「静かな大地」を遠く離れて
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2001年09月25日(火) 牛馬の王国

題:103話 札幌官園農業現術生徒13
画:毛抜き
話:牛と馬にはそれほどの力があるのだ

開拓というと、この物語の明治初期を思い浮かべられるかもしれないが、
実際は戦後にも入植した人たちは沢山いる。

十勝の鹿追町という町に神田日勝記念館というミュージアムがある、
神田日勝という画家なども終戦のころに東京から北海道に入植している。
農業を営みながら絵をかいていた方で、昭和12年生まれ。
32歳で亡くなるまでに、特徴のある筆致で馬や風景などの絵を描いた。
数年前「日曜美術館」でも特集した(真野響子さんが司会のころ)が、
そのときゲスト出演したのは作家の古井由吉さんだったりする。

馬事公苑のそばにお住まいだという馬好きの古井さんも言われたとおり、
なんともいえない目をしているのが馬という生き物の魅力のひとつだ。
日勝の絶筆となった馬の絵(半身だけが描かれた未完の作品)でも、
目は不可思議にして尋常ならざる色合いを湛えて描かれている。
農耕馬が生活圏から消えて久しい現在でも、日高には競走馬たちが沢山
いるし、北海道が馬の国であることに間違いはない。

さらに牛の国でもある。
「ちゅらさん」の牛好きキャラ柴田さんの故郷は、北海道の別海町という
設定になっている。そういう台詞があった。
別海というのは酪農のパイロット・ファームが作られたところで有名。
乳価は安いし、雪印は傾くし、で酪農には逆風が吹いているようだが、
新鮮な生クリームの味を生かしたケーキなどを北海道で食べる幸福は、
なにものにも代え難い、個人的には。

タイトルで損しているが、開拓使のお雇い外国人エドウィン・ダンを描いた
赤木駿介『日本競馬を創った男 ーエドウィン・ダンの生涯』は、好著。
明治政権、とりわけ黒田清隆を筆頭とする薩摩閥は膨大な資金と人材を
北海道に投じた。しかし財政難と教科書でお馴染みの「官有物払い下げ事件」
の結果、開拓事業そのものが潰えていってしまう。あとは資源収奪型の産業
しか育ってこなかった、というと北海道史をあまりに冷たく矮小化しすぎか。
明治の最初の10年で注ぎ込んだ投資を、みすみす無駄にして事業を中断
してしまったのは事実だろう。かつて榎本武揚が夢みたように、オランダ
のような北国でも多くの人口を養えているのだから、エドウィン・ダンらの
事業が成就していれば、欧州の北国ひとつくらいの豊かな国が出来たはずだ。
アイヌ民族の静かな大地を簒奪しておきながら、そうした「成果」の一つも
残せなかったのは“犯罪の上塗り”ではありますまいか?

薩摩という江戸期からの「帝国」が、明治初期の北海道でどう振る舞ったか、
植民地支配に慣れたテクノクラートが存在したのではないか、というあたり
を、琉球支配と絡めて研究している学者さんとかいないものかしら?(^^;
彼らの「失敗」とその「責任」を、つまびらかに知りたい。
それは近代日本の行程そのものであろうから。
そして地球上のそこここで起こり、今も起ころうとしている事態だろうから。


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