セクサロイドは眠らない

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2001年11月08日(木) 私は、手を伸ばして彼を抱き締めようとするが、彼は、後ずさる。「さわっちゃ駄目だよ。」

夏が終わった浜辺は誰もおらず、私一人が海を眺めている。

砂の少年がやって来て、隣にちょこんと腰をおろした。

「ねえ。」
砂の少年は、話し掛けてくる。

「なによ?」
「なにやってんのさ?」
「海、眺めてるの。」
「海、好きなの?」
「暇だから。」
「向こうとつながってるからでしょう?」
「さあね。そうかも。」
「寒くなったね。もうすぐ陽が落ちる。」
「ええ。うち、来る?」
「うん。」

海が見える場所にある家で、私は夏の間、観光客を泊めたり、アイスクリームをのせたクレープを売ったりして過ごす。夏が終われば、一人になって、暇を持て余した私は海を眺めて過ごす。

「夕飯、食べてく?」
「あ。僕、食事しないんだ。ほら。こんな体。」
「あら。そう。あんたってつまんないわね。」
「それにさ。僕、家に入っちゃっていいのかな。」

確かに。彼が歩いた後は、砂でざらざらしている。

私は、深い溜息をついて、
「いいわよ。後で掃除するから。」
と言う。

私は、一人分の夕飯を作り、砂の少年と向かい合って座って、食べる。

「ねえ。海の向こう。何があるの?何で、毎日眺めてるの?」
「帰って来るかと思ってね。」
「誰が?」
「あのくだらない男がよ。」
「それで待ってるんだ?」
「ええ。帰って来たら、怒ってやろうと思ってね。」
「どんな人なの?」
「だから、くだらない男よ。酒飲むし。酒飲んだら、泣くし。働かないし。うちのお金持ってでちゃうし。ちょっと出てくるって言ったきり、帰って来ないし。そんなだからね。帰ったら思いきり怒ってやろうと思って待ってるのよ。」

私は、食器を片付けると、彼が寝る部屋を用意する。

「僕、ここいていいのかな?」
「ええ。どうせ部屋は余ってるから。」
「汚しちゃうよ。」
「いいのよ。」

--

砂男でも何でもいい。

秋は何て寂しいんだろう。

風が少しずつ冷たくなり、もうすぐ冬が来る。

夜中に、眠れなくなってブランデーで暖を取っていると、彼が来る。

「僕、もうすぐここからいなくなっちゃうんだ。」
「そう?」
「ほら、冬が来るだろう?海から強い風が吹き込んでくる日、僕は、風にさらわれて行ってしまうよ。」
「一杯飲む?」
「僕、飲めないよ。ほら、こんな体だから。」
「あんたって、ほんとつまんないのね。」

私は、自分が泣いているのに気付く。

「来年になったら、帰って来る?」
「多分、もう帰って来ないよ。バラバラになって、どこに行くか分からない。」

私は、手を伸ばして彼を抱き締めようとするが、彼は、後ずさる。

「さわっちゃ駄目だよ。ほら、僕こんな体だろう。あなたの手の中で崩れちゃうよ。」
「まったく。あんたって、ほんとうにほんとうに、つまんない子ね。」

--

翌朝、開け放たれたままの玄関がバタバタと音を立てているので、私は目覚める。

慌てて家の中を捜すが、砂の少年はもうどこにもいない。

冬の訪れを告げる、強い風が浜辺を駆け回っている。

「いなくなっちゃったんだ。」

なんで、いつも失くしたものは、大好きだった気がするんだろう。

私は、強い風の中、浜辺に出る。くだらない男が、また、帰ってくると思って待っていなくちゃ、私はここにいて生きている意味がない。手中に残った砂を握り締めて、「まだ、こぼれちゃいない。」と言い聞かせている。


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