セクサロイドは眠らない

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2002年06月16日(日) まだ、私は、素直になることをためらう。私の服を脱がせようとする彼の手の動きに本気で恥かしがって。

「ねえ。もうちょっと慣れてくれてもいいんじゃない?」
彼が、あきれたように言う。

「うん・・・。」
分かってるのに、反射的に体がこわばってしまう。

何がいけないんだろう。どうして?

付き合って二年になるというのに、まだ、私は、素直になることをためらう。私の服を脱がせようとする彼の手の動きに本気で恥かしがって。

「ねえ。お願い。電気を消してよ。」
と懇願する私の形相が、あんまり必死だったからだろう。

彼は、少しやる気をなくしたように、手を止める。
「こういうの、嫌なの?俺に抱かれるのが、そんなに嫌か?」

私は、黙って首を振る。

だって。恥かしいのだもの。なんでかな。服を脱ぐ時が一番恥かしい。脱いでしまえば、まだ平気なのだけど。服を脱ぐという行為が、なぜかどうしようもなく恥かしくて。

「なんか、無理矢理やるのって、俺、あんま、好きじゃないんだよね。」
「ごめん・・・。」
「いいって。分かってるって。お前の性格は。服、着ろよ。今日はやめとこ。」
「怒ってる?」
「怒ってないって。ちょっと飲みに行かね?俺、今日、金あるし。」
「うん・・・。」
「気にすんなって。」

彼は、笑って。私の頭をポンポンと撫でてくれる。

本当は、抱かれたいの。あなたが望むいろんなこと、もっと自然にできる女の子になりたいの。それに、いい加減にしないと、他の女の子にあなたを取られちゃうかもしれない。バンドやってて、結構モテるもんね。「ああいう大人しそうな子が好きだなんて、ガッカリよねー。男って、やっぱ、そうなのかなー。」って。以前、誰かがそう言ってるのが聞こえた。あの時、ちょっと泣いたっけ。図星だから、泣いたんだ。

--

「奢りだからさ。いっぱい食べろよ。」
「うん。」
「何飲む?えと。俺は生。」
「私は、ウーロン茶。」
「つまんないな。いつもウーロン茶でさあ。本当に飲めないの?」
「うん。なんか、前飲んだ時、心臓がドキドキしたから。」
「そっか。」

彼は、運ばれたビールを一息に飲む。

「おいしい?」
「ああ。」
「一口、もらっていい?」
「ああ。飲めよ。」

私は、顔をしかめながら、ビールを飲む。

「どう?」
「にがい・・・。」
「それが、美味しく思えるようになってくんだよ。」
「そうかなあ。」

私は、少し焦ってるのだ。踏み出すのを怖がってばかりじゃ、何か大事なものを失いそうな気がして。私は、息を止めて、ビールを更に飲む。

「お。いいじゃん。」
彼は、笑って、もう一杯生ビールをオーダーしている。

彼のやさしさに甘えるのも、もう、いい加減にしなくちゃね。

だんだんと、周囲の喧騒が遠ざかる。彼が注文してくれたモスコミュールは、ひんやりと美味しかった。なんだか、私、よくしゃべってる。私の声が随分と遠くからしてる。彼も楽しそうだ。こんなに楽しそうな彼、見たの初めてだな。

私は、随分と飲み過ぎてしまった。

--

明け方、私は、彼の部屋で目が覚める。

肌寒いと思ったら、裸のまま、彼の横で眠っていたのだ。

慌てて、毛布を探す。

「ん?起きた?」
「うん。なんか寒くて。」
「こっち、来いよ。」

彼が私の手を引っ張って、抱き寄せて来る。

「平気か?」
「え?」
「お前、昨日、すごい飲んだろ。頭とか、痛くね?」
「大丈夫みたい。」
「意外と、酒強いんだな。」

彼は、笑って私の下半身に手を伸ばしてくるから。

びっくりして、私は身を固くする。

「駄目か?」
「だって。」
「夕べはあんなにすごかったのになあ。」
「すごかったって?何が?」
「覚えてないの?」
「うん。」
「お前、すごかったよ。俺、ちょっとあの後動けなかったもん。」

私は、カッと頭に血が昇って。

「ごめんね。あたし、帰る。」
「ああ。」

なんだか、それ以上聞きたくなかった。酒の席での醜態は、大体において恥かしいものだが、私が彼のベッドでどんなに振舞ったかなんて、聞いたら舌噛んで死にたくなるだろう。

「また、電話してくれよな。」
彼が、背後で言う。

その声は、妙に期待して来る声で。

一体、夜の間に何があったのだろう?

私は、記憶が全くない事に怯えながら、彼の部屋を出る。

--

結局、授業の間も、バイトの間も、昨夜のことを考えたが、何も思い出せない。だが、明らかに私はいつもと違う振る舞いをして、彼を驚かせたようだ。

次のデートの時、彼は最初から私にカクテルを注文して。

私は、断ることもできずに、それを飲む。

そうして、記憶をなくす。

気が付くと、彼の肌に残された爪の痕。いつもは硬派な彼が、妙に屈服したような表情で私を見る。

--

「ねえ。そんなにすごいの?酔った時の私。」
ある日、私は、とうとう我慢できずに、訊ねる。

「ああ・・・。」
彼は、溜め息のように答える。

その時、私を襲った何とも言えない感情は。そうだ。嫉妬だ。

「おい。何で泣いてんだよ。」
「わからない。」

私は、その日は酔ってもないのに、自分から服を脱ぐ。

「どうしたんだよ?」
「嫌なの。」
「何が?」

彼は、驚いた顔をしながらも、私が投げ出した体を受け止めてくれる。

「どんな風にしたの?私は。」
「どんなって。」
「ねえ。こんなこともした?」

私は、彼の下半身に唇を寄せる。

「おい。落ち着けよ。」
彼は、口ではそう言いながらも、私の行為に身を任せる。

「嫌なの。私の知らない誰かと寝るのは。」
「誰かじゃないだろ。お前だよ。お前だけだよ。」

私は、自分自身への嫉妬に狂って、泣きながら。だが、次第にそれは、忘れ去っていた体の記憶を呼び覚まし、最後には、私は、細い快楽の声を上げている。

--

「なんか、変だったね。あたし。」
「ううん。なんか、すっげえ嬉しいよ。素直になってくれたみたいで。」
「すごく恥かしい。」
「酒飲んだ時のお前もすごいけどさ。今日のお前も、最高だよ。」
「あたし、当分、お酒飲まない。」

恋のライバルは、私自身。ねえ。教えてよ。私の知らなかった私を。

「そうか。でも、無理しなくていいからな。恥かしがるお前も、いい感じだしな。」

私は、くすくす笑って彼の胸に額を寄せる。


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