セクサロイドは眠らない
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2001年12月21日(金) |
人には、みんな、天使が付いていて見守ってくれるって言うお話を聞いたことがあるのだけど。 |
仕事で疲れた体で、僕はパソコンのスイッチを入れる。
どんなに疲れていても、唯一の安らぎの時間。
今日も、大事なメールが届いている。彼女からのメール。
「おかえり。今日も忙しかった?」 って。
暖かい言葉。
ネットで、一度も会ったことのない人に恋をするなんて、ナンセンスだよね。人に告白したら笑い飛ばされるだろう。騙されてるんじゃないの?とか言われそう。だけど、僕は、彼女の無垢な心に癒される。病気で、一度も家の外に出たことがない、という彼女の、何気ない一言一言が、僕にとっては、天使の言葉に聞こえる。
「人には、みんな、天使が付いていて見守ってくれるって言うお話を聞いたことがあるのだけど、私には、天使はいないの。人が死ぬ時、その守護天使が頭に天使の輪っかを載せてくれるって言うけれど、私は、そんなことすら望めないの。私は、天使になって空に昇ることはかなわないの。」 彼女は、メールで嘆く。
きみこそが天使なのに、どうしてそんなに嘆くのだろう。長い病気が、幼い頃の記憶を失ったことが、きみをそんなに悲しくさせているのだろうか。
「ねえ。もうすぐクリスマスだ。きみさえ良ければ、僕は、きみにプレゼントを持って行くよ。」 と、僕は思いきってメールに書く。きみがどんな外見をしていても、いい。傷付いて、どうしようもなくなって、生きている理由さえうまく見つけられなくなっていた僕に、希望を与えてくれた、僕の守護天使。
--
モニターに向かいながら、僕は、出て行った妻のことを考える。それから、もう五歳にはなっただろう息子のことを考える。実際、どうしてあんなことになったのか分からないが、ある日、妻は息子を連れて出て行った。
あの当時、僕は仕事がうまく行かなくて、なんとか日々やり過ごすための薬を病院からもらって飲んでいた。それが、そんなにいけなかっただろうか。
考えても、考えても、よく分からない。
ある日、人は、天使から簡単に見放されてしまうものだ。
そんなことを思って、薬の量を増やした。
それから、ネットで彼女と知り合った。悲しい心を抱えた人々が、それぞれの天使を見つけるための、その集いの中で、彼女のテキストに心惹かれた。
今、僕がこうしていられるのは、彼女のお陰。
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「お願い。絶対に、来ないで。あなた、私の本当の姿を知ったら、絶対に嫌いになるから。」 彼女からのメール。
そう。
彼女は、必ず拒むだろうと知っていて、僕はそれでも彼女に会いたい。彼女に触れたい。ネット越しに存在する人だと分かっているだけでは足らない。彼女がどんなに醜くても、僕は、彼女の存在に触れるだけで、自分が生きている意味を、この上なくはっきりと知ることになるだろう。
甘えているのかもしれない。
ただ、困らせるだけなのかもしれない。
彼女の悲痛なメールに、それ以上無理が言えず、 「ごめんね。」 と、返事を書く。
「だけど、いつか会える日が来るといいなあ。」 と、書き添える。
彼女からの返事。 「私も、あなたに会える日を望んでいます。だけど、今は、駄目。」
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結局、僕は、彼女に甘えていたのだ。
仕事の不手際や、冬の孤独や。
そんなものが重なって、無償に彼女に会いたい。
僕は、彼女を責める。
分かっていて。愛していて。なのに、僕は僕を抑えられない。
逢いたいよ。逢いたいよ。逢いたいよ。
それから、「さよなら。」とメールを書いて、僕はありったけの薬を飲む。
一度天使に見放された男は、もう、二度と、誰からも手を差し伸べてもらえない。
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彼女は、モニターの「さよなら。」の文字を理解できずに、いつまでも見つめている。
未完成の上半身だけのロボット。
彼女を作っていた男は、途中で気が狂って、どこかに行ってしまった。
狂った男は天使を作ろうとして。
彼女は天使になりきれず。
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