セクサロイドは眠らない

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2001年06月11日(月) 埋めることで

事務所は、蒸し暑く、私はハルナの顔をじっと見ていた。赤く腫らした目。

「もういいから、今日は帰ったら?」
「いえ。大丈夫です」

ハルナは、午前中はそう言ったものの、午後になって、ついに耐え兼ねたのか「すみません。気分が悪いので帰らせてください」と言い、目を合わせないようにうつむいたまま、事務所を出て行った。

恋人に別れ話を切り出したものの、いざとなると、てんで踏ん切りがつかないのはハルナの方だったみたい。多分、昨日の言葉は取り下げて、何もかも許してとひざまづき、あの暴君の言い成りになるのだ。また明日は、体のどこかに新しい痣を作って仕事に出てくるのだろう。

「寂しい」とか「孤独」とか言う感情は、全くもって不便なものだ。

効きの悪いエアコンのスイッチを切って、事務所の鍵を締める。

--

夜、私はドアを開けて、呼び出した「誰か」を部屋に迎え入れる。
「ねえ、欲しかったのよ」

「誰か」の首に腕を回して、私は甘えてみせる。こうやって、甘えてみれば、自分にも、少しは暖かい血が流れている気がする。

心のほうは時給自足で大丈夫。体の穴は、温かい肉の物で埋めなければどうにもならない。「血のようなもの」が体を巡り始める。

--

電話が掛かって来る。
他の「誰か」かもしれないし、ハルナかもしれない。私は、目の前にいない人間のことはすぐ忘れてしまう。顔や声の記憶は曖昧だ。多分、私の唯一、暖かくて湿った場所だけが自分のことを覚えている。私は、ジャックを抜いて、「誰か」のいるベッドにもぐりこむ。「誰か」は、もう、熱くなって、私の体内を埋めてくれる。

「ああ。そこ・・・」
思わず、声をもらす。

私は、そのためにこそ、生まれて来たのだから。一番愛に近いところにいるドール。

今夜はずっと一緒にいてね。そんな言葉も言えるようになったドール。


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