セクサロイドは眠らない
MAIL
My追加
All Rights Reserved
※ここに掲載されている文章は、全てフィクションです。
※長いこと休んでいてすみません。普通に元気にやっています。
※古いメールアドレス掲載してました。直しました。(2011.10.12)
※以下のところから、更新報告・新着情報が確認できます。 →
[エンピツ自由表現(成人向け)新着情報]
※My Selection(過去ログから幾つか選んでみました) → 金魚 トンネル 放火 風船 蝶 薔薇 砂男 流星群 クリスマス 銀のリボン 死んだ犬 バク ドラゴン テレフォンセックス 今、キスをしよう
俺はさ、男の子だから
愛人業
DiaryINDEX|past|will
2001年11月17日(土) |
僕は、きみの反応が欲しくて、眠たそうなきみを揺り動かし、押し入る。 |
「小さい頃ね。」 「うん。」 「私の、父親っていうのが、厳しい人でねえ。何の事でだったか忘れたけど、夜、寒い時、外に放り出されちゃったわけ。で、私はね、何とか家に入る方法ないかと思って、庭のほうに回ったら、暗闇で転んじゃってね。そしたら、転んだところにサボテンの鉢植えがあって、棘がね。足にびっしり刺さっちゃったのよ。」
僕は、こらえきれず笑い出す。
「いやだ。笑わないでよ。」 「サボテンの上に転んじゃう人の話って、実際聞いたの初めてだからさあ。」 「とにかく、私ってそういう子だったの。で、泣きながら玄関から何とか家に入れてもらって。すごく長い時間掛けて、父に棘を抜いてもらったんだけど。その間ずうっと怒られてた。」 「可哀想に。」 「本当にね。あの時の私は可哀想だったの。怖い思いして、痛い思いして、それで怒られるんだからさあ。」 「でも、きみのお父さんが怒ったのは、本当は、きみに対してじゃなくて、きみをそんな目に遭わせた自分に対してなんじゃないのかな。」 「まあ、ね。大人になればそういうことも分かるけど、子供の頃は、ただ怒られたことが悲しいじゃない?すごく傷付いたわ。」 「そりゃ、まあね。」 「そこから得た教訓。先が見えない場所でむやみに歩き回るな。」 「ある意味、正しい。」
でも、実際には、先が見えなくても歩き続けるしかないことのほうが多い。
--
今日も、電話をしても、きみは出ない。きみは携帯電話を持たない。
「どこに行っていたの?」と訊ねると、「散歩よ。」と肩をすくめる。
もう、随分と長いこと、僕はこんな風にきみを見つめている。きみは、いつも、僕の視線に気付かないふりをしていてくれる。それが、彼女の愛し方。
--
「ねえ。」 ベッドであんまり長いこと黙ったままの彼女に、僕は話し掛ける。
「ん?」 「今度の連休のこと、考えておいてくれた?」 「連休?」 彼女は顔をしかめて、思い出そうとする。
「カニ、食べに行くっていう話だっけ?」 「違うよ。」 「あら。じゃあ、私、すっかり忘れてたわ。」
また、別の誰かに言われたことと混同しているのかな。
僕の胸はチクチクする。
僕の買ってあげたピアスは、翌週一回着けて見せてくれたきり、もう、どこかに失くしちゃったんだろう?
僕は、上の空のきみに何度も口づける。彼女の喉から低い声が漏れる。僕は、きみの反応が欲しくて、眠たそうなきみを揺り動かし、押し入る。きみは驚いたように甘い声を上げる。その、鼻にかかった声は、無防備で、何もかも僕に委ねているように思えるのに。僕がきみに投げ掛けたものは、いつもちゃんと受け止められないまま。
きみは、捨てられた子犬を見つけて、飼う気もないのに「可愛い」などと抱き上げたりしないタイプだ。
--
きみは、時折、寂しいと言って泣く。泣く時は、僕に背を向けて。僕がそばにいないから泣くんじゃなくて、誰もそばにいないから泣く。
--
さしずめ、僕はサボテンに恋しているように。
そこに柔らかい肉があると思って触れようとすると、幾本もの棘が僕に刺さる。
その棘を抜かず、僕は、恋の痛みに身を任せる。
だけど、本当に孤独なのは、彼女。僕には、痛みがあるけれど、彼女には何もない。張り巡らされた棘のせいで、誰も本当には彼女を抱き締めてあげられない。
|