「静かな大地」を遠く離れて
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題:311話 チセを焼く11 画:歯ブラシ 話:あれでせいぜい豪放磊落に見えるようにふるまっているつもりなのだ
『静かな大地』読者に、どうあっても読んでいただきたいと思う副読本をご紹介。 もちろん『静かな大地』読者じゃなくても、ここにシンクロして下さる方は是非♪
■姉崎等『クマにあったらどうするか アイヌ民族最後の狩人』(木楽舎) 長年北海道の山野にクマを追ってきた姉崎さんへの聞き書き本。これは良い仕事だ。 版元の木楽舎というのは『ソトコト』誌を出している小黒一三氏のところで、最近 坂本龍一氏のDVDブック『エレファンティズム』を、月本裕氏と作ったところだ。 僕が北海道に住んでいるころの「自然」との距離感からすると、『ソトコト』誌の 醸し出す気分はどうも“しゃらくさい”感じがしていたのだけれど、再トウキョウ ライフも3年近くなる今や、すっかりフィットするようになってきてしまった感じ。
その版元にしては…というと何だけど、とても志の高い出版物になっていると思う。 構成者の片山龍峯氏の「あとがき」によれば、宮本常一の『忘れられた日本人』を 多いに参考にして叙述スタイルを探ったという。血縁的には半分アイヌ民族であり、 北海道の自然の中で人生を過ごしてきた姉崎さんを、宮本常一スタイルで聞き書き の対象とするというと、西東始先生が村井紀氏の言を引いて『忘れられた日本人』 のインフォーマントの恣意性(?)に言及するメールを下さったことをご紹介した のを想い出したりしつつ。いずれにせよ、読む値打ちのある話であることは確かだ。
朝日新聞の書評欄で新妻昭夫さんというウォレスの本の翻訳などをされている方が この本を紹介されていたので、読んだ方もいるだろう。少し引用させていただこう。
姉崎氏は「アイヌ猟師」を名乗っているが、父親は「福島からきた屯田兵」。 母方のアイヌ集落で、和人からもアイヌからも疎まれながら育った。尋常小学校 に三年間かよっただけで、十二歳からイタチ猟などで家計を支えた。一人で山に 入って地形をおぼえ、野生動物になりきって生態を観察し、大人たちの話を聞い てアイヌの狩猟の智恵を学んだ。みずからの自覚的な努力によってアイヌとして のアイデンティティーを確立した稀有な人物である。
さんざんに絶賛したところでなんだけれども、この本、書名がどうもいただけない。 「アイヌ民族最後の狩人」というのは副題ではなくて、姉崎さんの“肩書き”なの かもしれないけれど、なんだか表題も副題もどちらも内容とズレていて正鵠を射て いない感じだ。敢えて言えば、プロローグの「クマが私のお師匠さん」というのが 近い感じがする。実を言うと僕は姉崎さんとお会いしたことがある。それも北海道 で、春先の山にご一緒させていただく貴重な機会をいただいた。そのときのことは ここでも掲載した「ディープフォレストにつつまれて」に詳しい。三年前の今頃だ。 http://www.enpitu.ne.jp/usr2/bin/day?id=25026&pg=20010717
生活圏から概ねクマを駆逐して、さて我々はこれから何処へ行こうとしているのか? その問いに応えることの出来る人は、おそらくこの地上にはいないだろうけれど…。
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