セクサロイドは眠らない

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2001年08月23日(木) 「あなたにも傷、付けてあげるよ。」

その学校に赴任して、2年目の夏、少年は転校して来た。学校は、荒れていて、まだ若い女性教師の注意など誰も聞かなかったので、私は教師を続ける自信を失いかけていた。

その少年は、いつも体に傷があった。夏でも、長袖のシャツを着て隠そうとしているが手首や首筋がうっすらと赤くなっているのは、どんなに隠そうとしても目に入る。私は、いじめか虐待ではないかと心配して、その少年の様子を見守った。

少年は、美しく、そして、いつも一人だった。友達らしい友達もいないようだ。

--

私は、ある日、少年を進路指導室に呼んだ。

「ねえ。腕を見せてくれない?」
「腕ですか?」
「ええ。」
「どうして?」
「あなた、いつも怪我しているでしょう?」
「へえ。先生、そんなところまで見ててくれてんだ。意外だな。」

少年は美しく笑った。

「いいから、見せなさい。」
「はいはい。」

少年は、シャツを脱ぎ捨てた。

私は、息を飲んだ。

その、白くしなやかな体は、かさぶただらけで、あちこちに傷跡があった。

「ねえ。これ、一体?」
「何でもないです。」
「何でもない、じゃないわよ。誰かにやられたんでしょう?」
「誰かって?」
「誰か、大人の人か、同級生か・・・」
「まさか。つまらない心配しないでください。これ、全部、自分でやったんですよ。ね。どこも、自分の手の届く場所しか、傷がついてないでしょう?」
「ええ。でも、どうして・・・?」
「どうしてだと思う?」

少年は、私の手首を掴むと、傷口に私の手を当てる。

耳元で、少年の息が少し荒くなる。

私の指に、少年の新しい傷口から出る血がついたのを、少年は、舐める。

「やめて。」
「僕が気持ち悪い?」
「え?」
「僕が気持ち悪いんでしょう?」
「そんなことないわ。」

その時、そう答えたのは、教師としてだったのか。

--

少年は、夜、私の部屋を訪ねて来た。

「ねえ。僕のこと、好きでしょう?」
「何、言ってるの?」
「僕の傷、見ても嫌がらなかった。」
「そりゃ・・・。」
「あなたにも傷、付けてあげるよ。」
「やめなさい。」

少年は、ナイフを取り出す。美しく磨がれたナイフ。

少年は、私の体を抑えこんで口づけする。

「おねがい。」
私は喘ぐ。

「血の匂い。好きでしょう?僕ね。先生の事好きだよ。先生ね。時々泣きそうな顔してるでしょう?僕達が授業聞かなくて。そういう時、僕、すごく興奮するんだ。先生のこと考えてるとね。先生のこと、切り刻んでみたくなる。先生の血が見たくなるんだよ。だけど、そんなこと言えないからさあ。僕、自分の体に傷を付けるんだ。」

ナイフの刃が、私の腕を滑る。

ヌルリとした血を感じる。痛いけれど、私はホッとしたような感覚に捕らわれる。

「やっぱり、先生、こういうのイヤじゃないんだ?」

私には答えられない。恐怖で体が動かないのだが、同時に、興奮が体を渦巻く。少年は、私の傷を舐める。

「先生の血、おいしいよ。」

長い時間の末、私は、血まみれになって、だんだん動く力をなくして。

「先生の中に出しちゃっていいかな。」
好きにして。あなたのしたいように。

私の剥き出しの内臓に、少年は何度も射精する。

私の意識は、私の肉体を離れて、それを眺める。

ずっとこうして欲しかったのかもしれない。と思った。

闇は闇を呼び、血は血を呼ぶ。


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