「静かな大地」を遠く離れて
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2001年09月28日(金) |
明治という国家、はじまりと周縁と終焉 |
題:106話 札幌官園農業現術生徒16 画:煙管 話:この明治の御代には人に生来の貴賤はない
NHKの「金曜時代劇 山田風太郎からくり事件帖ー警視庁草紙よりー」 のオンエアーがはじまった。職場の食堂で遅い夕食を摂りながら45分 見てしまった。近藤正臣さんが川路利良を演じていてとても魅力的だった。 近藤正臣さんが明治や大正の時代物に出ると、いつもながら秀逸なのだ(^^) #それはそうと『お登勢』もこの枠だったし
この有名な原作は「維新負け組」を隠しテーマにしている。隠してないか。 明治初期は不平士族の叛乱や政争が続き、もはや「勝ち組」「負け組」 が混然となってわけがわからない状態になっている伏魔殿的な明治が舞台。 なんとなく先日書いた北海道開拓使とか薩摩「帝国」のテクノクラートとか そういう連想をしつつ。一冊興味深い本を紹介しよう。いつも“副読本”を 無闇に紹介しているように見られるが、実際は文庫、新書、新刊をメインに 入手しやすくて読みやすいものを厳選しているつもり。その禁を破って、 今日ご紹介するのは、地方流通出版扱いかな?
*西村英樹『夢のサムライ』(北海道出版企画)
手抜きします(笑)↓詳しくは田原さんにおまかせ♪ 『夢のサムライ』田原ひろあきさんの書評@「ポルケ?」 http://www.asahi-net.or.jp/~vl5h-thr/porque/review/t990304.htm
北海道出版企画 http://www.dokusho.co.jp/ad/kikakus/kikakus.htm#夢のサムライ
北海道や薩摩ローカルな悪い意味での「郷土史」本ではなくて、明治初年の 北海道という場でサツマのテクノクラートたちが蠢いていた、その様を活写 したノンフィクションとして面白い本です。リアルな手触りのある「歴史」。
僕が大宣伝している佐々木譲さんの『武揚伝』(中央公論新社)の難点は、 榎本武揚がバリバリの実在の人物であったこと、そしてそれにもかかわらず、 自伝を残していないこと、に発すると言っていいだろう。 ※以下の段落、激しくネタバレ警報!!!!!
だから読者は“史料に基づく評伝の小説仕立て”として読みかねない。 そこで「榎本公の後半生の話も読みたいぞ」という欲求が起こってくる。 これは小説家としての佐々木譲さんにとっては気の毒な「贔屓の引き倒し」 という面もある。つまり作劇上のラストシーンのカタルシスに関して観客の 多くが納得しなかった、ということも意味するからだ。 僕自身は地球儀と船のロマネスクで押し切った終章を愛しているけれど…。 作者の“落ち度”の面もあると思う。下巻の内戦に入ってからの描写への 力の込め方に、どこか小説家のクールな眼を離れた、評伝作家の熱のような ものがついつい、もしくは自覚的に(?)籠もっているように思われるのだ。 当然、読者の矛先は「過激な共和主義者」の属性を与えられているはずなのに 煮え切らない(かに見える)我らが主人公・榎本武揚へも向かうだろう。 中島三郎助の最期など迫真の描写なだけに、やり場のないモヤモヤしたものが 残る。シルンケのエピソードなどは、その“揺れ”の最たるものではないか? 踏み込めば、19世紀国際人である榎本公の思想は現在の人権思想とはズレる だろうし、お得意の国際法だって旧いものだ。オランダ贔屓の彼がオランダ領 東インドの存在をどう見ていたか、それとアイヌとの関係は?…などなど。 そのモヤモヤは、読者が現代の日本や世界にでもぶつけてくれ、というのは ひとまず禁じ手だとするならば、読者に“ガス抜き”の逃げ道を作ってあげる べきだろう。『エトロフ発緊急電』のラストが奇跡的に成功していたように。 ある種、あの志、あの風を継ぐ者をフィクショナルなキャラクターでいいから 配置しておくとか、巧者の佐々木氏ならやりようはいくらもあっただろう。 今回はあえてそういう途を採らず、“熱”に委せたということだろうか? それならば、それもよし。いずれ、僕が最高に面白く読んだ至福の読者である ことには変わりはないのだから。
そういう「作劇上」の問題の他に、図式として『武揚伝』世界から捨象されて いる存在がある。薩摩「帝国」と陰謀公家・岩倉と、そのお先棒担ぎの勝の顔 が前面に出ているが、長州についてはほとんど触れられない。 触れても図式がややこしくなるだけで、論点がボケるから、と言えばそれまで なのだが、明治維新の一つの肝は英国公使館焼き討ちとかやってたヤンチャな 志士たちを抱えていた長州が、開国論に転換するところだったりする。 *犬塚孝明『密航留学生たちの明治維新』(NHKブックス) という新刊が井上馨を中心にイギリス・コネクションの線から見た明治維新を 明快に描いてくれている。“ロマンティック”な回天神話ではなく、英国との 関係から説明されているので話がわかりやすい。密航のリスクを冒してでも事 を成す胆力、世界最強国にして帝国主義の卸問屋を選んだこと、こういう連中 が目前のサツマを中心とした新政府側に厚い層を成していたが故の敗北でも あったのだろう。『武揚伝』後に、逆側からの視点の着実な研究は勉強になる。
「国家」「近代」「文明」、そうしたものへの問いが明治維新期に榎本武揚を 渦の中心として巻き起こったとするならば、それがどう現在の自分たちに 流れ込んでくるのか、その中間項としての昭和史というものに関心がある。
*芳地隆之『ハルビン学院と満州国』(新潮選書) ドイツでベルリンの壁崩壊に遭遇した若手研究者による新鮮な視点で描き出す、 昭和・日本が直面した「文明の衝突」の実相。この人は新書書いて欲しい(笑) さもなくば早く新潮選書でもう一冊!(^^)
*福田和也『地ひらく 石原莞爾と昭和の夢』(文藝春秋) 満州国とか石原莞爾が登場する骨太かつシャープな本を待っていた。 雑誌に連載されているときから単行本化を心待ちにしていた分厚い新刊。 原稿用紙1800枚って、いったいいつ読めるんだろう(^^; 著者の『魂の昭和史』(PHP研究所)は簡潔にして要を得た好著です。 日本の近代史について見取り図が欲しいなら、結構読みやすいかも。
さぁ、明日は「ちゅらさん」最終回とオキナワについて書こうかねぇ。 …疲れるからやめとこうかねぇ(^^;
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