セクサロイドは眠らない

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2001年11月27日(火) 僕がお仕えしている、あのかたを、人は、神とも、悪魔とも呼ぶ。

たぐいまれなる美貌を持った私は、ある恐怖におびえる事になる。老いの恐怖。ありとあらゆる美容液を使い、マッサージを施すが、それでもすぐ背後に忍び寄る影を、私はどうしようもなく恐れた。

だから、祈った。願った。誓った。

永遠の美をください、と。代償は払いますから、と。誰にも、この秘密は告げませんから、と。

願いを聞き入れてくれたのは、神だろうか。悪魔だろうか。願いがかなって、私は、永遠の美を手に入れた。

私は、その美貌を利用して、男達の間を渡り歩いた。

--

だが、私は、50歳になった頃、一つの事実に気付く。肌も髪もつややかで老いを寄せ付けないが、体の中はどんどん老いて行くことに。若い恋人は、疲れ易くなり夜遊びができない私に不満を持つようになった。私は、夜な夜な私を求めたりすることのない、年老いた恋人を持つ事にした。

それでも、私の心は安らかにならない。夜中に目を覚ますと、すぐそばに横たわる老いた肉体にぞっとする。鏡に映った自分の髪がどんどん抜け落ち、歯がぽろぽろと欠けて、肌がみるみるシワだらけになっていく夢に悲鳴を上げて目覚める。

私の陰気な顔を嫌って、年老いた金持ちの恋人は、私を追い出して若く美しい花嫁と結婚した。

「せめて、人生の最後は、陽気に過ごしたいじゃないか。」
と、老人は笑った。

--

私は、もう、目も薄くなり、気管がぜいぜいと音を立てる。見た目は相変わらず美しく、恋人達から与えられた金品に囲まれていたが、私はどこにも行き場所がなかった。

ふらふらとさ迷う私は、もう、力尽きて、一人のボロをまとった男のそばに倒れた。

「お若いのに、ずいぶんお疲れのようだ。」

私がその男を見上げると、男は、ものすごい年寄りで、シワの中に顔があると言ってもいいほどだった。

「私、若くないのよ。ちっとも。多分、あなたと同じくらい。」
「そうは見えないけれどねえ。」
「いいえ。中身はおばあさんなの。」

私は、座っている元気もなく、彼のそばに体を横たえる。

「なぜ、ここに?」
男は訊ねる。

「さあ。誰かのそばに来たかったのね。私、ずっと一人になったことがなかった。誰か私の美しさを称賛する人を、いつもそばに置いていたから。」
「じゃあ、ある男の話を聞かせよう。」
「どんな?」
「その少年は、産まれた時から、ひどく醜かった。どんな風に醜いかと言うと、赤ん坊の癖に老人の顔だったのだ。親も、兄弟も、同級生も、彼の風貌を嫌った。だから、彼は誰からも愛されなかった。そうして、彼も、誰をも愛さなかった。肉体は若く健康だったけれども、その老人のような風貌が恥ずかしくて、若い娘に声を掛けることもできなかった。」
「分かったわ。それ、あなたね。」
「どうかな。」
「私は、なんて愚かだったのかしら。」

涙が転がり落ちる。

「でも、いい思いもしたんだろう。」
「ええ。そうね。でも、結局孤独だったわ。」
「贅沢を言うもんじゃない。」

涙で、化粧がはげるように、私の艶やかな肌が剥がれ落ち、老いた皮膚が出てくる。私の老いが現われてくると同時に、目の前の男のシワが一本一本消えて行き、美しい若者の顔が現われる。

「ごめんなさい。」

随分と、眠たい。とても疲れていたのだわ。本当の姿に戻った私は、重い仮面を外したように気持ちが安らぐ。

意識の最後、私は、フワリと体を抱き上げられるのを感じた。

--

その若者は、羽を広げ、その老婆の体を抱いて、天に向かう。

人よ。汝、誓うことなかれ。

僕がお仕えしている、あのかたを、人は、神とも、悪魔とも呼ぶ。好きなように呼べばいい。ただ、彼は「帳尻合わせ」という言葉がひどく好きなおかた。多く欲しがれば、とことん代償を取り立てる。


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