セクサロイドは眠らない

MAIL  My追加 

All Rights Reserved

※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →   [エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう  俺はさ、男の子だから  愛人業 

DiaryINDEXpastwill


2002年06月13日(木) なんか、変だよなあ。俺って。男でもイケるのかな。うーん。ヤバいな。妻が出て行った早々、これだよ。

「じゃ、行くわね。冷蔵庫のマグロ、悪くならないうちに食べちゃってね。」
妻は、そう言って、買い物にでも行くような調子で出て行った。

後に残された私は、結婚って何だったのだろう、と思いつつ、畳の上に寝っ転がる。そうやって、しばらくはいろいろ考えようとするのだが、つい、眠たくなってウトウトとしてしまう。いかんいかん。俺のこういうところが妻には我慢ならなかったのだろう、と思いつつ、起き上がる。

妻が出て行く、と言った時、「男か?」なんて、間の抜けた問いを発したのは、我ながらおかしかった。それなりに動転していたのだろう。妻のような女を欲しがる男などいる筈もないのに、俺は何を考えているんだ、と苦笑する。ま、それは俺も似たようなもんだがな、とも思い直して、冷蔵庫を開け、ビールを取り出す。少し早い時間だが、ま、いいだろう。

--

「最近、奥さんの弁当、ないんスか?珍しいっすね。」
と、職場の後輩のヨシキが声を掛けて来る。

「おう。飯、一緒に行くか。奢ってやるよ。」
「やたっ。行きます、行きます。」
ヨシキとは、最近しゃべるようになった。気持ちのいいやつだ。

最初は、あまり好きじゃなかったのだ。理由は簡単で、ヨシキは、いい男過ぎだったから。男というのは、反射的に、相手の外見が男前だと、中身は馬鹿だと判断して嫌う習性がある。俺もそうだった。

だが、しゃべってみると、案外といいやつだった。いや、そこいらの男より気が合うかもしれない。自分の顔が、そこらじゅうの女を振り向かせるほどの美貌に恵まれているというのに、女にてんで興味がない様子で、俺になついてくる。美しい男に、子犬のようにまとわりつかれると、俺も悪い気はしない。むしろ、可愛くなって来る。

「どこ行く?」
「あ。うどん、行きますか。新しい店できたんですよ。」
「そうするか。」

俺とヨシキは、連れ立って歩く。

「奥さん、病気かなんかですか?」
「いや。出てった。」
「え?」
「だから、出てったって。」
「うそ。マジすか?」
「ああ。なんだ。お前知らなかったのか。もう、みんな知ってると思ってたがな。」
「このまえまで愛妻弁当持って来てたじゃないですか。」
「そうなんだがなあ。」
「なんで?」
「さあ。良く分からんのだよ。ま、俺が愛想尽かされたってことなんだけどな。」
「・・・。」

ふと見ると、ヨシキの目が赤い。

「ん?どしたの?」
泣いてんのか。おい。

「いや。なんか。俺、先輩のこと好きで。先輩みたいな男になりたいって思ってんのに。そんなのありかなあって。」
「お前、馬鹿かよ。泣くなよ。」
「だってー・・・。」
「今晩、暇か?」
「暇です。」
「じゃ、飲みに行こう。付き合え。」
「はい。」

ヨシキは、それでも心配そうに俺の顔をチラチラ見る。ったく、女じゃないんだから、そんな顔して俺のこと気にするなよ。なんか、妙な気分になるじゃないか。

--

「飲め。ほら。もっと。」
俺は、ヨシキが赤い顔をして、もう飲めませんよ、と困ったように言うので、余計にいじめたくなるようだ。

「先輩、勘弁してくださいよぉ。」
「分かった分かった。」
俺も、可愛い後輩に酒を無理強いするなんて、相当酔ってるなあ。

「お前、彼女とかいないの?」
「え?」
「いや。モテるだろ。お前ぐらい格好いいとさ。」
「そんな。モテませんて。」
「いーや。そんな筈はない。」

俺は、もう、ヨシキのすべすべの肌にうっとりと見惚れて。

「いなくはないんですけど。」
「ほほう。」
俺はなぜか少々がっかりする。おい。女なんて、好きになるなよ。男同士のほうがずーっと気持ちいいよ。女なんてのはなあ。要求ばっかり多くて、そのくせ、いざとなったら、平気で自分が得するほうに乗り換えるもんなんだ。

「こんど会わせろよ。」
「そんな。見せるほどのものじゃないです。それに最近、付き合い始めたばっかで。」
「なんだよお。いいじゃねえか。」
俺、相当からんでるよなあ。

「あの、僕、明日、野球の朝練なんで。」
「何?チーム入ってんの?」
「ええ。今度の日曜、長田商店と試合なんですよ。先輩、応援に来てくれます?」
「おう。行くよ、行くよ。」
「じゃ。帰ります。先輩は?」
「もうちょっと飲んでく。」

ああ。逃げられた。

なんか、変だよなあ。俺って。男でもイケるのかな。うーん。ヤバいな。妻が出て行った早々、これだよ。

--

日曜の朝。

よく晴れた。

俺は、なぜか、いそいそとヨシキを応援するために準備する。

いや。俺は、ヨシキじゃなくて、うちの会社を応援するために行くのだ。

なんて、自分に言い聞かせたりして。

「あれ。めずらしいねえ。どしたの?」
なんて、グランドに着くなり、同僚に言われる。

「ああ。ヨシキにね。誘われちゃってさ。」
「そうか。ま、いいけど。」
「いいけど、ってなんだよ。そりゃ。お。あれ、チアリーダー?」
「ああ・・・。メンバーの彼女とか奥さんとかが集まって、こないだから何かやってたみたいだけどね。あのツラで、あの衣装はないだろう、とか、俺なんか思うけど。」

チアリーダーの中に、一人やけに色っぽい女がいる。どう見ても、他の連中の連れよりは突出して年齢も高そうだが、太腿がむっちりとして、俺好みだ。彼女は、体をならしているヨシキに駆け寄って、何かささやいている。二人で笑い合って、仲良さそうだな・・・。

そうか。あれがヨシキの。道理で、紹介したがらないわけだ。だけど、あれなら、俺だって行くよな。他の女にはない色気がある。

「なあ。ナカさん、あの女さあ。色っぽいよなあ。さすがのヨシキも、年上の魅力には勝てなかったってわけか。」

その途端、同僚は、青ざめた顔をして、俺に言う。

「あのさあ。言いにくいんだけどさ。あれ、お前の別れた奥さんだよ。」
「え・・・。」

俺は絶句する。

良く見れば確かに。だが、あんな顔で笑うやつだったか?

俺は、目を何度もしばたかせて、ヨシキと別れた女房を見つめる。

道理で、俺がここに来ると同僚が困った顔してたわけだ。

「ナカさん、俺帰るわ。」
「ああ。」

俺はフラフラと、その場を去る。

帰りに、チラッと、ヨシキに挨拶もしなかったな、とか考えたが、ま、そんなこともどうだっていいのだ。


DiaryINDEXpastwill
ドール3号  表紙  memo  MAIL  My追加
エンピツ