「静かな大地」を遠く離れて
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2001年06月29日(金) 移民文学としての『静かな大地』

題:18話 煙の匂い18 
画:枝豆
話:北海道行きをめぐる稲田家中の事情を俯瞰

なるほど、「移民文学」が可能ではないか!・・・、
非常に意識的にそういうことを長年考えてこられたのだろう、御大は。
『マシアス・ギリの失脚』の時は南米のガルシア・マルケスみたいなのが
太平洋を舞台にして書けないものかな、という発想からだったようだし。
#余談。イッセー尾形さんが好きで、以前よくライブを観ていたのだが、
たしか『むくどり〜』で御大も那覇で観られたというネタで「移住作家」
というのがあった。なんか笑える(^^;

『花を運ぶ妹』のタイトルだけ知ったとき、当時「HP池澤御嶽」のBBS
には書いたが、僕の内容デッチ上げ予想は沖縄ハワイイ移民の物語だった。
90年代後半の御大の仕事の内容、星野道夫のアラスカに対して自覚的に
ハワイイの仕事をしていた感のあること、“沖縄という宿題”を正面からは
やらないだろうけど、ある種それに応える形になるのではないかという邪推、
などなど考えて、あとは「妹の力」や「おなり神」の連想、“運ぶ”という
語感が太平洋の海を脳裏に拡げたこと、例えばキー・モチーフを短編の
『骨は珊瑚、眼は真珠』所収の「眠る女」と表題作あたりから育てて・・・
なぁんてことを期待していた。なのでバリ島は結構意外だった。

『未来圏〜』ではアラスカの対偶みたいな位置づけで登場してはいたけど。
バリ島は記号として登場したときの磁場が強すぎてイメージが消費されすぎ
の感があったので、なかなか扱いが難しいのだ。
“欧州文化vsアジア文化”の短絡的図式にハマリかねないロケーション。
伊藤俊治『ジオラマ論』(ちくま学芸文庫)などを読むと、正統に律儀な
欧州人目線からのバリ島へのハマリ方が、手際よく追体験できて面白い。
#バリ島 のリゾートホテルでヴァカンスを過ごすのは正直言って快楽だけど
 なかなか欧州人のようには様にならないのが哀しい(^^;

さて、“北海道移民の末裔・池澤夏樹”が書く「移民文学」の目論見、
ほんとうは2000年あたりに書かれるべきだったはずの“沖縄という宿題”
をやり過ごした御大が、ライフワークたるべき北海道に前倒しして着手した
のだ、という決めつけの上に決めつけを重ねたような深読みをしてみる(笑)

そうそう、「100冊」にもチラホラと見えて、お勉強不足の僕が無手勝流で
理解せずに援用しようとして出来ないでいる、「帝国と植民地」みたいなネタ
への関心に応えてくれるのが川村湊先生。なんと公式HPが出来てました。
※「川村湊公式HP」 http://minato.kawamura.ne.jp/

ちなみに、そういうネタに言及する人たちの理論的バックボーンの大元は、
エドワード・サイード『オリエンタリズム』(平凡社ライブラリー)らしく、
大学時代に図書館で借りたりしたことあるけど、大著でとても読めず(^^;
ちゃんと読んでおけば帯広畜産大学の斉藤先生のように感激したのかも(;_:)
で、サイード氏らの学問的波紋が「ポストコロニアル」なる概念となって
ある小さからぬムーブメントになっているようだ。ま、学界という「業界」
の細かい諸事情を精査するほど学も余裕もないけど、そういう理論的知恵と
関心を持った若手の優秀な学者が、日本と周辺地域との間の「歴史」について
マトモな見識を育んでくれたりしないものか、と他力本願。
※「ポストコロニアリズム・ニュース」 
           http://www.orig.com/~msano/index.html

よくわかりませんが、以前にもお名前を出した小熊英二先生の仕事なんて
画期的なものだと思うのです。『インド日記』もすごく面白そうで期待大(^^)          http://www.sfc.keio.ac.jp/~oguma/top.html
しかし筑波でラシュディ『悪魔の詩』翻訳者の五十嵐一先生が何者かに
刺されて亡くなるという、奇怪で恐ろしい事件も昔ありましたねぇ。
まだ今ほど物騒なアノミー状態以前の日本での出来事で印象に残ってます。
良い新書を書く人でもありました。“枠の中の思考実験としての小説”という
前提を共有しない文化の担い手が、地球上には大勢居るわけですな。

そんなこんなで今日垣間見えたポイント。
利発だが早世したらしい兄・三郎をめぐる物語として、アイヌ話が展開する
ことが仄めかされています。さてどこまで行けるのか、緊張したりしてます(^^;
移民文学とは、いきおい異文化間コミュニケーションの物語でもあるわけです。
#冒険小説リーグから船戸与一『蝦夷地別件』(新潮文庫)を強力オススメ、
 クナシリ・メナシの蜂起をめぐる臨場感あふれるフィクション巨編です。


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