セクサロイドは眠らない
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2001年12月28日(金) |
「愛とか、よくわからない。誰かに誉めてもらいたくてセックスするのなんて随分と技巧的な気がするの。」 |
決めた理由?そうね。電話の声の感じが良かったから。
それだけ?
ええ。それだけ。
誰かに聞かれたらそう答えようと小さな言い訳をしながら、私は、男との待ち合わせの場所に向かう。
外見が気に入らなかったら?
どうしようかしら。あの男の声、魅惑的だったわ。寝ないにしても、話くらいしたい。あの雰囲気からして、無理は言わないわ。
どうかしら?
ええ。分かってる。簡単に信じるな、でしょう?でも、あの声・・・。
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電話で待ち合わせたとおり、男は、ファミリーレストランの駐車場で赤い野球キャップをかぶり煙草をふかしていた。私を見ると、にっこりと笑った。
「電話の人?」 「ええ。」 「じゃ、行こう。」
話は早い。簡単に言えば、やりたい男女が出会える場所に電話をかけたというわけ。
男は、声の通り、感じが良かった。清潔な服装。清潔な車内。
「こういうの初めて?」 「いや。二回目かな。」 「で?うまくいくもの?」 「前はうまくいったけどね。」 「電話だけでどうやって決めたの?」 「あんたはどうやって決めた?」 「声。」 「じゃ、俺もだ。」
あらかじめ決めてあったのだろうか。車は、迷うことなくホテルの駐車場に入った。
「俺でいいのか?」 その時、初めて男も不安がっていることに気付く。そっけなさは、不安の裏返し。 「いいよ。最初から決めてたもの。」
男は、車から降りる前に、私を引き寄せて、少し荒っぽい口づけをする。
「行こう。」 「ん。」
--
私は、どれくらいの時間、そうやっていただろう。その行為に集中していて、時間の感覚も分からなくなっていた。口と舌で。長い時間。男が、髪の中に手を入れてかき回すのを感じた。もういいよ、と、私を引き寄せようとするのに抗って、私は男のものをいつまでも口で転がす。
頭の中が真っ白になった頃に、口の中ににがいものが広がる。
男が頭上で、長い息を吐いている。
「最初は一緒にイこうと思ったのに、ひどいな。」 男は笑って、私の頭の下に腕を回してくれる。
「ねえ。どうだった?」 「良かったさ。ものすごくな。」 「どんな風に?」 「そうだなあ。お前の口の中は、青空だ。俺のものは、さしずめ、その中をどこまでも飛ぶ飛行機みたいな感じだった。」 「詩人なのね。」 「そうかな。」
それから、男は、煙草を一本取り出す。
「待ってろよ。今度は、お前を飛行機に乗せてやるから。」 「あなたって、変。」 私は、なんだかおかしくて笑ってしまう。
彼は、私に口づけてくれる。 「なんか、感動したよ。」 「なにが?」 「なんで、この女はこんなに一生懸命なんだろうなって。」 「なんでと思う?」 「さあ。」 「あのね。誉めて欲しかったの。いい子だって。」 「そうか。お前、可愛いやつだな。」
男は、だからと言って、わざとらしく私を抱き締めたりせず、目をつぶったまま、楽しそうにしている。
「恋人、いるんだろう?」 「いないわ。あなたこそ、奥さんいるんでしょう?」 「ああ。」 「なんで浮気するの?」 「一人じゃ足らなくなるんだよ。」 男は、一口煙草を吸って、また灰皿に置く。
「あんたこそ、なんで知らない男と?」 「なんでかな。もう、ずっとこんな感じ。好きとか、嫌いとか、愛とか、恋とか、そんなんじゃなくて、男の人と寝るの。そうやって、知らない人と寝ると、すごく気が楽になるの。そうやって、誰かにちょっとだけ幸せな顔してもらうとホッとして。そうやって、私は、また少し生きられるの。」 「分かるよ。」
私は、伸ばした爪で、彼の乳首を軽く引っ掻く。
「愛とか、よくわからない。誰かに誉めてもらいたくてセックスするのなんて随分と技巧的な気がするの。」 「結婚だって、そうさ。結婚の継続なんて、結局は技巧的なものだ。」
私は、男が気に入った。
明日のことなど、間違っても口にしようとしない男のことが。
「少しばかりの幸せがあれば人間は生きられるってことさ。」
私は、ちょっと泣きそうになる。その男の前で、なぜか私は自分が迷子の子供みたいに思えたから。
大丈夫だよ。あんたは壊れちゃいない。
男の声と腕枕で、眠りに就く。
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