父親が、嫌い。 そんな事を云ったら、申し訳ないんだけど。 嫌い…というより、こわい。 声がこわい、存在が。 一緒の部屋にいるだけで身体が緊張して、唾も上手く飲み込めなくなる。
学校に行けなかった頃。 冷たく、固い雑誌で、たくさんたくさん殴られた。 以前から妹よりあたしの方がそういうの、対象だったから。 そして、冷たく見下ろしながら、 『お前は、病気だ』 そう、いった。 あたしが、ビョウキ? 何の病気? 無意識にガラスの箱を投げつけてた。 腕を切ってそこから、青い血がたくさん流れた。 あんなやつ、人間だなんて思いたくなかったから。
病院にも行った事が有る。 精神科の。 結局、診察は受けずに帰ってきたのだけれど。 昼間の総合病院は混んでいて、受付にひとがたくさんいた。 人がたくさんいて、知らないひと、イヤで、恐くて、明るくて、壁際にずっといて。 そして順番が待てなくて、母親に『帰りたい』って云った。 その頃あたしは、母親と一緒の家にいた。 めったに誰も見なかったけれど。 母親に、病院へ連れて行かれたことが、あたしにとってショックなことで。 また、手を切った。 あたしは病気なんかじゃないよ。 たくさんたくさん、青い血が流れた。 あいつと同じ。 指の間を伝って、滑り落ちる。 それは気持ちが悪いほど生暖かく、ましてあいつと同じものが身体の中を流れているかと思うと、吐き気さえした。 これだけじゃない、この髪も、爪も、皮膚も、細胞のひとつひとつまで。 自分が嫌い。 部屋を暴れて、白いドアに血を塗り付けた。
母親は、陰であたしの悪口を言っていた。 祖母も、会うたびに全てをあたしの所為にした。 親戚も、世間の目を気にして、学校へ行かないあたしを責めた。 笑うことも、泣くことも、怒ることも、風邪を引くことも、存在すら、赦してはくれなかった。 自転車に乗れば、轢かれる蛇を思った。
死ぬ事しか考えられなかった日々。 今も、あたしの中に残ってる。
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