くこともできなかったし。だんだんと仕事もどうだってよくなっていた。

ミチコは、どこにも出掛けずに、気が向けばヤマシタとしゃべっていた。こんなにも誰かとしゃべったのは初めてだった。笑うことすら、した。

「そのほうがいい。」
「え?」
「笑顔のほうがずっといい。可愛いよ。」
「やだ。変なこと言わないで。」
「正直に言っただけだ。」
「変ね。あなたのこと、あんなに嫌いだったのに。」
「今は?今も嫌いか?」
「分からないわ。あの時は怖かった。私の人生にどんどん踏み込んでくるあなたが。今は、よく分からない。もう怖くはないわ。なぜかしら。あなたを生かすも殺すも、私次第だからかしら。」
「そうか。」

ヤマシタは笑った。この声は弱々しかった。

いやだ。いつものように笑ってよ。そう言おうとして。

気付けば、ミチコも随分と衰弱していた。ここ数日、ろくに物を食べないでいる一方、ヤマシタから確実に養分を吸われ続けていたのだ。

「なあ。このままじゃ、共倒れだよ。」
「うん。」
「だから、早く俺を抜けって。このままじゃお前、死んじゃうよ。」
「そうするしかないのかしら?」
「ああ。お前まで死んじゃったらダメじゃないか。」
「あなたを・・・。もう一度・・・。」
「そうだ。俺はもう、自分でも自分の体をどうしようもできないから、お前が決めるしかないんだよ。」
「私が、決めるの?」
「そう。あの時みたいに、一気に俺を殺してくれよ。お前に殺されるなら、本望だよ。恨んだりはしないさ。」
「いやよ。」

ミチコの目から涙が転がり落ちた。

「どうしたんだよ?」
「分からない。」
「俺のこと、嫌いだったんだろ?」
「前は。」
「今は?」
「分からない。」
「ま、そんなこと、どっちでもいい。とにかく、俺なんか引っこ抜いてしまえよ。そうすれば、お前は助かる。」
「無理よ。今更、あなたを殺すなんて。」

ぞっとしたのだ。ヤマシタがいなくなること。たった一人になってしまうこと。

馬鹿ね。今までだって一人だったじゃない。

そう言い聞かせても。どうしても。

「ねえ。笑わないで聞いてね。私、あなたのこと、好きみたいよ。」
ミチコは照れ臭くて、ヤマシタの顔も見ずにつぶやくように言った。

「だから、私、あなたと一緒にいるわ。」
「馬鹿だな。大馬鹿だよ。」
「いいの。」

ミチコは、ヤマシタの頬に口づけた。

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もう、だいぶ朦朧として来た。ヤマシタの茎も、もう、その顔を支える力もなくダラリと垂れ下がっている。

ミチコは、横になると、その傍らにそっとヤマシタの顔を横たえた。

「死ぬの、怖いか?」
「思ったほど怖くはないわ。一人じゃないから。」
「俺もだ。」

二人はもう、言葉を交わさなくてもお互いの気持ちを分かり合うことができるようになっていた。

根は、深く張って、深く深く張って。いずれにしても、引き抜くことなどできないほどだったから。

ミチコは、安堵に包まれて、静かに目を閉じた。

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