「静かな大地」を遠く離れて
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2001年09月20日(木) ボストンから出撃せよ!(3)

題:98話 札幌官園農業現術生徒8
画:スナップ
話:「諸君はまことに長い腕を持たねばならぬ」

「ホントに極私的G−Whoアメリカ旅日記2000」

 2000年10月10日

 早朝チェックアウトを済ませる。翌日の夜の予約をしておく。
 確認をTELでするように言われて苦笑。
 サウスステーションのバスターミナルへ。ドーナツなど食べつつタイムテーブル
 をにらむ。Hyannisへ行ってNuntucketへ直行するか、欲張ってFairheavenを
 めざすか。しばらく待って冒険する方を選んでFairheaven行きのバスに乗る。

 Newbedfordという、万次郎storyにも出てくる捕鯨基地の隣町で降車すれば
 よかったのだけど、バス会社の車庫みたいな終点で降りてしまって難儀する。
 周囲は海辺の静かな住宅街。人影もまばら。
 アーリー・アメリカンの簡素な家とはこういうものか、というような手入れの
 行き届いた家と庭が並ぶ。ハロウィンの飾り付けが、どの家でも感心するほど
 細かく可愛らしく施されている。重い鞄を持ったまま歩き回る。
 辻のサンドイッチ屋で買い物をして、善良そうな家族にタクシーを呼んでもらう。
 “お困りの外国人”として扱われる。

 Fairheavenの町は結構立派な建物が集まった大きな村という感じ。
 Newbedfordとは橋で繋がっている。その海のひらけかたが何ともいい。
 名前の響きとともに記憶に残る街だ。こういう街に一日滞在するのも手ではある
 と思いつつNewbedfordへ。バスターミナルに戻るも策に困る。
 Hyannis行き直行という便があるのかどうかのアナウンスも貼り出されていない
 待合室。ウロウロしつつ先を考える。とても晴れてHighwayを走ると紅葉した
 樹間を滑って行くのが心地よい、そんな日をムダにボストンまで帰るのか?
 まだ時間も浅い。Concordにでも行こうか。なんにせよBostonで別のホテルに
 泊まるのは無しだ。Concordも宿の情報持ってないしなぁ、などと思い始めた
 ところへHyannis行きのBus! 慌ててTicketを買って乗り込む。
 Cape codへgo! 快適なドライブ。にしても何で観光地に人多いの?
 わりと早く氷河地形だというCape codに入ってHyannisに到着。辛くも大成功。
 
 HyannisはJFKの別荘もあったとかいう避暑地。東部の伊豆か。にしても季節
 外れのリゾート。北海道並みの寒さなのに海のリゾートは成立するのだろうか?
 広々とした別荘で犬とか飼いつつ暮らすのは快適だろうが。
 Y々木の小屋のような自宅を思う。あれとて周囲の公園などの空間スケールを
 日常的に持てれば、下手な住宅街の2DKに住むより心にゆとりはある。
 
 いよいよ海へ、Nuntucket島行きのフェリーボート。2h15min。
 すこぶる穏やかな海。さすがに甲板に居続けるには風が冷たい。ハーフコートに
 マフラーまでしても。海と空、入り江の家、ヨット。
 かつて捕鯨基地だった島へ。ガイドブックによると今は風致保存地区みたいに
 なっているそうだが、訪れる人などいるのだろうか、という疑問をよそに、
 船には高齢者層を中心にずいぶんと観光客たちが乗っている。
 
 Linn Margulis“Symbiosis Planet”の邦訳をチビチビ読む。
 彼女、Bostonの在住なのだ。カール・セーガンとのロマンスなど若い頃の
 エピソードも盛り込まれた啓蒙書の好企画。ま、「この惑星を旅する」ごっこ
 なんだけどね。にしてもNew Englandがここまでイケザワァな土地だとは
 みんな思うまい。ネパールやアラスカやブリティッシュ・コロンビアや
 オキナワや…そういう場所に行くより断然いまイケザワァな旅である。
 Hokkaidoへの補助線も引ける。そう、僕の思考の源基はそこにある。
 文明と自然、開拓、植民、人の暮らしの集合体の街、国が生成するということ。

 鯨はまたハワイイや土佐とも結びつつ室蘭を想起させる。『菜の花の沖』と
 『椿と花水木』を並べて『竜馬が行く』へ。そこにミーハーに『NY小町』
 みたいな世界を入れつつ榎本武揚や新渡戸稲造に思考がとぶ。
 そうすると北海道のみならず近代日本の植民地、占領地や日系移民との関わりの
 “手触り”が知りたくなる。一体なんなのだろう。
 カルチュアラル・スタディーズの本を読みかけてきたけど、世界史にもそれは
 言えて、結局ディレッタントになるしかないのか?
 巽孝之と奥出直人と高山宏をとりあえず読み直そうか。

 意味と視線の複合体めいたNuntucket島へと船は近づく。
 この旅の手法は明らかに僕の過去の自己模倣で、アラン島とダブリン、
 サントリーニ島とアテネを模している。かなり自覚的に。
 島は物理的に離れているがゆえに心身にもたらす効果がわかりやすい。
 夕方船で桟橋について宿を求める。旅の経験値が上がったというのか、
 アメリカという国が異郷感が少ないのか、どうもまだま遠くへ行きたくて…。
 
 宿を決める。60$の素敵なB&Bの部屋。やはりベッドは悪くないなぁ。
 家具もアンティーク系。ちょい屋根裏で天井が変則的。あーあ、北海道で
 ペンション経営してオーバーオール着て森のキノコ風ハンバーグでも自慢
 しようかなぁ。ウソ。
 サントリーニ島もかくや、という感じで夏のハイシーズンにはリゾート滞在客
 でにぎわうと思しき街路。グレーの壁の統一規格の古い街並みに、
 服飾、貴金属、アンティークなど物欲系の店が建ち並んでいるが、
 軒並みほとんどが17時で閉まる。Tシャツは欠かせないので買っておく。
 ほとんど旅先が劇場で買う青いTシャツ以外着ないという…。
 できたらバリ島みたいなデザインもののシャツも欲しいんだけど。
 あと家にアイロンとアイロン台を買おう、とかよくわかんないことを考えつつ。

 夕食はクラム・チャウダーとサラダとVielのMarsara風とカルベネのワイン。
 満腹。隣席のアメリカ人老夫婦の奥さんのほうが話しかけてくる。
 一人もんの東洋人の図。


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