”あの時”という曖昧な言葉で、いつも過去を独占してきた。 誰にも渡したくない。 正体を見せている振りをして、本当は布をたくさん被っていく様だったよ。 無力な自分を知っていたから傷や痛みで武装していたんだ。 得体の知れない寂しさや悲しさが込み上げても、未だに宥め切れない。 いつもひとりだと、相変わらず思う日々。 友達といても誰かといてもとても大切にされてても、ひとりなものはひとり。 誰かがいる、などと今更に自惚れたところで、生きれなくなるだけだ。 寧ろそんなことを出来なくなったのはもうずっとずっと前。 自分以外は他人、そう思うようになる前の話し。 神様の存在も未来の存在も運命の存在も、見えないのに信じてしまう危うさもあたしにはない。 ちゃんと今は昔より現実に近付いている。
さびしくてさびしくて、小さな頃を思い出す。 旅行で来た東京の、足下に広がる未知な世界。 明るくてあたしは、何度も窓に張り付いては見ていたよ。 いくつもの夜を感じた。 ひとりひとりの生活を、あたしがこうして今夜を見ていて、 こうして見ているあたしの夜の他に、無数の明かりの中でみんなが夜を生活していた。 それなのに今夜は3人の存在しか気付かなかった。 錆びれてしまった新鮮な世界、あたしはそういう物悲しさにとても死にたくなる。 あたしは子供じゃない。それでも子供だ。大人じゃないのなら子供なんだ。 それでも違う、自分の存在が見えない。
あと6日であたしは東京からいなくなる。 家に帰るんだ。 それからあたしはうたうことをやめないよ。 今度は自分の力で、東京に出てくるんだ。 自分の稼いだお金と、培ったうたと、それを諦めなかった自分の心が、 目標にそぐったのなら、あたしはまた東京へ住みに来るよ。 いままで東京に住めてよかった。 見えるものになら希望をいだける。 あたしにはもっとたくさんのやることがある。 それをこなしてちゃんとする。 力を入れずにあたしは自分のあるだけの思いで頑張るよ。 さようなら。 同じような人間にはなりたくなんてない。
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