セクサロイドは眠らない

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2001年11月17日(土) 僕は、きみの反応が欲しくて、眠たそうなきみを揺り動かし、押し入る。

「小さい頃ね。」
「うん。」
「私の、父親っていうのが、厳しい人でねえ。何の事でだったか忘れたけど、夜、寒い時、外に放り出されちゃったわけ。で、私はね、何とか家に入る方法ないかと思って、庭のほうに回ったら、暗闇で転んじゃってね。そしたら、転んだところにサボテンの鉢植えがあって、棘がね。足にびっしり刺さっちゃったのよ。」

僕は、こらえきれず笑い出す。

「いやだ。笑わないでよ。」
「サボテンの上に転んじゃう人の話って、実際聞いたの初めてだからさあ。」
「とにかく、私ってそういう子だったの。で、泣きながら玄関から何とか家に入れてもらって。すごく長い時間掛けて、父に棘を抜いてもらったんだけど。その間ずうっと怒られてた。」
「可哀想に。」
「本当にね。あの時の私は可哀想だったの。怖い思いして、痛い思いして、それで怒られるんだからさあ。」
「でも、きみのお父さんが怒ったのは、本当は、きみに対してじゃなくて、きみをそんな目に遭わせた自分に対してなんじゃないのかな。」
「まあ、ね。大人になればそういうことも分かるけど、子供の頃は、ただ怒られたことが悲しいじゃない?すごく傷付いたわ。」
「そりゃ、まあね。」
「そこから得た教訓。先が見えない場所でむやみに歩き回るな。」
「ある意味、正しい。」

でも、実際には、先が見えなくても歩き続けるしかないことのほうが多い。

--

今日も、電話をしても、きみは出ない。きみは携帯電話を持たない。

「どこに行っていたの?」と訊ねると、「散歩よ。」と肩をすくめる。

もう、随分と長いこと、僕はこんな風にきみを見つめている。きみは、いつも、僕の視線に気付かないふりをしていてくれる。それが、彼女の愛し方。

--

「ねえ。」
ベッドであんまり長いこと黙ったままの彼女に、僕は話し掛ける。

「ん?」
「今度の連休のこと、考えておいてくれた?」
「連休?」
彼女は顔をしかめて、思い出そうとする。

「カニ、食べに行くっていう話だっけ?」
「違うよ。」
「あら。じゃあ、私、すっかり忘れてたわ。」

また、別の誰かに言われたことと混同しているのかな。

僕の胸はチクチクする。

僕の買ってあげたピアスは、翌週一回着けて見せてくれたきり、もう、どこかに失くしちゃったんだろう?

僕は、上の空のきみに何度も口づける。彼女の喉から低い声が漏れる。僕は、きみの反応が欲しくて、眠たそうなきみを揺り動かし、押し入る。きみは驚いたように甘い声を上げる。その、鼻にかかった声は、無防備で、何もかも僕に委ねているように思えるのに。僕がきみに投げ掛けたものは、いつもちゃんと受け止められないまま。

きみは、捨てられた子犬を見つけて、飼う気もないのに「可愛い」などと抱き上げたりしないタイプだ。

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きみは、時折、寂しいと言って泣く。泣く時は、僕に背を向けて。僕がそばにいないから泣くんじゃなくて、誰もそばにいないから泣く。

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さしずめ、僕はサボテンに恋しているように。

そこに柔らかい肉があると思って触れようとすると、幾本もの棘が僕に刺さる。

その棘を抜かず、僕は、恋の痛みに身を任せる。

だけど、本当に孤独なのは、彼女。僕には、痛みがあるけれど、彼女には何もない。張り巡らされた棘のせいで、誰も本当には彼女を抱き締めてあげられない。


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