セクサロイドは眠らない
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2002年02月06日(水) |
ショートカットで華奢な体つきに似合わず、彼女は服の下に柔らかく弾む乳房と情熱的な心を隠し持っている。 |
ショートカットで華奢な体つきに似合わず、彼女は服の下に柔らかく弾む乳房と情熱的な心を隠し持っている。
彼女を抱くと、分かる。彼女は、そうやって行きずりのセックスでもしていなければ、自分の情熱に飲みこまれ溺れてしまうのだろう。
思いがけず激しくて切ない喘ぎ声に、僕は驚いた。
「私を抱いてくれる?」 と、震える睫毛で訊ねて来た時には、それに気付いていなかった。
「いいよ。」 と、僕は、他の女の子達を抱くように無造作に彼女を抱いた。
「ありがとう。」 と、彼女は僕の目を見ずに、答えた。
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「何で、僕と寝たいの?」 「勘違いしないでね。誰でもいいの。私を愛さない人なら。」 「愛は嫌い?」 「大好きよ。大好き。」 「じゃ、なんで?」 「好きな人がいるの。でも、彼と一緒にいられない間、私は私の心を誤魔化すために、誰かと寝るの。」 「で、僕?」 「かまわない?」 「かまわないよ。愛がないのも、それなりに得意だ。」
そんな会話で始まったから、もっと冷たいセックスが待ち受けているのかと思った。彼女の、染められていない漆黒の髪のように拒絶してたたずむセックスが。
だが、予想を裏切るその情熱に、僕は驚く。
「すごいんだな。」 「やめてよ、その言い方。」 「誉めてるんだ。」 「しょうがないのよ。こうでもしてないと、私、彼のストーカーになっちゃいそうなの。」
彼女の目は相変わらず僕を見ないまま、彼女の舌が僕を捉える。僕が思わず声を上げたところで、彼女は聞いてやしないだろう。そう思うと、なぜか急に気が楽になり、僕は彼女の愛撫に身を任せる。他の女の子達を抱く時よりも、ずっとリラックスできる。彼女は、他の愛を想い描きつつ、彼女の海に僕を飲み込む。
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僕は、彼女が恋人と会えない週末は、いつも彼女の部屋へ行くようになった。
「あの人、奥さんがいるのよ。」 「ふうん。」 「最近、妊娠したんですって。あの人、嘘吐きなの。」 「それでもきみは彼を好きなの?」 「ええ。」 ため息のように、答える。
「狭い一本橋で、向こうから彼の奥さんが来てて、こっちから私が歩いて行ってるの。避けたほうが落ちるのよ。避けなければ、彼の愛が手に入るの。」 「そんな嘘吐きの男なんか、放っておけばいいのに。」 「本当にね。どうして放っておけないのかしら。つまらない男なのに。」
彼女の部屋の窓に、雨の水滴がつき始める。彼女が流せない涙を、空が代わって流しているように。
「私ね。」 彼女は、規則正しい雨音で眠たくなった僕の耳に、ささやくように言う。
「勇気がないの。」 「勇気?」 「ええ。自分の気持ちを自分だけで抱き締めておく勇気。」 「僕だって、勇気なんかないさ。」 「ごめんね。」
謝らなくていいよ。
僕は、眠りに落ちた。
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目を覚ますと雨はあがっていて彼女は眠っていた。肩に毛布を掛けると、僕は部屋を出た。
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僕は、男をホテルのロビーに呼び出して、話をしている。
「で。僕はどうすればよかったのかな。」 男は、大人のしぐさで、煙草を吸う。
「もう少し、余計に彼女の愛を知ってやるべきだったと思いますよ。」 「彼女の愛?」 「気付きませんでした?」 「ああ。気付かなかったな。そんなこと、言わなかったから。」 「僕には随分と言ってましたよ。」 「だが、もう遅いだろう。彼女は、いなくなってしまった。手紙も残さずに薬を飲んで。」 「奥さんが妊娠したことに絶望したんじゃないんでしょうか。」 「妻が?」 「ええ。あなたのこと、嘘吐きだって言ってました。」 「妻は、妊娠などしてないよ。」 「え?」 男は、静かに煙草の煙を吐き出す。
「そもそも彼女は、僕のことなんか愛してなかったんだよ。」 「嘘です。彼女はあなたを・・・。」 「誰でもいいんだって言ってた。誰か好きな男がいて、その男への気持ちが処理しきれないから、他の男とも寝るんだって。」
どういうことだろう?彼女の愛していた男は、誰?週末毎に彼女と僕は寝ていた。他に男がいるとも思えない。
僕は、無意識に立ち上がり、フラフラとホテルの入り口に向かって歩く。
男の声が背後からする。 「彼女の恋は、我々がどうにもできるものじゃなかった。放っておくしかなかったんだろう。」
僕は、立ち止まる。 「でも、彼女は出口を求めて、苦しんでいた。」 「それより、きみ自身の恋をどうにかするほうが先だったと思うがね。」
僕は、振り返るわけにはいかなかった。多分、目が赤くなっているから。
誰かの恋より不可解なのは、僕自身の恋。
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